ビジネスQ&A

RoHS指令に準拠したグリーン調達基準による調達は、REACH規則でも適合していると考えてよいでしょうか。

2020年 2月 4日

EU REACH規則の附属書XVII(特定の危険物質、混合物、成形品の製造、販売、使用の制限)のエントリー 51で、フタル酸エステルのDEHP、DBP、BBP及びDIBPが2020年7月7日から制限が開始されます。
REACH規則で制限されるフタル酸エステルは、すでにRoHS指令の特定有害物質として、2019年7月22日から含有禁止となっています。
当社製品は電気電子部品が中心ですが、電気電子機器に使用されない機械部品なども扱っています。調達はRoHS指令に準拠したグリーン調達基準により行っています。
この方法でREACH規則の対応ができていると宣言してよいでしょうか。すなわち、RoHS指令に準拠したグリーン調達基準による調達は、REACH規則でも適合していると考えてよいでしょうか。

回答

REACH規則が制限しているフタル酸エステル類のDEHP、DBP、BBP及びDIBPは、RoHS指令においても特定有害物質として制限されています。
ただ、最大許容濃度には差異があります。
REACH規則:4種類のフタル酸エステル類の組み合わせで合計0.1重量%
RoHS指令:4種類のフタル酸エステル類のそれぞれが0.1重量%
REACH規則とRoHS指令では基準値が異なるため、RoHS指令に準拠していてもREACH規則を満足しないことになります。
フタル酸エステル類の用途のうちの1つとして、ポリ塩化ビニル(PVC)の可塑剤(柔らかくするための添加剤)があり、10~50重量%混入します。0.1重量%程度は「意図的に使用」したものではなく、コンタミネーション、リサイクル段階での混入が考えられます。
「0.1重量%までなら含有させることができる」のではなく、0重量%が目標であるが、「非意図的混入」を0.1重量%以下に抑えるようにする、というように考えます。非意図的使用・混入を防止するためには、作業管理などを徹底する必要があります。

RoHS指令の調達基準に沿って「非意図的混入」を含めて管理することで、REACH規則への順法対応にもなります。
この場合は、“DECLARATION of COMPLIANCE”を作成し、順法要件を明確にします。

(1)REACH規則の要求

REACH規則附属書XVII エントリー51 の要求内容(部分意訳)を整理します。

  1. 玩具及び育児用品において、可塑剤を0.1重量%以上の濃度で、物質として又は混合物として、個別に又は本エントリーの第1欄に列挙されるフタル酸エステル類の任意の組み合わせで使用しないものとする。

    第1欄に列挙されるフタル酸エステル類
    (a) Bis (2-ethylhexyl) phthalate (DEHP): CAS No 117-81-7/ EC No 204-211-0
    (b) Dibutyl phthalate (DBP): CAS No 84-74-2 /EC No 201-557-4
    (c) Benzyl butyl phthalate (BBP): CAS No 85-68-7 /EC No 201-622-7
    (d) Diisobutyl phthalate (DIBP) :CAS No 84-69-5/ EC No 201-553-2
  2. 玩具や育児用品は、個々に、または本エントリーの第1欄に記載されている最初の3種類のフタル酸エステル類(DEHP、DBP、BBP)のいずれかの組み合わせで、可塑剤を0.1重量%以上の濃度で含有させて市販してはならない。
    さらに、DIBPは、2020年7月7日以降、玩具または育児用品において、個々に、または本エントリーの第1欄に列挙される最初の3つのフタル酸エステル類と組み合わせて、可塑剤を0.1重量%以上の濃度で含有させて市販しないものとする。
  3. 2020年7月7日以降、成形品中の可塑剤が0.1重量%以上の濃度で、個別に、または本エントリーの第1欄に列挙されるフタル酸エステル類の任意の組み合わせで、成形品中に含有させて市販しないものとする。
  4. 第3項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
    (a) 専ら工業用又は農業用の成形品、又は専ら野外で使用する成形品。ただし、可塑剤が人の粘膜に接触し、又は人の皮膚に長時間接触しないことを条件とする。
    (b) 2024年1月7日以前に市場に出荷された航空機又は市場に出荷された成形品であって、当該航空機の保守又は修理にのみ使用されるものであつて、当該航空機の安全及び耐空性のために不可欠なもの
    (c) 2024年1月7日以前に市販された指令2007/46/ECの範囲内の自動車、または市販されている場合はいつでも、専らこれらの車両の保守または修理に使用される成形品であって、これらの成形品がなければ意図した通りに機能することができないもの
    (d) 2020年7月7日以前に上市された成形品
    (e) 実験用の測定装置又はその部品
    (f) 規則(EC)第1935/2004又は委員会規則(EU)第10/20111の範囲内で食品と接触することが意図された材料及び成形品
    (g) 指令90/385/EEC、93/42/EECまたは98/79/ECの範囲内の医療機器、またはその一部
    (h) 指令2011/65/EUの範囲内の電気電子機器
    (i) 規則(EC)第726/2004、指令2001/82/EC又は指令2001/83/ECの範囲内の医薬品の即時包装
    (j) 第1項又は第2項の玩具及び育児用品

