ビジネスQ&A

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進について、どのように対応していけばいいでしょうか。

2021年1月18日

従業員5名の不動産会社を経営しています。最近、DXという言葉をよく耳にしますが、自社にどのような影響があるのか、これまで推奨されてきたITツールの活用と何が違うのかがよく分かっていません。どのような取り組みをしていけばいいのでしょうか。

回答

DXの進展は自社のビジネス環境を一変させる可能性があります。IT活用による仕事の効率化とは異なる概念であることに留意し、デジタル技術の活用が引き起こしうる変革について理解しておきましょう。

対応としては、技術の進展や市場動向に対する情報感度を高め、変化を恐れずにリアルとネットの両面からビジネスモデルを再構築し、お客様への提供価値を高めていくことが求められます。

1. DXの定義とIT活用との違いについて

「DX」という言葉は様々な場面や意図で用いられており、ひとことでDXといっても人によって異なるニュアンスを想定している可能性があることに注意が必要です。

まずは、DXという言葉の由来や定義について紹介します。DXという言葉は実は古く、2004年にスウェーデンの教授が提唱したことが始まりとされています。この時の定義は、「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」というものでした。

続いて、2018年に経済産業省が策定した「DX推進ガイドライン」でも引用された、IT専門調査会社「IDC Japan」が次の通りに定義した内容を紹介します。
(本記事においても、以降はこちらの定義に即した内容で記述します)

“企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”

ちょっと分かりにくいですね。いくつかキーワードを拾って解説します。

外部エコシステムの破壊的な変化

外部エコシステムとは、企業経営における顧客や市場、提携企業などの繋がりや、それらを巻き込んで事業が発展していく様子を自然界の生態系になぞらえて表現したものです。つまり、外部エコシステムの破壊的な変化とは、顧客や市場、提携企業の繋がりから構築される外部環境の生態系が一変してしまうことを表現しています。

内部エコシステムの変革

同様に、内部エコシステムとは、従業員の繋がりから醸成される社内の生態系を表現します。組織のあり方や社内文化、従業員の関わり方も変革が推進されるということです。

新しい製品やサービス、ビジネス・モデルを通じて、ネットとリアルの両面で顧客エクスペリエンスを変革し、価値を創出

ネットとリアルの双方から新しい製品やサービス、ビジネスモデルを構築し、サービスを受けたお客様が今までにない体験を得られることが価値に繋がるとしています。

ステークホルダー(利害関係者)との関係の強化、新たな政策展開との同調

SDGs と経営上の優先課題を統合させる企業は、顧客、従業員、その他の利害関係者との協働を強化できます。

競争上の優位を確立すること

この結論からもわかる通り、DXは仕事の効率化ではなく、事業構造の変革により生存競争を勝ち抜くためのデジタル活用という視点を持っています。ITによる業務効率化はDXを実現する前提の一つでしかありません。

社内の効率化としてのIT活用だけに目を向けるのではなく、事業のあり方やお客様が体験する価値の向上をデジタル技術で実現することが、DXの本質となります。

2. 政府が推進するDXについて

本記事執筆時点(2021年1月)で、政府はデジタル庁の設立を進めており、行政が抱える様々な課題に対処しようとしています。これらの動きは、国の方向性として理解しておくことが推奨されます。

行政が推進するDXは、以下の3つの観点があります。

  1. 行政手続きのデジタル化
  2. データの公開と活用(オープンデータ)
  3. 老朽化した既存システムの再構築と共通基盤化による全体最適の実現
経産省の取り組みの解説
上記1.についての、経産省の取り組みの解説(https://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/article01.htmlより引用)

例として、2021年も公募が予定されているIT導入補助金は、申請手続きは押印不要のオンラインで完結させることができます。書類の郵送が不要となり、入力内容の自動チェック機能も搭載され、書類不備に関する工数が大きく削減されました。

他国の事例として、政府のデジタル化が進んだデンマークでは、オープンデータの活用などの効果により5年間で800億円もの経済効果が生まれたという事例もあります。

IT業界に属さない中小企業にとっては、これらの行政の変革はさほど興味をそそられないかもしれません。ですが、はんこレスの推進が印鑑業界に大きな影響を生じているように、行政のDXが自社の事業環境に波及する可能性は充分にあります。

他人事と思わず、ぜひ方向性を見定めて経営に活かすことを検討してみてください。

3. DXの推進に対して、中小企業や小規模事業者が検討すべき事項は

3.1 DXが中小企業・小規模事業者に及ぼす影響とは?

DXの推進は、新たな顧客体験価値を提供できるサービスによって、旧態依然としたビジネスの破壊的な変革が起こりうることが想定されます。すなわち、デジタル化が遅れている業種業態ほど、革新的なサービスの登場でビジネス環境が一変するリスクを抱えているとも考えられます。

例えば、ペーパーレスが進むと印刷・印鑑業界のみでなく、テレワークの促進を通して都心部を中心とする店舗事業にも影響を及ぼすでしょう。人との接触の削減要求は、リアルを前提とする多くのビジネスモデルでネット対応の必要性が生じています。

政府等のオープンデータ化の推進は、大量のデータを処理し判別するAIを活用するサービスに新たな可能性をもたらすと考えられます。例えば、経済産業省がオープンデータとして法人情報を公開する「gBizINFO(https://info.gbiz.go.jp/)」に代表されるように、様々なデータが公開され、AIが利用できるようになるでしょう。これらは、例えば不動産業界では重要な機能である与信調査などへの影響が考えられます。

他にも、不動産業界においてはAR・VR技術の進展が大きく影響を及ぼす可能性があると言えます。デジタル技術の進化が新たな顧客価値を生む事例となるでしょう。

3.2 中小企業や小規模事業者はどのようにDXに対処すべき?

資本体力も少なく、規模も大きくない企業が、DXによる変革に乗り遅れないための第一歩として、以下のポイントを押さえておきましょう。

  1. IT活用による業務改善や電子化を進めておく
    DXの前提として社内のIT環境が整備されていることが重要です。着手しやすい業務改善から、まずは始めてみましょう。社員のITスキルを高めることも重要です。
  2. 小額投資によるスモールスタートから始める
    ビジネスモデルの変革への挑戦は、失敗がつきものです。PDCAサイクルを回すことを前提に、提供するサービスの価値を検証する仕組みを作りましょう。
  3. 国内のみでなく、欧米の市場動向や環境変化に対する情報感度を高める
    多くの場合、ITに関する先鋭的な取り組みはアメリカを中心とする欧米各国で始まり、遅れて日本での普及が始まります。国内の市場動向のみでなく、欧米各国に目を向けることで自社産業の未来をある程度推測することができるでしょう。

デジタル技術は急速に進化し、新たな製品やサービスが日々生まれています。中小企業や小規模事業者は、多くの場合デジタル技術の普及で生じる変革に対して受け身の立場になるでしょう。

そのような状況下においても、まずは変革に対応する準備としてITが活用できる体制を整え、情報感度を高めていきましょう。そして、自社のビジネスを取り囲む環境の変化についていち早く兆候を察知し、ライバルに先駆けた対応を実施することが大切です。

参考資料:

回答者

中小企業診断士/E-SODAN「専門家とのチャット」 毎週火曜日:ITに関する相談担当
高仲 秀寿

同じテーマの記事