ビジネスQ&A
銅合金の快削リン青銅のバー材(C5441)、鋳物の砲金(CAC401)や、黄銅(C3604)の加工品を製造しています。顧客からEU向け電気機器に組み込むので、EU RoHS指令に適合させるために鉛の含有率を4%以下にする要求がありました。在庫品を測定したところいずれも実測データは4%未満でした。適合宣言をしてよいでしょうか。
2021年 2月25日
弊社は銅及び銅合金の金属部品加工会社です。
製品は銅合金の快削リン青銅のバー材(C5441)を加工した製品や、委託加工した鋳物の砲金(CAC401)の仕上げ加工している製品もあります。一部ですが、黄銅(C3604)の加工品も一部あります。
顧客からEU向け電気機器に組み込むので、EU RoHS指令に適合させるために、鉛の含有率を4%以下にする要求がありました。
在庫品を測定したところいずれも実測データは4%以下でした。
適合宣言をしてよいでしょうか。
回答
JIS規格による銅合金の鉛成分は、C5441は3.5~4.0%、CAC401は3.0~7.0%、C3604は1.8~3.7%です。
C3604とC5441はEU RoHS指令に適合しています。
CAC401は、規格の幅で4%を超える可能性があります。
しかし、一般的にメーカーの基準は、3.5~4.0%/3.0~7.0%のような広がりはなく、狭くなっています。
JIS規格での順法保証はできないのですが、貴社のサプライヤにミルシート(Mill Test Report, Mill Test Certificate)を要求し、順法のエビデンスとすることができます。多くの場合には、同一メーカー品であれば、バラツキは大きくありません。
実測データは4%以下ですので、測定試料の納入履歴を確認し、継続的に入手することや受け入れ検査を適切に行うことで、適合宣言は可能になります。
なお、EU RoHS指令に適合させるために鉛の含有率を4%以下の基準は見直しが進行しており、2021年8月に調査報告がだされます。
また、C5441、CAC401とC3604の鉛フリーの代替材も規格化されています。
代替材での試作をお勧めします。
1)銅合金の化学成分
貴社製品の材料の化学成分は以下となっています。
快削リン青銅のJIS H 3270 C5441 の化学成分は以下となっています。
鉛(Pb)3.5~4.0%
亜鉛(Zn)1.5~4.5%
錫(Sn)3.0~4.5%
燐(P)0.01~0.5%
銅+鉛+ 亜鉛+錫+燐 99.5%以上
砲金(青銅)のJIS H5120 CAC401の化学成分は以下となっています。
銅(Cu)79.0~83.0%
錫(Sn)2.0~4.0%
鉛(Pb)3.0~7.0%
亜鉛(Zn)8.0~12.0%
快削黄銅のJIS H 3250 C3604の化学成分は以下となっています。
銅(Cu)57.0~61.0%
鉛(Pb)1.8~3.7%
鉄(Fe)0.5%以下
亜鉛(Zn)残部
鉄+亜鉛 1.0%以下
2)遵法保証
RoHS指令(2011/65/EU)の附属書III(除外用途) 6(c)では、銅合金中の鉛は4%まで含有の除外を認めています。
従って、C5441 B及びCAC401は、規格の幅により4%を超える可能性があり、EU RoHS指令に適合しているとは言い切れません。C6804は要求に適合しています。
しかし、一般的にJISの基準は、多くのメーカーに適用できるように、広めになっています。個々のメーカーの基準は、3.5~4.5%/3.0~7.0%のような広がりはなく、狭くなっています。
JIS規格での順法保証はできないのですが、貴社のサプライヤにミルシート(Mill Test Report, Mill Test Certificate)を要求し、順法のエビデンスとすることができます。
貴社がリン青銅をメーカーから直接購入(インゴット単位)していればミルシートは信頼性が高くなります。商社的な材料卸店から端材を購入している場合は、ミルシートのコピーとなります。この場合は、文書管理の仕組みの信頼性がないとミルシートのコピーの信頼性が薄れます。ただ、多くの場合には、同一メーカー品であれば、バラツキは大きくありません。
