ビジネスQ&A
顧客からIEC62474 に収載された物質は非含有とすることが要求されていますが、IEC62474に収載されている物質は、RoHS指令の10物質より多く、「鉛およびその化合物」のような物質名が特定できないものもあります。サプライヤーへの要求をどのようにすべきか教えてください。
2021年2月15日
当社は産業用機器に使用される制御ユニットを製造しています。ユニットに組み込む部品類はサプライヤーから購入しています。顧客からはEN IEC 63000:2018に準拠してIEC62474 に収載された物質は非含有とすることが要求されています。
IEC62474に収載されている物質は、RoHS指令の10物質より多く、「鉛およびその化合物」のような物質名が特定できないものもあります。
サプライヤーへの要求をどのようにすべきか教えてください。
回答
IEC62474はEU RoHS指令の整合規格EN IEC 63000:2018の引用規格です。遵法宣言はEN IEC 63000:2018の手順で、IEC62474の基準で行います。
材料宣言内容はIEC 62474:2012の 4.2.3に規定された要件を満たすべきであるとし、強制されていません。
材料宣言をIEC62474で行う場合には、遵法宣言対象の物質リスト(DSL)があります。
DSLには「鉛およびその化合物」のような記述した物質群があります。DSLに収載されている申告対象物質群に属する物質リストがRSL(Reference Substance List)に収載されています。
サプライヤーにIEC62474による遵法宣言の要求をchemSHERPA(ケムシェルパ)にすることで、各種ツールが事務局に用意され、法規制の改定などの維持メンテなどもchemSHERPAを利用することで効率的になります。
1.EN IEC 63000:2018とIEC62474の関係
IEC62474はEU RoHS指令の整合規格EN IEC 63000:2018の引用規格です。遵法宣言はEN IEC 63000:2018の手順で、IEC62474の基準で行います。
RoHS指令の整合規格 (BS)EN IEC63000:2018は、IEC 63000:2016をヨーロッパ標準(EN)に転換した標準です。IEC 63000:2016は、序文で「欧州規格EN50581:2012」に基づいているとして、従来の取り組みの継承を示唆しています。
EN IEC 63000:2018のサプライヤーの適合宣言の根拠文書として以下を示しています。
4.3.3 Collecting information(情報収集) (部分意訳)
製造業者の評価の結果、材料、部品、および/またはサブアセンブリに関する以下の文書が収集されるものとする(shall be collected)。
a)サプライヤーの宣言および/または次のような契約上の合意
– 中略
および/または
b)材料宣言:
– 特定の物質含有量に関する情報の提供
– 材料宣言内容はIEC 62474:2012の 4.2.3に規定された要件を満たすべきである(content should meet the requirements)。
および/または
c)分析試験結果:
– IEC 62321シリーズを用いた分析試験結果
4.3.3 情報収集では、文書を収集することは強制(shall)です。しかし、EN IEC 63000:2018とIEC62474の関係は、強制”shall”ではなく、自主的“should”になっています。すなわち、EN IEC 63000:2018はIEC62474の引用を強制していません。
a)、b)、c)の確証文書が「および/または(and/or)」で関連付けされており、a)、b)、c) がリスクに応じて組み合わせるとしていることに留意する必要があります。
リスクは、材料、部品、および/またはサブアセンブリに特定化学物質が含有する可能性とサプライヤーの信頼性から決めます。
2.IEC62474の要求
材料宣言内容はIEC 62474:2012の4.2.3項(IEC62474のデータベースで報告要件が必須として記載されている物質又は物質群)とされています。
3.2項の「報告要件が必須の物質又は物質群」の定義では、IEC62474の選定基準を満たしたデータベースに登録されている物質及び物質群」です。備考1で「これらの物質及び物質群」には、規定されている閾値を超えた場合に「必須」又は「オプション」のどちらかの報告要件がデータベースに収載されている」としています。
EN IEC 63000:2018はIEC62474:2012を引用規格としていますが、IEC62474は2018年11月に改版され、IEC62474:2018が最新版です。
IEC62474:2018は4.4.2項(報告要件が必須であるDSs及びDSGs)で2012年版の4.23項を受けています。
IEC62474のデータベースは、2018年版に準拠して構成されています。
報告要件が必須であるDSs及びDSGsがDSL(Declarable Substance List)に収載されています。DSLに収載されている申告対象物質群に属する物質リストがRSL(Reference Substance List)に収載されています。
「鉛及びその化合物」の「その化合物」がRSLに収載されています。
DSL及びRSLは公開され、Excelでダウンロードできます。また、RoHS指令の附属書III、IVの除外リストもExcel表でアップされています。
DSLの「鉛及びその化合物(Lead/Lead Compounds)は、以下になっています。
対象法令 |
閾値 |
---|---|
[EU] RoHS Directive 2011/65/EU and its amendments; |
0.1 mass% of total Pb in homogenous material |
[USA] Consumer Product Safety Improvement Act of 2008 PUBLIC LAW 110-314 |
0.01 mass% |
[USA] Consumer Product Safety Improvement Act of 2008 PUBLIC LAW 110-314 |
0.009 mass% of surface coating material |
