ビジネスQ&A
製品に含有するCLSの情報提供の新たな義務について知りたい。
2021年2月5日
ドイツにアクチュエーター(機構製品)を輸出しています。REACH規則対応として、製品の素材の一部にCLS物質が0.1%以上含まれているとの宣言文をこれまで発行しておりますが、今後どのような義務が追加されるのか教えてください。
回答
製品に含有するCLS(Candidate List of substances of very high concern for Authorisation)の情報提供義務が、EUの環境政策のEUグリーンディール、そのアクションプランの「新循環経済行動計画」により厳しくなっています。
その一つが「指令2008/98/EC(廃棄物指令)(Waste Framework Directive WFDともいう)」の見直しで、リサイクルした二次原料に有害化学物質が含有していないように、製品(成形品)に含有しているCLSをデータベースに登録しておき、リサイクル時に利用できるようにするものです。
このデータべースがSCIP データベースといわれるもので、登録は2021年1月5日から義務が始まりました。
WFDは指令ですので、登録義務は、加盟国の国内法によります。
ドイツは、循環経済法(KrWG)及び化学品法(ChemG)により、登録義務が課されていますが、詳細手順は別規定として作成するとしています。
CLS(Candidate List of substances of very high concern for Authorisation)は、認可候補物質で、認可物質は認可を受けた者が認可を受けた条件でしか使えない、一般的には使用禁止物質の候補物質です。
CLSは使用させない、使用する場合はトレースするという理念で、取り扱いが厳格になってきています。この状況をご説明します。この潮流で、CLSはECHAのSCIP データベースに登録(通知)する義務が2021年1月5日から始まっています。
1.法規制の概要
EUでは、EU委員会の委員長の交代を機に、新たに2019年から2024年の5年間にわたって取り組む6つの優先課題を定め、その一つにEUグリーンディール(European Green Deal)」があります。
EUグリーンディールを受けて、アクションプランの「新循環経済行動計画」がEU委員会から告示されました。
「新循環経済行動計画」では、「4. 廃棄物の削減、有価物の増加」「4.1. 廃棄物の予防と循環を支援する廃棄物政策の強化」で、「指令2008/98/EC(廃棄物指令)(Waste Framework Directive WFDともいう)」の見直しの文脈において、廃棄物予防に関するより広範な一連の対策の一部として、特定の流れのための廃棄物削減目標を提示する。」としています。
また、「4.2 毒性フリーでの循環性の向上」で以下を示しています。
- リサイクルによる二次原料の安全性は、例えば、禁止物質がリサイクル原料中に残留する場合、依然として安全性が損なわれる可能性がある。委員会は、二次原料の使用に対する信頼性を高めるための対応をする。
- 持続可能な製品政策の枠組みの下での対策や、高懸念物質を含む成形品に含まれるECHAデータベースとの相乗効果により、高懸念物質と特定された物質と他の関連物質、特に慢性影響物質、およびサプライチェーンに沿って存在する回収作業のための技術的問題をもたらす物質に関する情報を追跡し、管理するために、産業界との協調により、廃棄物中のそれらの物質を特定する。
WFDは2018年5月30日に指令(EU)2018/851で改正され、前記の部分について、WFD第9条(i)に以下が追加されました。
加盟国は、廃棄物の発生を防止するための措置を講じなければならない。
これらの措置は、少なくとも次のことを行わなければならない:(部分)
材料及び製品中の有害物質の含有量の削減を、連合レベルで定められたこれらの材料及び製品に関する調和された法的要件を損なうことなく促進し、また、欧州議会及び理事会規則(EC) No 1907/2006(REACH規則)第3条第33項に定義される成形品の供給者が、2021年1月5日からECHAに対し、REACH規則第33条(1)に基づく情報を提供することを確保する。
同第9条2項で以下を規定しています。
ECHAは、2020年1月5日までにパラグラフ1の(i)に従って提出されるデータのデータベースを確立し、それを維持するものとする。
ECHAは、廃棄物処理業者にそのデータベースへのアクセスを提供するものとする。また、要求に応じて、消費者にそのデータベースへのアクセスを提供する。
REACH規則第33条(1)に基づく情報は、成形品に含有するCLSが0.1重量%を超える場合は、そのCLSに関して「物質名と安全取扱情報」などを顧客(消費者を含む)に提供する義務で、これまで貴社の対応になります。
第3条第33項に定義される成形品の供給者とは、生産者、輸入者、流通業者、成形品を上市するサプライチェーン中の他の行為者を意味します。
2.SCIP Databaseについて
WFD 第9条にいうデータベースがSCIP(Substances of Concern In articles(Products)) Databaseです。
