ビジネスQ&A
金めっき部品の金の産地の照会がありました。金めっきは外部委託加工をしていますが、金の産地照会の背景と対応を教えてください。
2020年 12月 7日
弊社は、金めっきを施した金属部品の製造企業です。金めっきは外部に委託しています。顧客(商社)からグリーン調達基準として、アメリカ証券取引委員会の調査として金の産地の照会がありました。金の産地の照会の背景と対応を教えてください。
回答
金の産地の照会は、アメリカの「金融規制改革法」第1502条による紛争鉱物に関する情報開示の要求です。
紛争鉱物とは、紛争地域で採掘された鉱物資源のことで、例えばコンゴ民主共和国で大量虐殺が行われ紛争が続いています。このような紛争を終わらせるために、武装集団の密輸などによる資金源を断つことを狙って、Tin(すず)、Tantalum(タンタル)、Tungsten(タングステン)、Gold(金)の3TGの使用を制限させるために、情報開示を求めるものです。
直接の義務者は、アメリカ内に上場している企業ですが、3TGの使用企業では、サプライチェーン管理を行うことが必要です。この管理はデュー・ディリジェンスで、企業に社会的に要求される当然に実施すべき注意義務および努力で、CSRの要素ですが、基準値があるものではありません。
デュー・ディリジェンスについては、経済協力開発機構(OECD)より発行されている「紛争鉱物に関するデュー・ディリジェンスガイダンス」があります。
アメリカ上場企業ではない、上場企業と直接取引(Tire 1)でもない、川中企業の取り組みとしては、ものづくり工程の管理を行うことで、購入品管理と社内工程が対象となります。管理のレベルはデュー・ディリジェンスですので、身の丈に合った仕組みで、顧客が納得できる取組みを行うことになります。
ご質問のケースでは、サプライヤーのめっき工程で使用している金電極板について、金電極板メーカーに「紛争鉱物フリー」の証明を依頼するように要請することになります。
基本は、顧客のサプライチェーン管理の枠組みでの要求ですので、顧客と相談するのが肝要です。
顧客(商社)の要求は、アメリカの「紛争鉱物開示規制」といわれる「金融規制改革法」(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)(注1)第1502条によるものと思われます。この規則は、アメリカ証券取引委員会が、金融規則改革法(ドッド・フランク法)に基づき紛争鉱物に関する情報開示の要求する規定で、2012年11月に施行したものです。
i.規制内容
アフリカ中央部のコンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo :DRC)(旧 ザイール共和国)で大量虐殺が行われ紛争が続いています。この紛争を終わらせるために、武装集団の密輸などによる資金源を断つことを狙って、DRCおよび周辺国で産出している「すず鉱石」、「コルタン」(タンタル鉱石)、「鉄マンガン重石」(タングステン鉱石)「金鉱石」の使用を排除するものです。対象は対象地域で採掘した鉱石とその精錬、精製した派生物で、紛争鉱物(conflict minerals)といわれます。
Tin(すず)、Tantalum(タンタル)、Tungsten(タングステン)、Gold(金)が対象ですので、3TGといわれます。
第1502条は、3TGの使用禁止ではなく、使用状況の公表義務ですが、株主の意向を考慮する自主的な制限すなわちCSR(Corporate Social Responsibility企業の社会的責任 )を求めています。
なお、DRCに隣接して「コンゴ共和国」がありますが、DRCとは関係がありません。
ii.規制対象者
この規制により紛争鉱物に関する情報開示が義務付けられているのは、証券取引所法第13条(a)または第15条(d)に基づきアメリカ証券取引委員会に各種報告書を提出している企業で以下の要件の企業です。
- アメリカ内に上場している。
- 紛争鉱物を製品機能または製品製造のために必要としている。
- DRC及びその周辺国で採掘した紛争鉱物を必要としている。
- リサイクル、スクラップでない紛争鉱物を必要としている。
アメリカ内に上場している日本企業は20社程度で少ないのですが、電気電子機器製品や自動車などをアメリカに輸出している日本国内の企業、また輸出企業に対して直接および間接的に部材などを納入している日本国内のサプライチェーン企業も、大きな影響を受けています。
紛争鉱物の対象がリサイクル、スクラップを含めていますので、悩ましいところです。
iii.企業の対応
規制対象企業は、3つのステップで定義される手順に従って調査を行い、紛争鉱物の情報を開示する義務を記載しています。
- Step1:自社の製造または製造委託する製品に対し、紛争鉱物が製品の機能または生産にとって必要かどうかを判断します。
- Step2:紛争鉱物の原産国がDRCおよびその周辺諸国であるか、またはスクラップないしリサイクル品であるか、を判断するため合理的な原産国調査をします。
