ビジネスQ&A
UKのEU離脱後のREACH規則の義務はどのようになるのでしょうか。
2021年 3月12日
UKがEUを離脱しましたが、REACH規則の対応はどのように変化したのでしょうか。
CEマーキングに代わって、UKCAマーキングになりましたが、同様に新たな仕組みでUK登録しなくてはならないのでしょうか。最も気にしているのが半年毎に告示されるCLSです。
回答
2021年1月1日にUKはEUから完全に離脱しました。ただ、離脱協定により、北アイルランド(NI)はEU法が継続して適用され、グレートブリテン島(イングランド、スコットランド、ウェールズ)(GB)は独自の法規制が適用されました。
離脱によりGB REACH規則が施行されました。内容は、EU REACH規則を踏襲していますが、部分的に修正(パッチあて)がされています。
2020年12月31日23時(UK 時間)時点のGBの義務者は、グランドファザリング(既得権益を認めて、新たな規制において不利益な取り扱いをしない)により、権利が継承されます。
また、移行期間終了時点での登録データ、CLS情報や制限情報などがGBに渡され、以降はGBが運用します。法解釈はUK裁判所が行い、EUの法規制改定などの適用はGBの判断になります。
GB REACH規則の義務者(権利者)は、2021.4.30までに基本情報を提出し、移行期間の終了から2年、4年、または6年以内に、GB REACH規則に基づいて登録に必要な技術情報を提供しなくてはなりません。
2021.10.28から2年間
・1,000トン/年以上
・発がん性、変異原性または生殖毒性(CMR):年間1トン以上
・水生生物に対する非常に強い毒性(急性・慢性):年間100トン以上
・CLS(2020年12月31日時点)
2021.10.28から4年間
・100トン/年以上
・CLS(2023年10月27日時点)
2021.10.28から6年間
・1トン/年以上
企業が気にしている認可物質の候補物質のCLS(Candidate List of substances of very high concern for Authorisation :2021.2時点で211物質)の収載手順の第59条はEU離脱前と同じです。
GB CLSはExcelファイルで公開されていますが、EU離脱後の2021年1月に追加された2物質は追加されていません。今後の乖離が懸念されます。
1)UK市場
2021年1月1日0時(EU時間)にUKは移行期間が終了しました。「欧州連合(離脱)法2018」に基づいて、REACH規則および関連する法律は、UK内で施行が可能にするために修正されましたが、EU REACH規則の主要原則は維持されました。
UKはEU離脱に伴い、EU法をUK法に切り替える作業は膨大で、なかなか作業が進まないようで、暫定的な法規制で運用せざるを得ないのが実情のようです。
なお、UKの正式名称は、“United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland“で、大きくはグレートブリテン島(イングランド、スコットランド及びウェールズ)(GB)及び北アイルランド(NI)で構成されています。アイルランド島の北アイルランドは、アイルランド共和国と国境を接していますが、ハードな国境線はありません。日本の国道の県境標識のようなイメージで、UKの離脱前は「域内市場の自由移動」政策で税関機能が不要でした。UKのEU離脱でこの国境が問題となりました。NIはUKの構成地域ですが、離脱協定の改訂議定書の一部として経済特区のような扱いで、北アイルランドではEU法が適用されます。
EU REACH規則は、移行期間が終了した後も北アイルランドで引き続き適用されます。
NIを拠点とする企業は、EU / EEAおよびNI市場へのアクセスに関して、EU REACH規則の下での従来からの役割と義務が継承されます。
北アイルランドからグレートブリテンへの商品の出荷に関与する企業は、GB市場へアクセスするために、北アイルランドの適合商品に関しては、完全な登録書類は必要ありませんが、措置を講じる必要があります。1)
日本企業には大きな影響はないと思いますが、2021年1月1日から、GB REACH規則とEU REACH規則は互いに独立して運営されています。EU/EEA/NIおよびGBとの間で物質、混合物、または物品を供給および購入している企業は、関連する義務が両方の法律の下で満たされていることを確認する必要があります。
この文書では、GBとNIの関係を考慮し、UK REACH規則はGB REACH規則と記述します。
2)UK REACH規則
EU REACH規則((EC)1907/2006)に基づくGB REACH規則の修正法は、2019年3月27日に修正法(The Chemicals (Health and Safety) and Genetically Modified Organisms (Contained Use) (Amendment etc.) (EU Exit) Regulations 2019)の告示により、別表2(SCHEDULE 2)に修正事項が記載されました。2)
GB REACH規則(Regulation (EC) No 1907/2006 of the European Parliament and of the Council)を、修正中で、以下のコメントが付いています。
「欧州議会および理事会の規則(EC)No1907 / 2006にはまだ変更が加えられている。 法律にすでに加えられた変更はすべてコンテンツに表示され、注釈で参照されている。」 3)
パッチあて状況です。
修正事項としては、第3条(定義)にEU REACH規則の定義のNo41に続いて、2項目追加しています。4)
42. GBの義務的分類および表示リスト:規則(EC)第1272/2008第38A条に従って制定され維持されている物質および物質群の義務的分類および表示要件のリスト
43. GB通知データベース:規則(EC)第1272/2008の第42条に従って確立されたデータベース
なお、CLP規則(規則(EC)第1272/2008)には関しては、GBはEU離脱によりGB CLP規則に第38A条を追加しました。5)
38A条(英国の必須分類および表示リスト)
