ビジネスQ&A
サイバーセキュリティ対策を行うためのツールについて教えてください。
2024年 8月 16日
中小企業・小規模企業がサイバーセキュリティ対策を推進するためのツールにはどのようなものがあるのか教えてください。
回答
デジタル化が急速に進む現代社会において、企業におけるサイバーセキュリティの重要性が高まっています。特に、中小企業はリソース不足や専門知識の欠如から、サイバー攻撃の標的とされることが増えてきました。その脅威から身を守るために、まずは自社のセキュリティ管理体制を構築し、全社一丸となってセキュリティ対策に取り組みましょう。その上で、自社にとって適切なセキュリティツールを選定し、活用していくことが重要です。
1. サイバーセキュリティの重要性
現代のビジネス環境において、サイバーセキュリティは企業の存続に欠かせない要素です。インターネットの普及とデジタル化の進展に伴い、サイバー攻撃の手法も高度化しています。サイバー攻撃を受けることで、企業は財務的損失だけでなく、信頼の失墜や法的問題に直面する可能性もあります。
(1)中小企業がターゲットになる理由
中小企業がサイバー攻撃の標的となる理由は複数あります。まず、リソースの制約からセキュリティ対策に十分な投資ができないことが挙げられます。また、専門知識を持つ人材が不足しているため、最新の攻撃手法に対応するのが難しいことも一因となります。さらに、多くの中小企業は、サイバーセキュリティの重要性を十分に認識しておらず、対策が後手に回っているという現状もあるでしょう。
(2)サイバー攻撃の形態
サイバー攻撃には様々な形態があります。最も一般的なのはマルウェア(不正かつ有害な動作を行う意図で作成された悪意のあるソフトウェア)です。これにはウイルス、ワーム、トロイの木馬、スパイウェアなどが含まれ、感染すると情報漏洩やデータ改竄などの被害が生じます。また、偽のメールやウェブサイトを使って個人情報や企業情報を詐取するフィッシング攻撃も広く行われています。2024年に大手動画共有サービスが攻撃を受けたことで話題になったランサムウェアは、感染したシステムをロックさせ、その解除のために身代金を要求するもので、近年は中小企業を中心に被害が広がっています。
(3)被害の影響
サイバー攻撃による被害は多岐に渡ります。財務的な損失はもちろんのこと、顧客情報の流出などが発覚すると、顧客からの信頼を失い、ビジネスの継続が困難になることもあります。
中小企業の被害事例の一例を挙げてみましょう。A社はランサムウェア攻撃を受け、全社のデータが暗号化されてしまいました。A社はバックアップを取っていなかったため、データを取り戻すために高額な身代金を支払うことになりました。さらにこの事件の報道により、A社のセキュリティ面における脆弱性がクローズアップされることとなり、顧客からの信用が失墜し、売上が大幅に減少しました。こうした事例は、サイバーセキュリティの重要性を再認識させるものであり、早急な対策が求められます。
2. サイバーセキュリティ対策導入のステップ
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開する「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(*1)は、中小企業が情報セキュリティ対策に取り組む際の、(1)経営者が認識し実施すべき指針、(2)社内において対策を実践する際の手順や手法をまとめたものです。
(*1)中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン
(1)情報セキュリティ5か条
「サイバーセキュリティ対策といっても、何をしたら良いかわからない」という企業においては、IPAが提唱する「情報セキュリティ5か条」を参照の上、まずはできるところから取り組むことが重要です。
第1条 OSやソフトウェアは常に最新の状態にしよう!
第2条 ウイルス対策ソフトを導入しよう!
第3条 パスワードを強化しよう!
第4条 共有設定を見直そう!
第5条 脅威や攻撃の手口を知ろう!