- Step3:その紛争鉱物の起源と加工・流通過程の管理に関して、デュー・ディリジェンス(適正評価)を実施する必要があります。
デュー・ディリジェンスは、企業に社会的に要求される当然に実施すべき注意義務および努力で、CSRの要素ですが、基準値があるものではありません。デュー・ディリジェンスについては、経済協力開発機構(OECD)より発行されている「紛争鉱物に関するデュー・ディリジェンスガイダンス」(注2)があります。
OECDのガイダンスでは以下の5ステップをマネジメントシステムに組み込むことでデュー・ディリジェンスになることを説明しています。
ステップ 1:強固な企業管理システムの構築
目的:企業内の現行のデュー・ディリジェンスおよび管理システムが紛争地域および高リスク地域からの鉱物に関連したリスクに確実に対処するようにすること。
ステップ 2:サプライチェーンにおけるリスクの特定と評価
目的:紛争地域および高リスク地域からの鉱物の採掘、取引、取扱い、および輸出をめぐる状況にまつわるリスクを特定し、評価すること。
ステップ 3:特定されたリスクに対処するための戦略の構築と実施
目的:悪影響を防止もしくは緩和するため、特定されたリスクを評価し、それに対処すること。企業は本章の勧告を、他と協力し、共同の取組みを通じて実施することができる。
しかし、各企業は自らのデュー・ディリジェンスに関する責任は個別に持ち続けることになるため、共同作業を行う場合であっても常に、個々の企業に特有の状況を適切に考慮しなくてはならない。
ステップ 4:独立した第三者による精錬/精製業者のデュー・ディリジェンス行為の監査を実施
目的:紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンの精錬/精製業者のデュー・ディリジェンスを独立した第三者が監査すること、および、精錬/精製業者ならびに上流のデュー・ディリジェンス行為の改善に貢献すること。この時、業界主導に加え政府の支援および関連する利害関係者の協力を受けて設置される制度化されたメカニズムを通じて貢献が行われる場合を含む。
ステップ 5:サプライチェーンのデュー・ディリジェンスに関する年次報告
目的:企業が取る措置に対する公共の信頼を得るため、紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンスに関して公に報告する。
企業には、マネジメントシステムを構築して、サプライチェーンを管理することが求められています。情報交換ツールとしてIPC-1755(紛争鉱物データ交換基準)もあります。(注3)
iv.サプライヤーとしての取組み
アメリカ上場企業ではない、上場企業と直接取引(Tire 1)でもない、川中企業にとっては、第1502条は理解しがたいことです。第1502条をアメリカの経済制裁として、日本企業が関与する必要はないというような考え方より、CSRの取組み、あるいはSDGsのゴールNo.1(貧困をなくそう)へのフェアトレードの取組みとするなどで、「やらされ感」を無くすのも必要です。
具体的な取り組みとしては、ものづくり工程の管理を行うことで、購入品管理と社内工程が対象となります。管理のレベルはデュー・ディリジェンスですので、身の丈に合った仕組みで、顧客が納得できる取組みを行うことになります。当社の取組みを顧客にRoHS指令(2011/65/EU)のCEマーキングの技術文書のイメージで提示するのも一つの方法です。
ご質問のケースでは、サプライヤーのめっき工程で使用している金電極板について、金電極板メーカーに「紛争鉱物フリー」の証明を依頼するように要請することになります。
基本は、顧客のサプライチェーン管理の枠組みでの要求ですので、顧客と相談するのが肝要です。
参考情報
- 注1:https://www.congress.gov/111/plaws/publ203/PLAW-111publ203.pdf
- 注2:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/pdfs/oecd_ddg_jp.pdf
- 注3:https://www.ipc.org/ContentPage.aspx?pageid=IPC-Releases-IPC-1755#:~:text=%22IPC-1755%20is%20XML-schema%20based%2C%20which%20allows%20for%20more,and%20supply%20chain%20social%20responsibility%20manager%20at%20BlackBerry.
- 回答者
-
中小企業診断士 松浦 徹也
同じテーマの記事
- 中国RoHSで2019/11/1に施行される合格評定制度の対象製品について教えてください。また、対象外製品の修理用品は対象製品になるのでしょうか。
- 通関後の流通在庫になっている製品は、RoHSやREACHで禁止になった場合、市場から回収しなければならないのでしょうか。
- EU RoHS指令と同様の規制をしている国の情報は?
