ビジネスQ&A

米国への日本酒輸出のために対応すべき、FSMAについて教えてください。

2021年 9月28日

社員5人(社員杜氏1人を含む)、創業100年を超える清酒製造業を経営しています。米国向けの輸出を検討しており、FSMAへの準拠が必要と聞きましたが、どのような点に考慮したらよいですか。

回答

FSMAは、米国食品安全強化法といい、米国で製造される食品・米国向けに輸出される食品に関連する事業者に対して対応が求められる米国で制定された法律です。対象品目が定められており、日本酒もアルコール飲料として、製造する施設のFDA(食品医薬品局)への施設登録および2年ごとの更新が必要となります。

FSMAについては、ジェトロが窓口となり情報を取りまとめていますので、必ず最新の情報をジェトロのホームページで確認するようにします。

米国向けに食品の輸出を考えていない場合には、取得する意味はありません。また、米国農務省(USDA)が管轄する食品(例えば、畜肉・家きん肉・卵製品)のみを扱う事業者はFSMAの対象外です。

制定された背景

米国で多数の食品事故が起きたことがきっかけの一つです。そのほとんどの場合は予防可能な危害であると考えられたことで、食糧供給の過程で安全を保障することにより公衆衛生を向上することが目的として、FDA (食品医薬品局)の権限を多岐にわたり強化するために制定されました。
2011年1月4日に法律が成立し、順次詳細が発表される形がとられました。

対象

米国内の食品関連事業者だけでなく、米国向けに輸出をしている日本の食品関連事業者に対しても対応が求められます。

食品施設においての対象品目

  • 野菜・果実
  • 精米
  • 水産物
  • ジュース
  • 低酸性缶詰食品(密封容器入り)
  • 栄養補助食品、栄養補助成分
  • アルコール飲料
  • 乳児用ミルク
  • 清涼飲料水
  • 殻つき卵
  • 乳製品
  • 食品添加物
  • 緑茶(製茶)
  • その他加工食品全般(パン、菓子類、調味料等)

品目ごとの適用

品目ごとの適用表

各条文の中身は、ジェトロのホームページから最新のものをご確認ください。主な留意点としては、製造や加工だけではなく、梱包、保管なども対象となります。また、品目により適用される条項が異なります。前項目に示した品目については全て、「第102条」「第201条」「第306条」の対象(義務)となります。その他の条項は品目によりますので、取扱い品目に合わせて確認が必要です。さらに、梱包、保管などの食品施設以外では、「第105条」による農産物安全基準においては農場(第一次生産農場・第二次活動農場)が未加工農産物について適用対象となります。加えて、「第111条」では衛生的な食品輸送という点から、米国内への運搬について適用対象とされます。最後に「第301条」では外国供給業者検証プログラムの適用対象になる品目等が多数あります。
いずれにおいても義務となっているため、自身の取扱い品目において義務の対象の有無について細かく確認することが大切になってきます。

FDAによる査察

「第201条」によりFDA(米国食品医薬品局)による査察が行われます。
米国内に流通する食品を製造する施設は、FDAへの施設登録および2年ごとの更新が必要です。

査察の頻度

米国では年間1万件前後の施設で査察(立ち入り検査)が実施されています。FSMA成立後は約86%が米国内、残りの14%が国外での査察となっています。
国外では、中国・イタリア・スペイン・日本などの食品供給施設への査察が多い傾向にあります。

査察でのチェック項目

  • 食品添加物の申請
  • 食品成分、食品規格、食品表示等
  • 食品由来の微生物危害
  • 殺虫剤、化学薬剤汚染

これらの項目が特にチェックをされている項目です。

査察の流れ

米国内に流通する食品を製造する施設は、米国食品医薬品局(FDA)への施設登録および2年ごとの更新が必要です。FDA)は米国内外の登録された施設に対して査察を行っています。コロナ禍においては、査察の延期がされていることがあります。

査察の流れの図

対応のポイント

ここでは、主な条文ごとのポイントを説明します。

第103条:HACCAPに準じた管理が必要です

製造 → 加工 → 梱包 → 保 管 ⇒ 輸送・輸出

全ての工程でPCHF規則※の対応が必要です。

※第 103 条「危害要因分析及びリスクに基づく予防コントロール」の施行規則で、「食品に対する現行適正製造基準、危害要因分析、及びリスクに基づいた予防コントロール(Current Good Manufacturing Practice, Hazard Analysis, and Risk-Based Preventive Controls for Human Food)」の略で、PCHF規則は7つのSubpartに分かれている。

第105条:農場でも対応必須

製造 → 加工 → 梱包 → 保管 ⇒ 輸送・輸出

従業員向けのトレーニング・衛生管理の徹底・農業用水の管理が必要です。

第106条:意図的な食品不良の防止(フードディフェンス)の対応です

製造 → 加工 → 梱包 → 保管 ⇒ 輸送・輸出

FDQI(食品防御適格者)による食品防御計画の策定と実施が必要です。
適用対象はヒト向けの食品施設です。動物向けや農場は適用対象外です。
食品防御計画は、脆弱性評価に基づき、リスク低減を実行すべき工程段階(ASP)が特定された場合に、その脆弱性によるリスクを最小限または防止するための低減策やモニタリング・是正措置・検証手順を予め決めたもののこと。

第301条:米国の輸入業者がチェック

輸入業者(米国内) → 検証 → 外国供給業者(食品メーカー等、農場・共同組合施設等)

PCHF規則に沿った製造・農産物安全基準に従っている・不良状態ではないか・不当表示ではないかという点がチェックされます。

出典:農林水産省・日本貿易振興機構(ジェトロ)

回答者

中小企業診断士 三海 泰良

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