[USA California] Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986 (Proposition 65) |
0.03 mass% of surface coating material |
[EU] Battery Directive 2006/66/EC; [China] Limitation of mercury, cadmium and lead contents for alkaline and non-alkaline zinc manganese dioxide batteries GB 24427-2009 |
0.004 mass% of battery |
[USA California] Electronic Waste Recycling Act (California RoHS) SB 20, amended by SB 50 and AB 575 |
0.1 mass% of total Pb in homogenous material |
RSLに示されているLead Compoundsは以下です。()内は、CAS RN ® です。IEC62474の3.23項の備考1では、RSLはDSGに対してすべての物質が記載されてはいないとしています。電気電子気機器で利用される典型的な物質リストのイメージです。
- Lead (7439-92-1)
- Lead (II) sulfate (7446-14-2)
- Lead (II) carbonate (598-63-0)
- Trilead bis(carbonate) dihydroxide (1319-46-6)
- Lead (II) acetate, trihydrate (6080-56-4)
- Lead selenide (12069-00-0)
- Lead (IV) oxide (1309-60-0)
- Lead (II,IV) oxide (1314-41-6)
- Lead (II) sulfide (1314-87-0)
- Lead (II) phosphate (7446-27-7)
- Lead (II) titanate (12060-00-3)
- Lead sulfate, sulphuric acid, lead salt (15739-80-7)
- Lead sulphate, tribasic (12202-17-4)
- Lead stearate (1072-35-1)
- Lead (II) chromate (7758-97-6)
- Lead chromate molybdate sulphate red (12656-85-8)
- Lead sulfochromate yellow (1344-37-2)
IEC62474 4.5.4(報告要件が必須であるDSs及びDSG物質)g)で、鉛化合物などの特定金属に関係しているが、物質名が不明あるいは営業秘密で開示されない場合は、その金属の重量%で宣言するとしています。
なお、IEC62474のデータベースの維持管理は、VT(Validation Team:検証チーム)62474が第5章の手順で、表1の選定基準で行っています。
選定基準では、例えば、DSまたはDSGは、法的要求事項が対象となりますが、電気電子機器に適用されないものは選定しないなどになっています。
DSLは約170エントリで、例えばREACH規則のCLSのすべてが網羅されてはいません。
3.chemSHERPA(ケムシェルパ)とIEC62474の関係
貴社のサプライヤーへの要求事項をchemSHERPAにすることで、法規制の改定などの維持メンテが効率的になります。
chemSHERPAのサプライヤーへの導入は最初に壁がありますが、教育ツール、多言語ガイド、セミナーが事務局に用意され、また、ネット検索すると導入時の入力代行会社もあります。これらの利用で壁を乗り越えればサプライヤー管理が楽になります。
chemSHERPAは情報伝達ツールです。伝達する情報要件やフォーマットをIEC62474のXMLスキーマに一致させています。JAMP AISとchemSHERPA(ケムシェルパ)の情報要件は同じですが、XMLスキーマ(ファイル構造)が異なります。AISは日本で独自に開発したXMLスキーマであり、IEC62474のXMLスキーマは国際標準です。AISでの情報伝達では、川上に遡ると海外のサプライヤーに要請することになりますが、難色を示されることがあります。
2016年11月にペルーで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力、Asia Pacific Economic Cooperation)の閣僚声明でchemSHERPAが以下のように言及されています。
我々は、サプライチェーンに沿った情報共有の重要性を再確認する。
特に、地域のサプライチェーンを通じた有害化学物質からのより大きな消費者保護の観点から、我々は、chemSHERPAに関する化学物質対話、及び製品中の化学物質に関する情報の共有を促進するその他のプログラムで行われる議論を受け入れる。
JAMP AISが日本標準として海外で普及しきれなかったのですが、chemSHERPAがAPEC内で公認されたことになり、国際標準化が進んでいます。
サプライヤーには、chemSHERPA のAPECでの位置づけや、国際標準であるIEC62474のDSLについての情報伝達とすれば、情報伝達の壁は低くなります。
chemSHERPAによる情報伝達は、「プル方式」と「プッシュ方式」があります。貴社が顧客からの要求により情報を提供する「プル方式」、貴社の用途から情報を提供する「プッシュ方式」があります。
「プル方式」(依頼/回答型)と「プッシュ方式」(提供型)の差異により、情報伝達のエリア(対応すべき法規制の種類)の設定が違ってきます。
顧客がプル方式であればエリアが指定されますが、プッシュ方式であれば、貴社がエリアを選択できます。この顧客への提供方式によりサプライヤーへの要求内容が違ってきます。
貴社の製品の固有の条件とサプライヤからの調達する材料や部品を考慮し、既存の仕組みを利用することをお勧めします。
- 回答者
-
中小企業診断士 松浦 徹也
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