ビジネスQ&A

アメリカに輸出しているインテリア用品について、商社から、接着剤に関する遵法確認がきました。規制概要と対応を教えてください。

2021年 6月30日

弊社はアメリカにインテリア用品(キット)を商社経由で輸出しています。キットの構成品のいくつかは弊社工場で接着していますが、お客様が組立て時に使用する接着剤(チューブ型10g)を入れています。
その商社から、アメリカでは接着剤規制が強化されたが、適合しているかとの問い合わせがありました。
規制概要と弊社の対応を教えてください。

回答

アメリカのEPAは、2021 年 1 月 6 日付けの連邦官報で、有害物質規制法(TSCA)に基づいて、5 種類の難分解性、生体蓄積性および毒性(PBT)を有する化学物質を含有する製品および成形品の製造、加工および商業的流通を禁止および制限する最終規則を公表しました。
5種類のPBTの一つに「PIP (3:1):リン酸トリス(イソプロピルフェニル):CAS RN®68937-41-7」があります。
PIP (3:1)の用途として接着剤に使用されることがありますので、商社の確認事項はPIP (3:1)についての遵法確認と思います。

1.PBTとは

PBTはTSCA 第6条により特定されます。TSCAはCFR(the Code of Federal Regulations )“Title 15-COMMERCE AND TRADE”の“CHAPTER 53-TOXIC SUBSTANCES CONTROL ”に収載されています(注1)。第6条は§2605になります。
最終規則(Rule)はCFR(日本の政令、省令に相当)に収載されますが、最終ルールの告示では、措置の決定の経緯や趣旨などが記述されています(注2)。EUの法規制の前文に相当するもので、措置を理解するうえで重要な情報となります。
最終規則の検討段階では、公共ドックを設置し、機関のルール作成の取り組みに役立つ可能性のあるばく露と使用に関する情報の受け取りを容易にしました。EPAが受け取ったコメント(PIP (3:1) – EPA-HQ-OPPT-2016-0730)は以下にあります(注3)。
アメリカ法は判例主義で、法文の行間は判例で解釈されます。新法の場合は判例がありませんので、最終規則の前文などに記載されている経緯などが解釈を助けます。

なお、PBT 5物質は以下の物質です。
PIP (3:1) リン酸トリス(イソプロピルフェニル(68937-41-7)
decaBDE デカブロモジフェニルエーテル (1163-19-5)
2,4,6-TTBP 2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール(732-26-3)
PCTP ペンタクロロチオフェノール(133-49-3)
HCBD ヘキサクロロブタジエ(87-68-3)
()内数値は、CAS RN® です。

2.PIP3:1の規制

要求事項はe-CFRの§751.407に記載されています(注4)。

(a)禁止事項

(1)総則

本条の(a)(2)および(b)に規定されている場合を除き、すべての者は、2021 年 3 月 8 日以降について、PIP(3:1) 含有製品または成形品を含め、PIP(3:1)のすべての加工および商業的流通が禁止される。本条の(a)(2)および(b)に規定されている場合を除き、すべての者は、2021 年 3 月 8 日以降について、PIP(3:1) 含有製品または成形品を含め、PIP(3:1)のすべての加工および商業的流通が禁止される。

(2)PIP(3:1)およびPIP(3:1)含有製品あるいは成形品の特定用途に関する段階的禁止事項

(i)2025 年 1 月 6 日以降、接着剤および封止剤(adhesives and sealants)用途の PIP(3:1)、接着剤および封止剤用途のPIP(3:1)含有製品、および PIP(3:1)を含む接着剤および封止剤の加工ならびに商業的流通が、全ての者について禁止される。

(ii)2022 年 1 月 1 日以降、すべての者が、写真印刷用成形品(photographic printing articles)に使用する PIP(3:1)およびPIP(3:1)を含む写真印刷用成形品を加工して商業的に流通させることを禁止される。

貴社の製品は、(a)2(i)により、2025 年 1 月 6 日以降は、接着剤にPIP3:1含有していれば販売できなくなります。
貴社製品は該当しないと思いますが、除外規定もあります。

