ビジネスQ&A
EUへ輸出する電気電子機器の生産者としてのWEEE指令(廃電気電子機器指令)の義務を知りたい。
2020年 10月 21日
弊社はこれまで国内向けに電気電子機器の製造販売をしていましたが、EUの企業から引き合いがあり、CEマーキング対応はほぼ完了しました。
WEEE指令対応が必要との情報がありましたので、次項をご教示ください
質問1:WEEE指令の「ゴミ箱に×マーク」はCEマーキングの貼付時に行うものでしょうか。
質問2:リサイクル率等の目標値がありますが、弊社の義務はどのような内容でしょうか。
回答
WEEE指令は、EU委員会が加盟国に宛てた規制で、加盟国が指令に基づいて、国内法を制定します。
生産者の基本的な義務は、環境に配慮した設計とリサイクルです。
リサイクルをするために、一般家庭から廃電気電子機器を無償で回収する義務があります。
自ら回収しない場合は、輸入者登録を行い、認定された回収スキームに加入します。
上市前に、一般ごみと区別するために「ゴミ箱に×マーク:EN 50419 Crossed-out wheeled bin」を貼付します。回収スキームのラベル貼付も行います。
回収スキームに加入した場合は、費用負担が生じます。(デポジット)
リサクルの数値目標は、加盟国全体の目標です。生産者は環境に配慮した設計により、廃棄される電気電子機器を少なくすることが求められています。
このため、長寿命設計や修理性を高めることになります。EUでは、電気電子機器の購入者に「修理権」が新たに認める政策を施行します。
A:WEEE指令の運用の仕組み
最初にWEEE指令の運用の仕組みをご説明します。
WEEE指令は、TFTU(the Treaty on the Functioning of the European Union:EU運営条約)第192条(環境政策の措置及び行動計画)1項の立法手続きで制定されました。
TFTU第192条1項は、TFTU第191条(環境政策の目的及び原則)の目的を達成するための行動計画を決定するものです。
TFTU第191条2項で以下を規定しています。
連合の環境政策は、連合のさまざまな地域における状況の多様性を考慮に入れて、高度な保護を目指すものとする。 それは予防原則と予防措置を講じるべきであるという原則、環境汚染を優先的に根本的に是正すべき、そして汚染者が支払うべきという原則に基づくものでなければならない。
この文脈において、環境保護要件に対応する調和措置には、適当な場合には、加盟国が非経済的な環境上の理由により、同盟による査察の手続を条件として暫定措置をとることを認めるセーフガード条項を含めなければならない。
指令は、加盟国で国内法を制定して運用をしますが、TFTU第191条2項により、理念上の制約条件を考慮して、規制事項を設定できます。日本の環境法では、国の基準を都道府県条例で「上乗せ」「横出し」することができますが、このイメージです。
従って、WEEE指令は各加盟国により、若干の規制内容が異なりますので、輸出先毎に規制内容を確認する必要があります。
なお、RoHS指令は、TFEU第114条(加盟国法の平準化)の立法手続きで制定されていますので、加盟国での差異はありません。
例えば、罰金額は加盟国により通貨単位が異なりますので、指令では具体的な基準は示しておらず、加盟国が決定します。加盟国間で著しい差異があることは望ましくないため、加盟国の国内法の内容はEU委員会で調整します。
B:質問1の回答
WEEE指令はリサイクル法です。義務者は生産者、輸入者やディストリビュータで、通信販者などです。
WEEE指令は日本の家電リサイクル法に類似していますが、生産者は環境に配慮した「ものづくり」を行い、顧客が使用後に廃棄した「廃電気電子機器」をリサイクルする義務を課しています。
顧客が使用後に廃棄した「廃電気電子機器」のリサイクルは、顧客が一般家庭(個人消費者)向けと一般家庭以外(ビジネス使用者)向けで、リサイクル義務が異なります。
一般家庭(個人消費者)向けの場合は、通関時に加盟国法により、輸入申請、輸入登録などが行われ、デポジットが適用されます。金額は過年度の費用(処理費からリサイクル収入の差)と回収重量から決定されます。
加盟国法によりますが、回収スキームに登録し、回収スキームのロゴを製品に貼付することになります。
ドイツとフランスの国内法で一般家庭向け電気電子機器について、日本企業に関連する部分を機械翻訳による意訳でご説明します。
(a)ドイツWEEE法
国内法は「電気電子機器の上市、返却、および環境に配慮した廃棄に関する法律」(Gesetz über das Inverkehrbringen, die Rücknahme und die umweltverträgliche Entsorgung von Elektro- und Elektronikgeräten)です。(注1)
第6条 登録義務
製造業者(含む輸入者)が電気電子機器を上市する前に第8条で認可された認可代理人は、機器の種類と商標に関する権限を有する機関に登録する義務を負う。
