ビジネスQ&A
2020年12月から規制された中国VOC規制は、中国に輸出する電気電子製品の塗装や接着剤にも適用されるのかを教えてください。
2021年 5月6 日
2020年12月から規制された中国VOC規制について教えてください。 弊社は、電気電子製品を中国工場で製造し、中国及び日本で販売しています。また、日本から中国内へ輸出し販売する製品もあります。 接着剤の使用や塗装した製品も規制対象になるのでしょうか?
回答
中国では、北京などの重点地域での大気汚染防止を目的に、主要産業にVOCの発生抑制を要求する政策を展開しています。この目的のために塗料や接着剤などの低VOC製品規格を制定しました。この規格は強制規格(GB規格)です。
中国工場に塗料や接着剤などを支給する場合は、GB規格適合品であることが必要です。
中国から輸入した電気電子製品は、日本ではGB規格は適用されませんが、顧客(川下企業)から、塗料や接着剤などの代替化による成分確認がくる場合があります。
1)制定されたVOC規格の概要
VOC規格制定の背景は、大気汚染防止のために「青空防衛戦争に勝利するための3年間行動計画」(打赢蓝天保卫战三年行动计划)(2018年6月27日 国務院)の通知によります。*1)
北京-天津-河北地域などの重点地域での塗装や印刷などの主要産業からのキシレン、トルエン、ホルムルデヒデドなど重点VOC成分の規制をするものです。
この対策を徹底するために「一工場一策」制度を推進するとし、各地方は企業への支援指導を強化する取り組みが強化されます。
2020年3月4日に、国家市場監督管理局(National Standardization Administration)が、VOCを制限する7つの国家規格を国家市場監督管理総局国家標準化管理委員会が告示しました。
- GB 24409-2020:车辆涂料中有害物质限量(車両塗料用の有害物質の制限量)
VOC基準及び重金属(鉛、水銀、六価クロム、カドミウム)の制限値もあります。 - GB 18581-2020:木器涂料中有害物质限量(木製品用塗料の有害物質の制限量)
VOC基準は水性塗料、油性塗料、UV硬化塗料などの使用方法別に定めています。 - GB 18582-2020:建筑用墙面涂料中有害物质限量(建築用壁面塗料の有害物質の制限量)
VOCだけでなく可溶性重金属物質やフタル酸エステル類の基準もあります。 - GB 30981-2020:工业防护涂料中有害物质限量(工業用保護塗料の有害物質の制限量)
VOC基準及び電気電子機器では重金属の制限値があります。 - GB 33372-2020:胶粘剂挥发性有机化合物限量(接着剤の揮発性有機化合物(VOC)の制限量)
- GB 38507-2020:油墨中可挥发性有机化合物(VOC)含量的限值(インク中の揮発性有機化合物(VOC)含有量の制限)
溶剤インク、水性インク、オフセット印刷インキとエネルギー硬化インクが対象で、例えば溶剤インクでは、グラビアインク、フレキソ印刷インキ、インクジェット印刷インキやスクリーン印刷インキに分けてVOC基準が設定されています。 - GB 38508-2020:清洗剂挥发性有机化合物含量限值(洗浄剤中の揮発性有機化合物の含有量の制限)
この基準は、工業生産およびサービス活動で生産および使用される揮発性有機化合物を含む洗浄剤に適用されます。しかし、航空宇宙、原子力産業、軍事産業、半導体(集積回路を含む)製造用の洗浄剤には適用されません。
GB規格製品の使用の強制は、大気汚染防止政策や法規制の要求によります。
7つの国家製品規格は、GB規格ですので、強制規格となり、2020年12月1日から 適用されました。 *2)
これらGB規格は、塗料や接着剤などの製品規格で、規格適合品は表示義務があります。
GB規格は強制規格ですが、「中華人民共和国標準化法」第25条では、使用に関する規制がありません。
第25条 強制標準に適合しない製品、サービスは、生産、販売、輸入あるいは提供してはならない。*3)
貴社の中国工場の工程では、「源流管理」の考え方で、これらGB規格以外は購入できなくなります。直接的には、「標準化法」は、「使用」の規制をしていません。
また、「中華人民共和国製品品質法」でも生産、販売される製品規制はありますが、工程での「使用」に対する規制はされていません。ただ、第18条で間接的ながら規制があります。 *4)
第 18 条 県級以上の製品品質監督部門はすでに取得した違法嫌疑の証拠又は告発に基づき、本法の規定に違反する疑いのある行為について調査処理を行う際、以下に掲げる職権を行使することができる。
(中略)
(4)根拠があって人体の健康及び人身・財産の安全を保障する国家基準、業界基準に合致しないと認められる製品又はその他の重大な品質上の問題を有する製品及び当該製品の生産・販売に直接用いられた原材料、補助材料、包装物、生産用具に対し、封印または差し押さえを行う。
生産するときには、調達する材料等に強制規格があれば、規格適合品を使用することが要求されています。
2)貴社の対応
GB規格の目的が大気汚染防止にあり、中国で大量に使用する企業が対象です。しかし、少量は免除する、あるいは重点地域以外は適用しないなどの除外規定はないので、経営リスクの視点でGB規格適合品を使用することが肝要です。
日本で塗装や接着の処理をする場合は、中国の大気汚染防止が目的ですから、これらGB規格は適用されません。ただ、塗料の重金属規制は、塗料の乾燥後も残りますので、基準適合品の使用が必要となります。
重金属含有制限値は、電気電子製品に適用されるEU RoHS指令と同じですので、すでにRoHS指令対応済であれば、特段の追加対応は不要です。
中国工場に塗料や接着剤を支給する場合は、GB規格の適用範囲の製品であれば、GB規格の適合品であることが必要です。
(i)塗料の基準
GB 30981-2020(工業防護塗料中の有害物質制限量)は、種類と用途によりVOC成分、重金属や有害物質が特定されています。
