ビジネスQ&A

ErP指令でディスプレイに使用が禁止された「ハロゲン化難燃剤」の対象物質を教えてください。

2021年 2月22日

ErP指令のディスプレイに関する規則(EU)2019/2021の附属書IIのD.4.で、ハロゲン化難燃剤の使用が禁止されましたが、ハロゲン化難燃剤として対象となる物質名を教えてください。
RoHS指令との関係も教えてください。

回答

規則(EU)2019/2021(電子ディスプレーのエコデザイン要件)は、ErP指令((EC) 2009/125 エネルギー関連製品のエコデザイン要件:エコデザイン指令)の第15条(実施措置)の一つで、規則(EC) 642/2009(テレビのエコデザイン要件)の修正法です。

修正法の背景はEUの新たな戦略の「欧州グリーンディール」でそのアクションの「新循環経済行動計画」です。
新循環型経済行動計画は、以下の措置を提示しています。

  • 持続可能な製品をEUの規範とする
  • 消費者と公共購入者に力を与える
  • 資源を使用し、かつ、電子機器やICTのように循環性が高い“電池と自動車”“包装”“プラスチック”“繊維”“建築”“食品”“水”“栄養素”に焦点を当てる

規則(EU)2019/2021の「環境配慮設計」として、附属書II D項に「材料効率の要件」で材料のリサイクル性が要求されています。
D.5項にはEUのリサイクルの理念である廃棄物指令((EC)2008/98)第4条(廃棄物ヒエラルキー)の最優先事項の「a.物の発生抑制」を根拠した「修理の権利」があります。
D.4項にD.3項のカドミウムの制限に加えて「ハロゲン化難燃剤」の使用制限をしています。D.4項はD.2項で定義された50g以上のプラスチックを対象としていますが、重量のある筐体とスタンドが対象です。

ハロゲン系難燃剤については、附属書 I(定義)で、ハロゲン系難燃剤を「耐燃剤」または「難燃剤」として、意図的に使用してはならないとしています。
ハロゲン化された化合物のPBBやPBDEは、毒性が高いためにRoHS指令((EU)2011/65)によって制限されているが、古いディスプレイやディスプレイ以外はまだ許されています。
しかし、再生プラスチック中の非許可化合物の最大含有量の管理は費用効果がなく、その結果、リサイクルされことなく焼却される現状です。
リサイクルを目的に広く規制することを狙っています。

POPs条約、水俣条約や化審法では、「利用可能な最良の技術」(BAT)で対応を要求されています。BATは、「工業技術的・経済的に可能なレベル」まで非意図的混入物や非意図的副生成物を低減するもので、「自主管理上限値の設定」や「管理方法(分析方法、分析頻度等)」などを明確にするものです。

自主管理上限値とその設定根拠が、悩ましいところですが、一般社団法人日本電子回路工業会(Japan Electronics Packaging and Circuits Association)プリント基板のハロゲンフリー規格を制定しています。
ハロゲンフリープリント配線板用銅張積層板 -ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂 JPCA-ES03-2007では、以下の基準があります。
塩素(Cl)、臭素(Br)の含有率がそれぞれ0.09wt%(900ppm)以下で、その含有率総量が0.15wt%(1500ppm)以下としています。
一般的に難燃剤は%オーダーで含有させますので、一つのBAT基準の根拠になると思えます。

1.基本情報

規則(EU)2019/2021(電子ディスプレーのエコデザイン要件)は、ErP指令((EC) 2009/125 エネルギー関連製品のエコデザイン要件:エコデザイン指令)の第15条(実施措置)の一つで、規則(EC) 642/2009(テレビのエコデザイン要件)の修正法です。
修正法の背景はEUの新たな戦略にあります。フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、2019年12月の就任にあたり次の「2019年~2024年の欧州委員会の6つの優先課題」を発表しました。ErP指令の改定は、EUの新たな戦略によるものです。

  1. 欧州グリーンディール(A European Green Deal)
  2. 人々のための経済(An economy that works for people)
  3. デジタル時代にふさわしい欧州(A Europe fit for the digital age)
  4. 欧州的生き方を推進する(Promoting our European way of life)
  5. 国際社会でより強い欧州となる(A stronger Europe in the world)
  6. 欧州の民主主義をさらに推進する(A new push for European democracy)

環境関係は欧州グリーンディールが基本政策となります。
欧州グリーンディールは、EUからの温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、つまりEUを世界で初めての「気候中立な大陸(Climate-neutral Continent)」にするという目標達成に向けた、EU環境政策の全体像を示したものです。
欧州グリーンディールは、持続可能な成長のためのヨーロッパの新しいアジェンダで、ロードマップとアクションを示しています。注1)
これを受けて、新循環経済行動計画を採択しました。注2)
新循環型経済行動計画は、以下の措置を提示しています。

  • 持続可能な製品をEUの規範とする
  • 消費者と公共購入者に力を与える
  • 資源を使用し、かつ、電子機器やICTのように循環性が高い“電池と自動車”“包装”“プラスチック”“繊維”“建築”“食品”“水”“栄養素”に焦点を当てる
  • 廃棄物の削減を図る
  • 人、地域、都市のために循環性を機能させる
  • 循環経済に関する世界的な取り組みを主導する

詳細内容は2020年3月11日に告示(COM(2020) 98 final)されています。注3)
2.1.持続可能な製品の設計で「エコデザイン」の重要性が記載されています。
ErP指令)は、「エネルギー効率とエネルギー関連製品の循環特性の調整に成功している」とし、「エコデザインの枠組みを可能な限り幅広い製品に適用できるように、エネルギー関連製品を超えてエコデザイン指令を拡大し、循環性を実現する」必要性を説明しています。
対応として、9項目を示していますが、電気電子機器関連では、以下の項目などが重点になります。

