ビジネスQ&A

新型コロナウイルス感染症の第2波や自然災害に備えるための計画があると聞きましたが、どういったものなのでしょうか?

2020年6月22日

製造業を営んでいます。以前から震災など不測の事態への対応もしなければと思っていましたが、目先の仕事に追われて後回しにしてきました。昨年は台風の被害も各地で発生し、現在はコロナウイルスで大きな影響が出ています。この機会に対応し始めたいと思っている中で「事業継続力強化計画」というものがあると聞きました。どういったものなのでしょうか?

回答

予想される新型コロナウイルス感染症の第2波、夏の水害・台風、そして地震…様々なリスクが想定される中で、事業を継続するために、まずは「もしも」のときのための計画を事前に作ることが備えの第一歩となります。そうした計画として国が定めたのが「事業継続力強化計画」です。

1.制度創設の経緯

令和元年7月16日に「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律」(以下「中小企業強靱化法」)が施行され「事業継続力強化計画」の認定制度が創設されました。

中小企業が行う防災・減災の事前対策に関する計画を経済産業大臣が認定するもので、認定後は、税制優遇や補助金の加点などの支援策を活用することが可能になります。

事業継続力強化計画は、企業が単独で作成する場合と複数の事業者が連携して取り組む場合があります。連携の場合は以下4つの連携が考えられます。

1)組合型

2以上の組合(例:同業組合間等)が連携して、災害時の支援等を約する取組

2)サプライチェーン型

サプライチェーンによる取引関係等のある複数の企業が連携して、災害時の支援等を約する取組

3)地域型

同一地域内(例:工業団地など)の複数企業が連携して、災害時の支援等を約する取組

4) 相互補完・成長型

遠方の企業が連携し、災害時にあっては、「お互い様連携」を通じて災害対応力の強化を図り、平時にあっては、経済交流を通じて業績拡大に挑戦する取組

2.ポイント

事業継続力強化計画のポイントは以下2点です。

  • 災害対策の入口として事業継続計画BCPより格段に作成負担が少なく、小規模事業者のみなさまにも着手しやすいこと。
  • 台風災害等の復興現場でも、災害対策をしている企業は人命を守るとともに早期に復旧着手出来ている傾向にあること。

このような事業継続力強化計画について、次に内容や作成手順を見ていきましょう。

3.事業継続力強化計画認定制度の概要

本制度は、中小企業が行う防災・減災の事前対策に関する計画を経済産業大臣が認定するものです。
認定を受けた中小企業は、税制優遇や補助金の加点などの支援策を活用することが可能です。

計画認定のスキーム

○認定対象事業者

  • 防災・減災に取り組む中小企業・小規模事業者

○事業継続力強化計画の記載項目

  • 事業継続力強化に取り組む目的の明確化
  • ハザードマップ等を活用した、自社拠点の自然災害リスク認識と被害想定策定。
  • 発災時の初動対応手順(安否確認、被害の確認・発信手順等)策定。
  • ヒト、モノ、カネ、情報を災害から守るための具体的な対策。
    ※自社にとって必要で、取り組みを始めることができる項目について記載。
  • 計画の推進体制(経営層のコミットメント)。
  • 訓練実施、計画の見直し等、取組の実効性を確保する取組。
  • (連携をして取り組む場合)連携の体制と取組、取組に向けた関係社の合意。

○認定を受けた企業に対する支援策

  • 低利融資、信用保証枠の拡大等の金融支援
  • 防災・減災設備に対する税制措置
  • 補助金(ものづくり補助金等)の優先採択
  • 連携をいただける企業や地方自治体等からの支援措置
  • 中小企業庁HPでの認定を受けた企業の公表
  • 認定企業にご活用いただけるロゴマーク(会社案内や名刺で認定のPRが可能)

〇参考URL

◎『事業継続計画(BCP)』と『事業継続力強化計画』の違い

〇事業継続計画(Business Continuity Plan)とは

企業等が緊急事態(自然災害、大火災、感染症など)に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするため、平時に行うべき行動や、当該緊急非常時における事業継続のための方法、手段などをあらかじめ取り決め、それを文書化したものです。

