ビジネスQ&A
EU RoHS指令の真鍮材中の鉛の除外の期限の延長はあるでしょうか。
2021年 7月 7日
弊社は電気電子機器のメーカーで、EUにも輸出しています。2021年7月21日で真鍮材中の鉛含有が期限切れと聞いています。
除外の延長はあるでしょうか。
回答
真鍮材中の鉛の除外の検討は、EU委員会の委託を受けたOekoがPack22として鋼材やアルミニューム材などとまとめてPack22プロジェクトで行っています。
Pack22プロジェクトの状況報告では、2021年8月27日までに最終報告書をEU委員会に提出するとしています。
最終報告書は、コミトロジー委員会で採択し、EU委員会は法案をEU議会とEU理事会に通報します。U議会とEU理事会から2ヵ月以内に異議がなければ官報で告示されます。
除外の延長をしないと決定した場合は、決定後12~18ヵ月の移行期間が認められます。2021年7月22日で有効期限を迎える除外条件は、決定がされるまで有効です。
将来的には、鉛フリーが要求されますので、すでに鉛フリーJIS材も販売されていますので、試作評価などが望まれます。
真鍮材中の鉛の除外は、EU RoHS指令((EU)2011/65)(以下 RoHS指令と略記)の附属書IIIに収載されています(注1)。
RoHS指令第5条で、附属書Iの第1製品群~第7製品群及び第10製品群並びに第11製品群については、附属書IIIの有効期間は5年、第8製品群及び第9製品群は7年となっています。
RoHS指令は、2011年7月22日に発効しましたので、2021年7月21日は2回目の有効期間の満了日となります。
有効期限が迫っていますが、現時点で結論が出ていません。途中経過は公開されていますので、情報を随時確認する必要があります。
有効期間の満了に伴う附属書IIIの更新の手続きは、RoHS指令第20条によりEU委員会がEU理事会及びEU議会から委任されています。附属書IIIの改定手順は、RoHS指令第19条によりコミトロジー手続きとなり、小委員会(EU委員会との区別をするために小委員会と称されます)を編成し行います。
EU委員会のRoHS指令は、環境総局(日本の環境省に相当)が管理しています。附属書IIIの改定状況等は、ホームページで公開されています(注2)。
コミトロジー委員会の改定審議のために“impact assessment”を外部機関に委託する場合があります。この委託先の選定は入札で、多くの場合で4組織が応札するようです。
この情報も公開されています(注3)。
真鍮中の鉛の除外(4%)は、附属書IIIの6(c)に収載されています。この見直しは、6(a)鋼中の鉛(0.35%)、6(b)アルミニューム材中の鉛(0.4%)などともに委託先のOko(Öko-Institut e.V.)のPack22プロジェクトで調査しています。
OekoのRoHSのページで、受託プロジェクトの状況が開示されています(注4)。
Pack22の状況は、「Pack 22プロジェクトは、2020年10月28日に開始され、10ヶ月間にわたって実施されるので、2021年8月27日に終了する。最終報告書は、2021年8月のプロジェクト終了時に予定されている。」としています。
最終報告書によりコミトロジー委員会が特定多数決(加盟国委員の人口による重み)によって意見を採択します。採択結果が「賛成」の場合は、EU委員会は採択し、「反対」の場合は、EU委員会は採択してはならない規則になっています。
「反対」の場合は、2ヵ月以内に、コミトロジー委員長は修正案を作成し、審議します。
コミトロジー委員会の採択を受けて、EU委員会は改正案を作成し、EU閣僚理事会(環境理事会)とEU議会に通報します。
この手続きは、「より優れた法律制定に関するEU議会、EU理事会およびEU委員会の間の間協定」によります(注5)。
EU委員会の提案は2ヵ月以内にどちらからも異議がなければ官報で告示されます。EU理事会またはEU議会で期間を2ヵ月延長できますので、最大4ヵ月で結論がだされます。
この期間短縮のために、改正の草案の段階で、EU閣僚理事会とEU議会に通報します。
最終報告書が提出されてから数か月以内に公布される見込みです。
なお、EU理事会、EU議会、EU委員会の申し合わせで、7月15日から8月20日は、夏休みとし、委任された法行為の提案の送付しないことになっています(注6)。前倒しは難しい状況です。
附属書IIIの除外項目の延長をしないと決定した場合は、RoHS指令第5条6項で、決定後12~18ヵ月の移行期間が認められます。2021年7月22日で有効期限を迎える除外条件は、決定がされるまで有効です。
また、EU RoHS指令の改定は、各国のRoHS法に大きな影響を与えます。現時点では、状況が動いている最中ですので、EU委員会やOekoのサイトで情報を収集することが肝要です。
6(c)が延長されるか、されないか、新たな条件が付されるかは、情報がありません。鉛フリーの代替材がすでに販売されています。
代替材として、JIS H 3250 C 6802~6804やC 6931と C 6932があり、鉛 0.1%以下です。
C 6802~6804快削性を得るために鉛の代替としてビスマス、C 6931とC 6932はシリコンを使っています。将来的には鉛フリーの可能性がありますので、試作は行うことをお勧めします。
EUではビスマスはレアマテリアルとしていますので、C 6931/32の優先度が高いと思えます。
引用情報等:
- 注1:https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=celex:32011L0065
- 注2:https://ec.europa.eu/environment/topics/waste-and-recycling/rohs-directive_en
- 注3:https://ec.europa.eu/environment/topics/waste-and-recycling/rohs-directive_en#ecl-inpa
- 注4:https://rohs.exemptions.oeko.info/index.php?id=163
- 注5:https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32016Q0512%2801%29
- 注6:https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv:OJ.L_.2016.123.01.0001.01.ENG
- 回答者
-
中小企業診断士 松浦 徹也
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