(2)情報セキュリティ基本方針の作成と対策の決定
情報セキュリティ基本方針とは、組織が情報セキュリティをどのように考え、位置付けているかを文書化したものです。決まった書式はありませんので、自社事業の特性や取引先との関係を踏まえた上で、適切な方針を作成しましょう。作成した方針は従業員への明示だけでなく、取引先など外部へも周知する必要があります。
その後は、作成した情報セキュリティ基本方針に基づき、具体的なセキュリティ対策を検討していきます。この際、IPAが提供する「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」(*2)ツールを活用して、自社におけるセキュリティ対策の現状を把握すると良いでしょう。この診断結果を基に、自社が必要とする対策を明確にし、従業員に周知させることで、全社的な実施体制を整備していきます。
(*2)5分でできる!情報セキュリティ自社診断
(3)情報セキュリティマネジメントの構築
情報セキュリティ対策を推進していくためには、組織全体で管理・運用を行う情報セキュリティマネジメントが必須です。IPAでは、以下の2点を整備するよう言及しています。
ア 責任分担と連絡体制の整備
情報セキュリティ責任者から部門責任者を通じて従業員へ至る情報伝達経路を確立し、緊急時には情報セキュリティ責任者へ情報が集約される体制を整備します。情報セキュリティ責任者は情報セキュリティ対策の決定権を有するため、情報セキュリティに関する広範な知見や経験が必要となります。ただし、情報セキュリティ責任者のみに一切の責任を負わせるのではなく、従業員全員が情報セキュリティマネジメントの当事者である自覚を持った上で業務に当たることが肝要です。
イ 緊急時対応体制の整備
重大なインシデントが発生した場合に備え、誰が何をするかといった役割や手順を明文化しておく必要があります。社内だけでなく社外のベンダーや関係機関との連携についても、事前に確認しておきましょう。また、実際に定めた通りに動くことができるのか、定期的に訓練を行っておくと効果的です。
3. 中小企業が利用できるサイバーセキュリティツール
サイバーセキュリティ対策の一環として、適切なセキュリティツールを導入することで、サイバー攻撃のリスクを大幅に低減できます。
(1)ウイルス対策ソフト
ウイルス対策ソフトは、マルウェアからシステムを保護するための基本的なツールです。これにより、ウイルス、ワーム、トロイの木馬、スパイウェアなどの悪意のあるプログラムを検出し、除去することができます。
従来、ウイルス対策ソフトは、PCなどへ直接インストールする形式が一般的でした。最近では、安価な初期費用で使えるクラウド型のソフトも増え、中小企業でも導入しやすい環境が整っています。
(2)ファイアウォール
ファイアウォールは、外部からの不正アクセスを防ぐためのセキュリティツールです。ネットワーク全体のトラフィックを監視し、許可された通信のみを通過させることで、サイバー攻撃を防ぎます。
ファイアウォールには、ソフトウェア型とハードウェア型の2種類があります。ソフトウェア型は、PCやサーバ一台一台にインストールすることで、異常な通信からPCを守る働きをします。ハードウェア型は、社内のネットワークを守る働きをするもので、一般的にはルータに搭載されています。
(3)エンドポイントセキュリティ
エンドポイントセキュリティは、従業員のデバイス(PC、スマートフォン、タブレットなど)をサイバー攻撃から守るためのセキュリティ対策です。テレワークの普及などによって、外部から社内ネットワークへ接続する機会も増大しました。その結果、ノートPCやスマートフォンといったエンドポイントについても、セキュリティ対策が求められるようになっています。
エンドポイントセキュリティの1つであるEndpoint Detection and Response (EDR) は、デバイスの挙動を監視することで、侵入を防げなかったウイルスなどの脅威を検知・対処するソフトウェアです。
(4)バックアップソフト
サイバー攻撃によるデータ損失を防ぐためには、定期的なバックアップが不可欠です。バックアップソフトも近年はウイルス対策ソフト同様、クラウドバックアップと呼ばれるクラウド上の仮想サーバへ保管する形式が増えてきました。自社の物理的なハードディスクではなく、遠隔地のデータセンターへのバックアップとなるため、サイバー攻撃だけでなくBCP対策の一環としても有効な手段となっています。
これらのサイバーセキュリティツールを導入する際は、予算に応じたツール選定と定期的な見直しを行い、常に最新のセキュリティ環境を整備することが重要です。
- 回答者
-
中小企業診断士 佐合和行
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