第8条 認可代理人を任命する義務
輸入者は、認可代理人を任命する。
輸入者は、1人の認可代理人のみを任命することができる。
第7条ファイナンス保証
保証には、第37条による廃棄物の処理に資金を提供するのに適したシステムへの参加が可能である。
第9条ラベル
上市前に附属書IIIのラベル(ゴミ箱に×マーク:EN 50419 Crossed-out wheeled bin )を上市前に貼付するものとする
(b)フランスWEEE法
WEEE法は「環境コード」に組み込まれています。(注2)
第10条に電気電子機器に関する規定があります。(注3)
第10条の前段はCEマーキングの要求事項で、後段はWEEE(廃電子機器)関連です。
第R543-180条
家庭用電気電子機器の販売の場合、販売業者は、遠隔販売の場合を含めて使用済みの電気電子機器を消費者から無料で引き取る。
販売者が少なくとも400m²の電気電子機器専用の販売エリアを持っている場合、非常に小さい寸法(すべての外形寸法がすべて25cm未満)の中古の電気電子機器を購入する義務なしに無料で引き取る。
R543-181条
電気電子機器のカテゴリとサブカテゴリごとに、生産者は上市した家庭用廃電気電子機器の収集する必要がある:
1.個別の廃棄物収集システムをセットアップする
または
2.承認されたエコ組織によって設定された個別の収集システムに参加し、該当する場合は、これを介して支払いによりこの収集を補足するエコ組織に資金を提供する。
この組織は、自治体またはそのグループとの合意により、家庭用電気電子機器を分別収集している。
ドイツとフランスでは、基本的内容は同じですが、微妙な差異があります。
輸出先毎に輸入者にその国の生産者義務を確認することが肝要です。
C:質問2の回答
WEEE指令附属書Vのリサイクル率などは、EU委員会から加盟国に宛てた国の目標値です。
加盟国が目標達成しない場合は、加盟国に対し処分を行うことがあります。
目標値は、EUの政策である「持続可能な開発」から出たもので、直近では2020年3月11日に「新循環経済行動計画」で明確にしています。(注4)使い捨て文化からの脱却です。
2019年10月1にEU委員会は、2019-24年のEU委員会の6優先事項の第1の「欧州グリーンディール」の施策として、冷蔵庫、洗濯機、食器洗い機、テレビなどの10製品に対する新持続可能な家電製品ルールを採択しました。(注5)
新ルールは、修理性とリサイクル性の要件が初めて含まれ、寿命、メンテナンス、再利用、アップグレード、リサイクル性、廃棄物処理など、循環経済目標に貢献する事項が明確にされました。
「修理権」が明確にされ、修理部品を販売終了後も一定期間提供する義務が生産者に課されました。これらの新たな政策の一環で、WEEE指令の根拠法である廃棄物指令(EC)2008/98/ECも2018年6月14日に改正されています。(注6)
欧州グリーンディールの政策パッケージの一つです。(注7)
リサイクルは個々の販売製品について、リサイクル率を定めているのではなく、国全体でのリサイクル目標です。生産者は、環境配慮設計により、長寿命製品の開発が第一に要求され、「修理権」対応などが新たに課されます。
引用情報等:
- 注1:https://www.gesetze-im-internet.de/elektrog_2015/
- 注2:https://www.legifrance.gouv.fr/affichCode.do;jsessionid=A40FC73B9BF2B8A36EBF7AAD2006EF7D.tplgfr27s_2?idSectionTA=LEGISCTA000028166544&cidTexte=LEGITEXT000006074220&dateTexte=20200825
- 注3:https://beta.legifrance.gouv.fr/codes/section_lc/LEGITEXT000006074220/LEGISCTA000006177001/#LEGISCTA000006177001
- 注4:https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?qid=1583933814386&uri=COM:2020:98:FIN
- 注5:https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=OJ:L:2019:315:TOC
- 注6:https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2018/851/oj
- 注7:https://ec.europa.eu/info/strategy/priorities-2019-2024/european-green-deal_en
- 回答者
-
中小企業診断士 松浦 徹也
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