ご質問に関連する事項は次のとおりです。

  • 対象物質
    DEHP、DBP、BBP、DIBPの4種類のフタル酸エステル類
    RoHS指令(2011/65/EU)と同一物質
  • 最大許容濃度
    4種類のフタル酸エステル類の組み合わせで合計0.1重量%
  • RoHS指令対象は適用されない

なお、4種類のフタル酸エステル類はともに「生殖毒性 区分1B」に該当するため、厳しく管理されます。

(2)RoHS指令との関係

RoHS指令の第4条および附属書IIで、DEHP、DBP、BBP、DIBPの4種類のフタル酸エステル類を含有させてはならないと規定しています。
最大許容濃度は、4種類のフタル酸エステル類のそれぞれが0.1重量%としており、REACH規則の4種類合計とは異なっています。

なお、REACH規則のエントリー51は、制限の要求はRoHS指令対象製品については、適用しないとしています。エントリー51だけでなく、REACH規則とRoHS指令の規制が重複しない取り組みは規定されています。
RoHS指令とREACH規則との認可・制限の関係については、RoHS指令前文10で「本指令の附属書は、REACH規則 の附属書XIV及びXVIIを考慮するために定期的に見直しされなければならない。」としています。さらに、「特に、HBCDD 、DEHP、 BBP 及びDBP の使用がもたらす人への健康及び環境に対するリスクを最優先に考慮すべきである。」としています。
なお、HBCDDはPOPs条約の規制に委ね、RoHS指令の対象から外し、DIBPが対象となりました。

また、RoHS指令の前文16では「附属書IIの制限物質のリストの見直し及び改定は、他のEU法規と特にREACH規則 との独立した運用を確実にしながらも、実施される作業は一貫性があり、相乗効果を最大限化し、また補完的性質を反映させるものでなくてはならない」としています。

RoHS指令では附属書III及び附属書IVで用途の除外を認めており、この附属書の改定も行われます。この改定についても、RoHS指令第5条 (附属書への科学と技術の進歩の適用)で、「用途の除外の追加がREACH 規則により与えられる環境と健康の保護を弱めることなく」、「電気電子機器の材料及び部品を特定の用途について附属書III及びIVの除外に含める」としています。

このように、RoHS指令とREACH規則の運用は、調和された運用となっています。この運用について、“REACH AND DIRECTIVE 2011/65/EU (RoHS) A COMMON UNDERSTANDING(REACH規則とRoHS指令の共通の理解)”が、2014年7月14日にEU委員会から発表されています。(注1)

