ビジネスQ&A
中国企業に加工委託をしていますが、顧客から中国の新VOC規制の対応状況の調査が来ました。新VOC規制の内容と当社の義務を教えてください。
2021年1月25日
日中交易商社です。日本企業からの委託を受けて、中国企業に加工委託するビジネスがあります。加工委託をするときに、顧客(日本企業)から一部部品支給をすることがあります。
最近、複数の顧客から中国の新VOC規制の対応状況の調査が来ました。
新VOC規制の内容と当社の義務を教えてください。
回答
新VOC規制は、低VOC塗料や接着剤に関する7種に強制規格(GB規格)です。北京や天津などの大気汚染が著しい地域で、VOCを発生させる工程では7種のGB規格に適合した資材の使用が強制されます。
日本国内では、7種のGB規格に適合した資材の使用は強制されず、GB規格に適合しない資材を使用した製品の輸出(中国では輸入)も制限されません。
一方、日本企業は、中国の委託先で7種のGB規格に適合した資材に変更することで、他の品質項目やEUなどの法規制に影響がないことの確認を求めています。サイレントチェンジといわれるいつの間にか4Mの変更がされることを恐れています。
貴社は新VOC規制により、従来とおりに品質、遵法保証の宣言ができるようにすることが肝要です。
1) VOC規制の対象
ご質問の中国の新VOC規制は、中国国家標準化委員会の製品に含有されるVOCなどの有害物質の制限量に関する7種の国家強制標準(GB規格)と思います。
7種のGB規格は以下に示しますが、2020年3月4日に発行され2020年12月1日に適用が開始されました。
- GB 24409-2020:车辆涂料中有害物质限量(車両塗料用の有害物質の制限量)
VOC基準は塗料を下塗、面塗、トップコートなどの用途、水性、油性などに区分して基準が示されています。重金属(鉛、水銀、六価クロム、カドミウム)の制限値もあります。 - GB 18581-2020:木器涂料中有害物质限量(木製品用塗料の有害物質の制限量)
VOC基準は水性塗料、油性塗料、UV硬化塗料などの使用方法別に定めています。 - GB 18582-2020:建筑用墙面涂料中有害物质限量(建築用壁面塗料の有害物質の制限量)
VOCだけでなく可溶性重金属物質の基準もあります。工業用ニトロ類ではフタル酸エステル類の基準もあります。 - GB 30981-2020:工业防护涂料中有害物质限量(工業用保護塗料の有害物質の制限量)
VOC基準は塗料を下塗、面塗、トップコートなどの用途、水性、油性などに区分して基準が示されています。電気電子機器では重金属(鉛、水銀、六価クロム、カドミウム)の制限値もあります。 - GB 33372-2020:胶粘剂挥发性有机化合物限量(接着剤の揮発性有機化合物(VOC)の制限量)
VOC基準だけで有害物質規制はありません。 - GB 38507-2020:油墨中可挥发性有机化合物(VOC)含量的限值(インク中の揮発性有機化合物(VOC)含有量の制限)
溶剤型、水性型、オフセット型や硬化型インク別にVOC基準を定めています。 - GB 38508-2020:清洗剂挥发性有机化合物含量限值(洗浄剤中の揮発性有機化合物の含有量の制限)
特定の揮発性有害物質としてホルムアルデヒドなどがあり、基準が厳しくなっています。
工業用洗浄剤から除外される揮発性化合物のリストもあります。
7種のGB規格は塗料などの製品規格で、塗料などを中国に輸出する場合は適用されますが、日本で塗装した製品などを中国に輸出する場合には適用されません。
貴社が中国企業に支給する塗装した部品などは上記のGB規格は適用されません。
2) VOC規制の背景
7種のGB規格の制定の背景は、中国 生態環境省は、2019年6月26日に「主要産業における揮発性有機物の包括的な管理プログラム」の通知から理解できます。(注1)
この通知により、低VOC塗料などの標準が策定され、運用も以下を示しています。
附属書2に記載されている国家重点制御VOCs物質を重点として以下が行われます。
「一工場一作」制度の導入をする。 地方公共団体は、企業支援の指導を強化し、現地汚染物質の排出が大きい企業に対して、専門家による専門的な技術サポートを提供し、厳格な管理を行い、企業に実用的な汚染管理プログラムの開発を指導し、元の補助材料の代替、プロセス改善、組織化されていない排出管理、排ガス収集、汚染処理施設の建設など、プロセス全体の排出削減要件を明確にし、投資コストと排出削減効率を測定し、VOC統合管理のための技術サービスを提供する。
通知では、単に低VOCs塗料等(補助材料)を使用するだけでなく、VOC排出量の大きい企業に工程改善などを取り込んだ「一工場一作」を計画させ、主要産業の必須のクリーン生産監査を実施することが奨励されるとしています。
これらの基本的政策目標は、2018年6月27日に国務院が公表した「青空防衛戦争に勝利するための3年間行動計画」です。(注2)
国家戦略ですから様々な要件や対応が要求されます。
このような背景から、限定的な義務は、「北京-天津-河北とその周辺地域、長江デルタ地区(上海市など)、汾河と渭河の流域にある汾渭平原」の重点地区で、重点規制物質として「オゾン前駆体(エチレン、プロピレン、ホルムアルデヒドなど)、PM2.5の前駆体(トルエン、キシレン、スチレンなど)、悪臭物質(メチルアミン、メチルメルカプタン、メチルサルファイドなど)、高毒害物質(ベンゼン、ホルムアルデヒド、塩化ビニルなど)」などの使用制限です。
中国は「源流管理」の規制をしますので、「青空防衛」のために、大気汚染の著しい地域で、地域工場に工程改善などを取り込んだ「一工場一作」計画を策定させ、そこで使用する塗料等にVOCの少ない資材を使用させるものです。
2020年7月17日に重点地域の北京市は、2019年6月26日の管理プログラムを受けて、「VOC管理のための特別行動計画」を公表しました。(注3)
北京市特別行動計画の「VOC排出削減をさらに推進するための包括的な戦略」の第2項目で以下を示しています。
- 国の新しい接着剤、洗浄剤、産業用保護コーティング剤、自動車コーティング剤およびその他の製品VOC含有量の制限基準に基づいて関連の生産企業が秩序ある方法で製品の切り替えを完了するように奨励する。
- 2020年12月1日から新基準の要件を厳密に実施する。
- 生産と販売の関連からVOCが含まれている製品の品質のランダムテストを強化し、検査回数は四半期50グループ以上行う。
- 法に基づいて生産と北京での販売や国家標準と違法行為の要件を満たしていなければ、社会に公開する。
3)顧客の調査への対応
7種のGB規格は、中国の重点地域の大気汚染防止が目的であり、日本企業の義務は限定的です。顧客の調査の意図は、貴社の中国生産製品に使用している塗料や接着剤などが、7種のGB規格の強制化により、変更されているかの確認です。
日本企業は、4M(「Man:作業者」「Machine:加工設備」「Material:材料」「Method:加工方法」の変更に敏感です。7種のGB規格の適用により、4Mが変更されていないかを確認することになります。QC工程表、作業手順書やSDS(中国では化学品安全技術説明書)などについて、変更の有無を確認し、顧客に報告するなどが対応になります。
顧客は、サプライヤーが発注企業の許可なく、勝手に製品の仕様を変更するサイレントチェンジを恐れています。
中国の委託先にサイレントチェンジを戒め、顧客に事実を伝える対応が求められていることを理解し、品質および遵法宣言をすることが肝要です。
参考情報
引用情報等:
- 回答者
-
中小企業診断士 松浦 徹也
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