(b)除外

以下の活動は、本条(a)の禁止事項の対象外となる。

(1)次のものを加工および商業的に流通させること:

(i)米国国防総省の仕様要件を満たす代替化学物質が入手できない場合に、航空産業用または安全性および性能に関する軍の仕様を満たすための油圧作動油(hydraulic fluids)用途の PIP(3:1) や、そのような油圧作動油に使用するための PIP(3:1)含有製品、ならびに米国国防総省の仕様要件を満たす代替化学物質が入手できない場合に、航空産業用途または安全性および性能に関する軍の仕様を満たすための油圧作動油用途の PIP(3:1)を含む油圧作動油。

(ii)潤滑剤およびグリース中に使用される PIP(3:1)、潤滑剤およびグリース中で使用される PIP(3:1)製品、ならびに PIP(3:1)を含む潤滑剤およびグリース。

(iii)自動車および航空宇宙車両用の新規部品ならびに交換部品用途の PIP(3:1)含有製品、そのような車両のために PIP(3:1)が添加された新規部品および交換部品、ならびに PIP(3:1)が添加された新規部品および交換部品を含む自動車および航空宇宙車両。

(iv)シアノアクリレート接着剤(cyanoacrylate adhesives)を製造するための閉鎖系(closed system)における中間体用途の PIP(3:1)および PIP(3:1)含有製品。

(v)機関車(locomotive)用および船舶用の特殊エンジンエアフィルターに使用するための PIP(3:1)、機関車用及び船舶用(海洋用途、marine applications)の特殊エンジンエアフィルターに使用するための PIP(3:1)含有製品を含め、機関車用及び船舶用の特殊エンジンエアフィルターに使用するための PIP(3:1)、機関車用および船舶用の PIP(3:1)含有特殊エンジンエアフィルター。

(vi)PIP(3:1)を含む製品または成形品からのリサイクル用プラスチックであって、リサイクルの過程で新たなPIP(3:1)が添加されていないもの。

(vii)PIP(3:1)を含む製品または成形品からリサイクルされたプラスチック製の最終製品(finished products)または成形品であって、リサイクルプラスチック製の製品または成形品の製造中に新たなPIP(3:1)が添加されていないもの。

3.部分的執行停止処置(No Action Assurance)

2021年3月8日にOCSPP(化学安全汚染防止局)は180日間の執行中止( No Action Assurance)を公表しました(注5)。
公表文によれば、「2019年7月29日にPBT規則案についてパブコメで意見を募集し、それらを反映させて最終規則を1月6日に告示し、2021年3月9日から施行とした。
公示後に、電子機器、家電製品、半導体製造装置、重機やオフロード車両などについて、3月9日からの遵守について重大な懸念が提起された。
これらの利害関係者は、サプライチェーンを通じて既存の成形品を明確にし、代替化学品を見つけ、認証し、PIP (3:1)を含まない新しい成形品(部品など)又は複雑な成形品(組立品)を生産又は輸入するために、遵守日の延長を要請している。」とし、「遵守日の延長を要請している」としています。
この利害関係者の要請をうけて、これらの重要な品目のサプライチェーンが中断なく継続することを保証する一方、必要に応じて、これらの品目のための商業コンプライアンス日付における加工および流通を拡張するための措置を開発することとしました。
要約すると、利害関係者からEPAの想定外の意見が寄せられ、180日間かけて内容を確認するものです。貴社内の工程で接着した成形品(部品など)の義務は、検討中ということになります。

4.貴社の対応

社内で使用している接着剤および顧客使用接着剤について、PIP (3:1)を含有の有無を調査します。調査はサプライヤーにTSCA PBT規制による調査とし、PIP (3:1)を含有の有無の回答を求めます。
多くの接着剤メーカーは、TSCA PBT規制を承知していますので、的確な回答が得られると思います。調査の意図が伝わらない場合は、SDS(Safety Data Sheet 安全データシート)を入手し確認します。

引用情報等:

回答者

中小企業診断士 松浦 徹也

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