SCIP データベース登録情報は、「成形品特定情報」「安全な使用に関する情報」「CLS物質情報」「CLSの含有箇所に関する情報」などです。
ECHAが発行した「SCIP データベースの詳細情報要件」が環境省訳で公開されていますので参考になります。
3.登録(通知 Notification)
登録は輸入者がIUCLID(REACH規則の登録などで利用されるツール)で行います。
登録が大量の場合は、System to System のツールもあります。
日本などの 域外企業(輸出者)は、輸入業者に前項のデータを提供します。輸入業者が対応できない場合は、輸出者が契約することで代理できます。
ネット検索をすると輸出者の登録支援をする事業者が数多くあります。
SCIPデータベース登録は、REACH規則の第33条で定義されているそれぞれの供給者の義務です。SCIPデータベース通知は、基本は技術文書(dossiers)をIUCLID6(IT ツール)で提出します。同じ成形品の供給チェーンで、すべての供給者が技術文書をSCIPデータベースに通知するのは、現実的ではありません。
ディストリビュータは、簡易SCIP通知(Simplified SCIP Notifications (SSN))により、上流からSCIP番号(16進36桁)を入手し、技術文書の代わりにSCIP番号で通知できる仕組みがあります。
EUに複数の現地法人がある場合などで、パラレル輸入の場合もSSNが利用できる場合があります。
SSNのガイドも公開されています。
なお、SCIPデータベース登録を行っても、REACH規則第33条(1)に基づく情報提供義務は残ります。
4. 加盟国の国内法
WFDは指令ですから、加盟国は国内法に転換して規制をします。また、WFDは「欧州連合の機能に関する条約(TFEU)、特にその第192条(1)を考慮して」としていますので、国内法に転換するときに、加盟国の状況に合わせることができます。
RoHS指令(2011/65/EU)は、「TFEU第114条を考慮し」となっていますので、加盟国の国内法は平準化されています。
WFDによる加盟国法は既存国内法に統合している場合があり、名称も様々です。WFDの官報のページの“National transpositions by the Member States”に国内法がリンクされていますが、“Text is not available.”の表示もあります。
ドイツはWFD(2008/98/EC)および修正法(EU)2018/851を受けて、2020年12月9日に「循環経済を促進し、環境に適合した廃棄物の管理を保護するための法律(循環経済法-KrWG)」(Gesetz zur Förderung der Kreislaufwirtschaft und Sicherung der umweltverträglichen Bewirtschaftung von Abfällen (Kreislaufwirtschaftsgesetz - KrWG))を改正し、規制をしています。
KrWGの第1条(法の目的)でWFDの関係を示しています。
§1 法の目的 (機械翻訳による意訳)
(1)本法の目的は、循環経済を促進して天然資源を保護し、廃棄物の生成と管理において人と環境の保護を確保することである。
(2)この法律は、廃棄物および特定の指令の廃止に関する2008年11月19日の欧州議会および理事会の指令2008/98 / ECにおける欧州法の目的を達成することも目的としている。
指令(EU)2018/851(WFDの修正指令)のSCIP登録(通知)の義務は、§7aとして追加されました。
§7a化学製品法 (機械翻訳による意訳)
(1)廃棄物の状態が初めて使用されなくなった物質および物体を使用する、またはそれらを初めて市場に出す自然人または法人は、これらの物質または物体が「化学物質および製品法」の該当する要件を満たしていることを確認する必要がある。
(2)第1項に記載された法的規定が物質および物体に適用される前に、第5項第1項の要件に従ったそれらの廃棄状態が終了している必要がある。
§7aの「化学物質および製品法」は、「危険物質に対する保護に関する法律(化学品法-ChemG)」を指し、第16条fとして追加されています。
第16条f サプライヤーに情報を提供する義務 (機械翻訳による意訳)
(1) 規則(EC) No.1907/2006(REACH規則)の第3条第33号の意味の範囲内で供給者として、規則(EC) Noの意味の範囲内の製品を配置する者は、指令2008/98/ EC(WFD)の第9条2に従って、2021年1月5日からECHAに規則(EC)第1907/2006条第33条1項による情報を提供する。軍事目的の製品には適用されない。
(2) 連邦政府は、連邦理事会の同意を得て、データベースの連合レベルで策定された要件を考慮して、第1項で言及される義務が履行される条件を、どのように、どのような条件で満たすかをより詳細に決定することを、連邦理事会の同意を得て承認される。
ドイツは、WFDをKrWGで受けて、KeWGでREACH規則に関する事項をChemGで決めています。SCIP登録手順は、下位規定を定めるとしています。この下位規定は確認できておりません。
- 回答者
-
中小企業診断士 松浦 徹也
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