  • 製品の耐久性、再利用性、アップグレード性、および賠償性の向上、製品内の有害化学物質の存在への対応、およびエネルギーおよび資源効率の向上
  • 製品のリサイクルコンテンツを増やすと同時に、その性能と安全性の確保
  • 再製造と高品質リサイクルの実現

2.ErP指令

C(2019) 2120 – 家庭用冷蔵庫および別館用のエコデザイン
C(2019) 2121 – 光源と附属書のエコデザイン
C(2019) 2122 – 電子ディスプレイおよび別館用のエコデザイン
C(2019) 2123 – 食器洗い機および別館用のエコデザイン
C(2019) 2124 – 洗濯機および洗濯機乾燥機および別館のためのエコデザイン
C(2019) 2125 – モーターおよび別館用エコデザイン
C(2019) 2126 – 外部電源および附属書のエコデザイン
C(2019) 2127 – 直販機能と別館を備えた冷蔵庫用エコデザイン
C(2019) 5380 – 電力変圧器および別館用のエコデザイン
C(2019) 6843 – 溶接機器および別館用のエコデザイン

規則(EU)2019/2021はC(2019) 2122の公布版で、ディスプレイに使用禁止するハロゲン化難燃剤の規制がされました。注5)

3. ディスプレイに関する委員会規則(EU)2019/2021の要求

(1) 「エネルギー効率」要求

附属書IIに「エネルギー効率」要件があり、附属書Vにはベンチマークが示されています。基準は明確です。

(2) 「環境配慮設計」

附属書II D項に「材料効率の要件」で材料のリサイクル性が要求されています。
D.5項にはEUのリサイクルの理念である廃棄物指令((EC)2008/98)第4条(廃棄物ヒエラルキー)の最優先事項の「a.物の発生抑制」を根拠した「修理の権利」があります。
D.4項にD.3項のカドミウムの制限に加えて「ハロゲン化難燃剤」の使用制限をしています。D.4項はD.2項で定義された50g以上のプラスチックを対象としていますが、重量のある筐体とスタンドが対象です。
規制としては中途半端な感じがしますが、EuP指令の前文第16文節で「強制的要求事項とするより、業界による自主規制などの代替的手段の方がさらに迅速 に、あるいはある程度少ない費用で政策目標を達成できそうな場合には、かかる手段を優先すべきである。」が背景にあります。

「ハロゲン化難燃剤」の使用制限の背景は、前文第15文節で以下を説明しています。
ハロゲン化難燃剤の存在は、電子ディスプレイのプラスチックのリサイクルにおいて主要な問題である。
ハロゲン化された化合物のPBBやPBDEは、毒性が高いためにRoHS指令((EU)2011/65)によって制限されているが、古いディスプレイにはまだ見つかる可能性があり、ディスプレイ以外はまだ許されている。
再生プラスチック中の非許可化合物の最大含有量の管理は費用効果がなく、その結果、リサイクルされことなく焼却される。
筐体やスタンドなど、電子ディスプレイ内のプラスチック部品の大部分には、代替の解決策が存在し、リサイクルプラスチックのより高い収率を可能にする。
これらの部品へのハロゲン系難燃剤の使用は制限すべきである。

廃棄物指令((EC)2008/98 WFD)では、一般廃棄物と有害廃棄物の混合を禁止していますが、究極の対応は有害物質の非含有です。現時点は次善の策として、SCIPデータベースの情報から有害性を確認する仕組みが進行しています。注6)
広く利用されているハロゲン系難燃剤の利用の制限が目的です。

ハロゲン系難燃剤については、附属書 I(定義)で、ハロゲン系難燃剤を「耐燃剤」または「難燃剤」として、意図的に使用してはならないとしています。

30.「耐炎剤」または「難燃剤」とは、火炎の伝播を著しく抑制する物質を意味する。
31.「ハロゲン化難燃剤」とは、ハロゲンを含有する難燃剤を意味する。

ハロゲン系難燃剤の基準が明確ではありませんが、前記のErP指令の前文第16文節を考慮する必要があります。

4. BAT(Best Available Technology/ Techniques)

POPs条約、水俣条約や化審法では、「利用可能な最良の技術」(BAT)で対応を要求されていま。BATは、「工業技術的・経済的に可能なレベル」まで非意図的混入物や非意図的副生成物を低減するもので、「自主管理上限値の設定」や「管理方法(分析方法、分析頻度等)」などを明確にするものです。

自主管理上限値とその設定根拠が、悩ましいところですが、一般社団法人日本電子回路工業会(Japan Electronics Packaging and Circuits Association)プリント基板のハロゲンフリー規格を制定しています。
ハロゲンフリープリント配線板用銅張積層板 -ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂 JPCA-ES03-2007では、以下の基準があります。
塩素(Cl),臭素(Br)の含有率がそれぞれ0.09wt%(900ppm)以下で,その含有率総量が0.15wt%(1500ppm)以下としています。
一般的に難燃剤は%オーダーで含有させますので、一つのBAT基準の根拠になると思えます。

5.規則(EU)2019/2021とRoHS指令の関係

RoHS指令は、特定有害物質の含有規制で、ハロゲン系難燃剤PBB及びPBDEは特定されていますが、広くハロゲン規制ではありません。
ErP指令との関係は、WEEE指令((EU)2012/19)の第4条(製品設計)で、ErP指令のエコデザインが要求されています。

引用情報等:

回答者

中小企業診断士 松浦 徹也

同じテーマの記事