- SVHC候補物質非含有の証明は、付属書14収載物質の非含有証明として有効でしょうか。
- EU RoHS指令・附属書IIIの適用除外の有効期限について教えてください。
- RoHS指令に準拠したグリーン調達基準による調達は、REACH規則でも適合していると考えてよいでしょうか。
- 検査工程で使用する天然花崗岩製の石定盤もRoHS(II)指令の対象となるのか。
- CGPマークの貼付手続きを教えてください。
- 顧客にPFOA非含有をどのように説明したらよいでしょうか。
- 湾岸諸国の認証制度について教えてください。
- 人気アニメのキャラクタを使用している商品は、アメリカに輸出する場合に、子供向け商品と同じ玩具の基準に適合させる必要があるのでしょうか。
- EUへ輸出する電気電子機器の生産者としてのWEEE指令(廃電気電子機器指令)の義務を知りたい。
- フタル酸エステルの4物質(DEHP、DBP、BBP 、DIBP)が0.1wt%以上含有する場合のEU REACH規則の新たな制限の濃度の合計と分母の解釈を教えて欲しい。
- 金めっき部品の金の産地の照会がありました。金めっきは外部委託加工をしていますが、金の産地照会の背景と対応を教えてください。
- EU離脱後のUKでCEマーキングは継続使用できるか。
- 中国企業に加工委託をしていますが、顧客から中国の新VOC規制の対応状況の調査が来ました。新VOC規制の内容と当社の義務を教えてください。
- 産業機械の補用品として希塩酸(3%程度)を入れています。インドネシアやタイなどのアセアン諸国の希塩酸に関連する法規制を教えてください。
- CEマーキングに対応している工作機械に取り付けるセンサーと制御機器はインドRoHSへの対応が必要でしょうか。
- 台湾に化学品を輸出する場合の登録手順と営業秘密の取り扱いを教えてください。
- 製品に含有するCLSの情報提供の新たな義務について知りたい。
- 歯車材料のポリアセタールの使用制限の動向を知りたい。
- 顧客からIEC62474 に収載された物質は非含有とすることが要求されていますが、IEC62474に収載されている物質は、RoHS指令の10物質より多く、「鉛およびその化合物」のような物質名が特定できないものもあります。サプライヤーへの要求をどのようにすべきか教えてください。
- 日本では薬機法の雑品に相当し、薬機法の対象外のコロナ対策製品(除菌スプレー)をEUに輸出したいと思っています。EUでも雑品として、そのまま販売できるでしょうか。
- ErP指令でディスプレイに使用が禁止された「ハロゲン化難燃剤」の対象物質を教えてください。
- 銅合金の快削リン青銅のバー材(C5441)、鋳物の砲金(CAC401)や、黄銅(C3604)の加工品を製造しています。顧客からEU向け電気機器に組み込むので、EU RoHS指令に適合させるために鉛の含有率を4%以下にする要求がありました。在庫品を測定したところいずれも実測データは4%未満でした。適合宣言をしてよいでしょうか。
- UKのEU離脱後のREACH規則の義務はどのようになるのでしょうか。
- EU以外の国のPOPs条約のPFOAの規制動向を教えてください。また、コンタミは、25ppb以下の含有であれば、適合していると宣言できるでしょうか。
- 2020年12月から規制された中国VOC規制は、中国に輸出する電気電子製品の塗装や接着剤にも適用されるのかを教えてください。
- アメリカに輸出しているインテリア用品について、商社から、接着剤に関する遵法確認がきました。規制概要と対応を教えてください。
- EU RoHS指令の真鍮材中の鉛の除外の期限の延長はあるでしょうか。
- 中国向け車載用冷凍庫はCCCマークを貼付すればCGPマークは不要になるのでしょうか。
- 医療従事者用の白衣の抗菌加工品の認可基準は、EUと日本と同じでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大という非常時ですので、特例措置はあるでしょうか。
- 商品を発送するときの梱包材や緩衝材のEUとアメリカの有害化学物質規制の強化の動向を教えてください。
- 空調機の部品メーカーで、EU RoHS指令対応は済んでいます。中国RoHSの4種類のマーキングの違いを教えてください。
- カナダに電気電子機器を輸出する場合に、EU RoHS指令に適合していればよいでしょうか。
- ロシアの化学品ラベル表示とSDSの基準を教えてください。
- 米国PBT規制のPIP(3:1)の含有濃度は"0"にしなくてはならないのでしょうか。分母はEU RoHS指令と同じ均質物質でしょうか。
- ドイツにポータブルオーディオ機器を輸出することになりましたが、輸入者から電池と包装箱に関する適合宣言が要求されました。CEマーキングでは足りないのでしょうか。
- カリフォルニア州法の Prop 65の規制値のばく露量の確認方法を教えてください。 また、ばく露量を確認しないで警告表示をしてよいでしょうか。