REACH規則はEU化学品庁(The European Chemicals Agency:ECHA)が主管し、RoHS指令は環境総局(Directorate-General for Environment)主管と、異なる組織が管理していますので、一本化しきれていない点が残っています。

法規制上は、RoHS指令が適用される電気電子機器の構成部品となる電気電子部品にはRoHS指令の基準(個々のフタル酸エステル類が0.1重量%)が適用されます。
RoHS指令が適用されない製品の構成部品は、REACH規則が適用される可能性があります。

(3)可塑剤とコンタミネーションの可能性

4種類のフタル酸エステル類は可塑剤として使用されますが、この用途をREACH規則が規制するものです。

「可塑剤」とは、本エントリー5項で次の用途としています。

  • ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ酢酸ビニル(PVA)、ポリウレタン
  • シリコーンゴムと天然ラテックスコーティングを除くその他のポリマー(特に、ポリマーフォームとゴム材料を含む)
  • 表面コーティング、ノンスリップコーティング、仕上げ剤、デカール、印刷デザイン
  • 接着剤、シーラント、塗料およびインクを除く任意の他のポリマー(とりわけ、ポリマー発泡体およびゴム材料を含む)

身近な可塑化された素材はPVCです。PVCは可塑剤を10~50重量%入れて柔らかくしています。工場の塩ビマットのように、柔らかくして組立時に傷が付くことを防いでいます。
可塑剤を0.1重量%程度を入れてもPVCを柔らかくする効果はなく、含有しているとすれば「非意図的」含有です。

PVCに使用されたDEHPなどの可塑剤は、結合しているものではないので、表面に浸み出す可能性はあります。表面に浸みだした可塑剤が組立作業中の製品に付着(コンタミネーション)する恐れがあるとして、顧客要求として
「作業台上のPVCマットの撤去」
「ベルトコンベアのベルトがPVC製であれば使用禁止」
「ペンチ、プライヤなどの工具の柄にPVCを使っていれば手袋をする」
などが考えられます。

PVCマットなどからマット上での作業による組立製品への移行(コンタミネーション)は否定できません。ただ、通常の作業で、法規制に抵触する可能性は極めて低いとする報告書が、(地独)東京都立産業技術研究センターから公開されています。(注2)
逆に、移行(コンタミネーション)を増やす条件は、温度、時間、接触圧力や材質(軟質PVC)などです。密封した容器で、温度を上げて接触圧を高めると、軟質PVCでは、表面に移行します。
夏休みなどで長期間保存する場合は、PVCマットに接触するゴム脚の下にアルミ箔を置くなどの作業要領を決めるとよいと思います。

設計管理、調達管理での非適合材料の使用防止と作業管理でコンタミネーションを防止するもので、適合宣言の基本となります。

(4)まとめ

REACH規則もRoHS指令も4種類のフタル酸エステル類の使用を制限しようとするものです。4種類のフタル酸エステル類合計0.1重量%(1,000ppm)と、個別に0.1重量%とでは、大きな差異があるように見えますが、共に使用しないことが要求されている点は同じです。

4種類のフタル酸エステル類を使用しない場合でも、コンタミネーションで非意図的に含有することは否定できません。このために、部品材料の調達、サプライヤーや作業工程でのコンタミを防止する管理が必要となります。
仕組み化することにより、コンタミネーションの防止をすることになります。現在、貴社が行っているグリーン調達基準書をベースにして非意図的混入を防止することになります。

このような仕組みによる適合宣言は“DECLARATION of COMPLIANCE”のようなタイトルで、次の項目などを英語で入れるとよいと思います。

We, **** Co.,LTD, Postal Address, ***************** , Japan, declare under our sole responsibility that the product described below is in compliance with the following regulations and directives.

1. Product Name:
2. Model Name:
3. Trade Mark
4. Confirmation of compliance:
5. Signature:
6. Address: など

引用情報等

注1

注2

回答者

中小企業診断士 松浦 徹也

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