化学物質庁は、第37条及び第37A条に従って国務長官が行ったすべての強制的な分類及び添付の表示要件の一覧表(「英国の強制的な分類及び表示一覧表」と呼ばれる)を電子的に作成し、維持し、及び公表しなければならない。
企業が気にしている認可物質の候補物質のCLS(Candidate List of substances of very high concern for Authorisation :2021.2時点で211物質)の収載手順の第59条はEU離脱前と同じです。
- 本条の第2項から第10項までに定める手続きが、第57条に記す基準に該当する物質を特定し、最終的には附属書XIVに収載されることとなる候補物質のリストを作成するという目的に適用されなければならない。
化学物質庁(ECHA)は、このリストの中で、第83条(3)(e)に基づく作業プログラムの対象となっている物質を示さなければならない。 - 委員会は、その意見が第57条に定められた基準を満たしている物質について、附属書XVの関連する節に従って、一式文書を作成するようFCHAに依頼することができる。一式文書は、適切な場合は規則(EC) No 1272/2008(CLP規則)の附属書VIの第3部への記載の言及に限定することができる。ECHAは、この一式を加盟国が利用できるようにしなければならない。
- いかなる加盟国も、第57条に定める基準に該当するとの見解を有する物質について、附属書XVに基づく一式文書を作成し、化学物質庁に対して送付することができる。
一式文書は、適切な場合には、規則(EC) No 1272/2008の附属書VIの第3部の記載の言及に限定することができる。 ECHAは、この一式文書を他の加盟国に受領後30日以内に利用可能にしなければならない。
EU離脱後もEUの機関であるECHAを利用することはなく、第3条の定義の“Agency: means the European Chemicals Agency as established by this Regulation”を“The Health and Safety Executive”などに変更するだけで済みますが、膨大な文書の整合性を取るのは時間がかかるようです。
なお、CLSはExcelファイルで公開されていますが、EU離脱後の2021年1月に追加された2物質は追加されていません。今後の乖離が懸念されます。6)
3)グランドファザリング
2020年12月31日23時(UK 時間)時点のUKの義務者は、グランドファザリング(既得権益を認めて、新たな規制において不利益な取り扱いをしない)により、権利が継承されます。
また、移行期間終了時点での登録データ、CLS情報や制限情報などがUKに渡され、以降はUKが運用します。法解釈はUK裁判所が行い、EUの法規制改定などの適用はUKの判断になります。
GB REACH規則の義務者(権利者)は、2021.4.30までに基本情報を提出し、移行期間の終了から2年、4年、または6年以内に、GB REACH規則に基づいて登録に必要な技術情報を提供しなくてはなりません。7)
2021.10.28から2年間
・1,000トン/年以上
・発がん性、変異原性または生殖毒性(CMR):年間1トン以上
・水生生物に対する非常に強い毒性(急性・慢性):年間100トン以上
・CLS(2020年12月31日時点)
2021.10.28から4年間
・100トン/年以上
・CLS(2023年10月27日時点)
2021.10.28から6年間
・1トン/年以上
EU/EEA-based suppliers to Great Britain under UK REACH
参考情報
EUからUK(GB)REACHへのガイド
- https://echa.europa.eu/documents/10162/13552/how_to_transfer_uk_reach_registrations_en.pdf/1fb443ce-79de-6596-aae5-3f1033f1a5fb
- https://www.gov.uk/guidance/how-to-comply-with-reach-chemical-regulations#authorisation
EEA( European Economic Area)は、EU加盟国及びリヒテンシュタイン、アイスランドとノルウェーが加盟しています。EU法はEU及びEEAの3ヶ国に適用されます。EEAに類似した組織にEFTA(Eropean Free Trade Association)があり、リヒテンシュタイン、アイスランド、ノルウェーとスイスが加盟しています。EUとスイスはMRA(Mutual Recognition Agreement:相互認証協定)を結んでいます。
引用情報等:
- 1):https://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20201211193442/https://www.hse.gov.uk/brexit/scenario11.htm
- 2): https://www.legislation.gov.uk/uksi/2019/720/contents/made
- 3): https://www.legislation.gov.uk/eur/2006/1907/contents
- 4): https://www.legislation.gov.uk/uksi/2019/720/schedule/2/paragraph/2/made
- 5): https://www.legislation.gov.uk/uksi/2019/720/schedule/2/paragraph/36/made
- 6):https://www.hse.gov.uk/reach/candidate-list.xlsx
- 7): https://www.hse.gov.uk/brexit/scenario1.htm#submit
- 回答者
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中小企業診断士 松浦 徹也
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