対象塗料は、水性、油性(溶剤)、機械式、電着式などで、対象は機械設備や電気電子機器なども含まれています。
電気電子機器には中国RoHS管理規則製品が対象とした、重金属(Cd、Hg、Pb、Cr+6)の基準もあります。
VOC規制は以下になります。
電器電子機器用の水性塗料
プライマー(下塗) 420g/L 以下
ペイント 420g/L 以下
ラッカー(トップコート) 420g/L 以下
電器電子機器用の油性塗料
プライマー(下塗) 600g/L 以下
ペイント 700g/L 以下
ラッカー(トップコート) 650g/L 以下
重金属含有規制は以下になります。
鉛 1,000 mg/kg 以下
カドミウム 100 mg/kg 以下
六価クロム 1,000 mg/kg 以下
水銀 1,000 mg/kg 以下
プレコートコイルコーティング(对预涂卷材涂料)の重金属含有量の制限値は、移行期間の要件に従うものとし、移行期間は、この規格の発行日から2021年12月31日までとします。
2022年1月1日以降、プレコートコイルコーティングは、前記の重金属含有量の制限値要件に準拠する必要があります。
(ii)接着剤の基準
GB 33372-2020の適用範囲は以下です。
この規格は、特定の条件下での接着剤の揮発性有機化合物(以下、VOCと呼ぶ)の含有量の制限要件、試験方法、検査規則、およびパッケージマークを指定する。
この基準は、溶剤系、水溶性系、および無溶剤系接着剤の揮発性有機化合物含有量(VOC)の制限に適用される。
この基準は以下には適用しない。
- 循環領域に入らずに中間体または製造原料として使用される接着剤
- 研究開発、品質保証または分析実験室でのテストまたは評価のための接着剤
- 尿素ホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒド、メラミンホルムアルデヒド接着剤
- 材料の接着時に塗布される特殊機能性表面処理剤
制限量は、溶剤系、水溶性系、および無溶剤系別で応用領域建築、室内装飾、靴と鞄など)で基準が設定されています。組立業についてご紹介します。
- 溶剤系接着剤のVOC含有量
クロロプレンゴム類 600 g/L以下
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体ゴム類 550 g/L以下
ポリウレタン類 250 g/L以下
アクリレート類 510 g/L以下
その他 250 g/L以下 - 水溶性系接着剤のVOC含有量
ポリ酢酸ビニル類 100 g/L以下
ポリエチレンアルコール類 --
ゴム類 100 g/L以下
ポリウレタン類 50 g/L以下
エチル酢酸ビニルコポリマー乳液類 50 g/L以下
アクリレート類 50 g/L以下
その他 50 g/L以下 - 無溶剤系接着剤のVOC含有量
有機シリコーン類 100 g/L以下
シラン変性重合体類 100 g/L以下
ポリウレタン類 50 g/L以下
多硫化物類 50 g/L以下
アクリレート類 200 g/L以下
エポキシ樹脂類 100 g/L以下
α-シアノアクリレート類 20 g/L以下
熱可塑類 50 g/L以下
その他 50 g/L以下
なお、ベンゼン系(ベンゼン、トルエン、キシレン)、ハロゲン化アルキル(ジクロロメタン、1.2ジクロロエタン、1.1.1.トリクロロエタン、1.1.2トリクロロエタン)、トルエン二イソシアネート、遊離ホルムアルデヒドなどの単一VOC含有量は、GB30982(建築用接着剤)またはGB19340(靴、ケース、バッグの接着剤)も適用されます。
3)グリーン調達の動き
日本国内では、VOCのGB規格は適用されませんが、日本の川下企業からGB格規格適用確認が届く例があります。
GB規格品に代替することで、混合成分にREACH規則などの法規制に抵触する物質を含有していないかを確認することが背景にあるようです。顧客の4M(Man(人)、Machine(機械)、Material(材料)、Method(方法))変更管理の一端です。
貴社の中国工場生産品に使用している現地手配品に使用している塗料や接着剤のSDSの提供をうけて、構成成分から遵法性を確認します。
4)成分分析
塗料や接着剤のVOC成分の分析手順は、各GBに指定されています。適合確認のための分析報告書は、強制規格対応ですのでCMA(China Metrology Accreditation 資質認定計量認証証書)やCNAS(China National Accreditation Service for Conformity Assessment Laboratory Accreditation Certificate 中国合格評定国家認可委員会実験室認可証書)が必要と解釈できます。
CNASはISO/IEC 17025の要求事項に適合しているかどうかを中国合格評定国家認可委員会が審査を行い試験事業者として認定された試験場で、信頼性の高い報告書になります
参考情報
引用情報等:
- *1:http://www.gov.cn/zhengce/content/2018-07/03/content_5303158.htm
- *2:http://std.sacinfo.org.cn/gnoc/queryInfo?id=DBFEEDF05290B415CFBBEAA40EA24D78
- *3:https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20180101-1_rjp.pdf
- *4:https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20000708.pdf
- 回答者
-
中小企業診断士 松浦 徹也
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