蛍光X線分析装置により短時間で測定できますが、ミルシートで適合宣言する方式をお勧めします。この方式は、RoHS指令の整合規格(EN IEC63000:2018 (EN50581:2012の置き換え規格))で認められているものです。
実測データは4%以下ですので、測定試料の納入履歴を確認し、継続的に入手することや受け入れ検査を適切に行うことで、適合宣言は可能になります。
この管理の手順は確立し、文書化しておくことをお勧めします。文書化といっても、箇条書きや図示でもよく、顧客要求で開示できるようにしておくことが肝要です。
RoHS指令の適合宣言は、仕組みで保証します。
3)除外の延長の検討状況
合金中の鉛は4%まで含有の除外規定の見直しが進行中です。
附属書IIIの適用除外項目は、2021年7月21日に白紙になります。改めて基本的に次の5年間の適用除外が新たに設定されます。2021年7月21日の除外項目は2020年7月頃から順次案の発表、パブコメ、告示の手順で決定されますが、作業が遅れています。
附属書III 6(c)(銅合金中4%まで鉛の含有の除外)は、EU 環境総局が外部の“Oeko-Institut ”等に調査研究を委託しています。直近では、6(c)は6(a), 6(a)-I, 6(b), 6(b)-I,6(b)-II, 7(a), 7(c)-I and 7 (c)-IIと一緒にしたPack 22プロジェクトとして、2020年10月28日に開始され、2021年8月27日に終了予定です。 注1)
附属書IIIの白紙に戻す期限の2021年7月21日を超えての調査研究です。除外項目から削除(附属書IIIから削除)の場合は、決定後少なくとも1年、最長1年半の猶予期間が認められます。
4)代替材
快削リン青銅の需要は多いので、RoHS指令の対応品として、伸銅メーカーが独自の仕様で、 鉛(Pb)を4%未満に管理した材料をC5441相当材として作っています。
C5441 Bには、カドミウムの基準が入っていませんが、カドミウムを100ppm未満の保証するRoHS指令適合仕様品も出回っています。
CAC401のRoHS指令の対応品の確認はできていません。
一般真鍮材では、快削性のための添加物質として、シリコン(Si)やビスマス(Bi)を入れた材料が開発されJIS材になっています。
JIS H 3250 C6804(快削黄銅)の化学成分は以下となっています。
銅(Cu)57.0~61.0%
ビスマス(Bi)1.8~3.7%
錫(Sn)0.1~3.0%
燐(P)0.2%以下
鉛(Pb)0.01~0.10%
鉄(Fe)0.7%以下
カドミウム0.0075%以下
亜鉛(Zn)残部
JIS H 3250 C6931(快削黄銅)の化学成分は以下となっています。
銅(Cu)74.0~79.0%
ビスマス(Bi)0.05%以下
シリコン(Si)2.6~3.4%
錫(Sn)0.3~0.7%
燐(P)0.04~0.15%
鉛(Pb)0.09以下
鉄(Fe)0.1%以下
カドミウム0.0075%以下
マンガン(Mn)0.1%以下
亜鉛(Zn)残部
C6804及びC6931は、共に鉛は0.1%(1,000ppm)以下、カドミウムは0.0075%(75ppm)で、附属書IIIの適用除外項目から外れても適合します。
化学成分的には、C6804は鉛の代替としてビスマスを使用し、C6931は鉛の代替としてシリコン(珪素)を使用しています。
ビスマスはレアメタルである、有害性があるなどが言われています。
いずれにしても、代替材は現在採用されている材料と化学成分が違いますので、加工性が異なると思います。
試作などで代替可能性を確認しておくこともお勧めします。
引用情報等:
- 回答者
-
中小企業診断士 松浦 徹也
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