〇中小企業が初めて防災計画を策定するなら『事業継続力強化計画』がオススメ

『事業継続力強化計画』は防災の必要性を認識することから始まり、想定される人的・物的被害の把握、初動対応及び体制作りを主眼としています。一方『事業継続計画(BCP)』は『事業継続力強化計画』の考え方に加え、被災後の事業の継続・早期復旧も視野に入れている点で異なります。

すなわち『事業継続計画(BCP)』は『事業継続力強化計画』を包含したものと言えます。

実際に『事業継続計画(BCP)』を作成すると、詳細な計画が数十ページに及ぶこともあり、作成までにかなりの負担がかかったと言う声を聞きます。他方『事業継続力強化計画』は記入前の様式が5ページしかありません。内容も簡便でわかりやすく、手引きを参考にすれば比較的簡単に作成できます。

中小企業が防災に関する計画を初めて作成する場合には『事業継続力強化計画』から取り組むと良いでしょう。

出典:平成30年度 中小企業等強靭化対策事業(事前対策の普及啓発に係る策定支援事業)

4.『事業継続力強化計画』の策定の前に資金繰りを確認しましょう!

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、売上が減少した際に直面することの一つが資金繰りです。企業によっては資金が足りないのはわかっているが、いつ、いくら不足するのか?が正確にはわからないことがあったようです。

そこで事業継続力強化計画を策定する前に資金繰りを確認してください。まだ資金繰り表がない場合は、以下を参考に資金繰り表を作成してみてください。

資金繰り表で把握した必要金額は、次項の事業継続力強化計画策定Step5「事業継続力強化を実施するために必要な資金の額及びその調達方法」に記載する際の参考になります。

5.『事業継続力強化計画』の策定ステップ

事業継続力強化計画は様式に従って記入すれば比較的簡単に作成できます。

具体的な手順は以下の5つのステップです(参考資料もご参照下さい)。

Step1:目的の明確化

いざというときに慌てないよう、災害時に何を目標とするのかを予め想定します。

【事業継続力強化計画に係る認定申請書様式の記入項目】
  • 「2 事業継続力強化の目標」の「自社の事業活動の概要」及び「事業継続力強化計画に取り組む目的」

Step2:リスク認識、被害想定

市区町村のホームページにあるハザードマップから震災、水害等のリスクを確認します。
また、確認したリスクから事業への影響を想定します。

【事業継続力強化計画に係る認定申請書様式の記入項目】
  • 「2 事業継続力強化の目標」の「事業活動に影響を与える自然災害等の想定」「自然災害等の発生が事業活動に与える影響」を記入します。

Step3:初動対応手順

まず人命の安全確保(従業員の避難、安否確認など)を行います。
次に非常時に行動するための緊急体制を構築します。
そして被害状況を取引先や関係団体への共有方法について連絡先等を明確にします。

【事業継続力強化計画に係る認定申請書様式の記入項目】
  • 「3 事業継続力強化の内容」の:
    「(1)自然災害等が発生した場合における対応手順」
    「(4)事業継続力強化の実施に協力する者の名称及び住所並びにその代表者の氏名並びにその協力の対応」

Step4:経営資源(人、物、金、情報)への対応

自然災害等が発生した場合の事業継続力強化のため、人・物・金・情報といった経営資源ごとに対策および取組みを設定します。

【事業継続力強化計画に係る認定申請書様式の記入項目】
  • 「3 事業継続力強化の内容」の「(2)事業継続力強化に資する対策及び取組」

Step5:実効性の担保

作成した事業継続力強化計画が実効性を持ち続けるため、非常用電源など今後導入したい設備の内容、平時の推進体制の整備・教育訓練、従業員の給与や仕入れ代金など必要な資金額と調達方法を明らかにします。

【事業継続力強化計画に係る認定申請書様式の記入項目】
  • 「3 事業継続力強化の内容」の:
    「(3)事業継続力強化設備等の種類」
    「(5)平時の推進体制の整備、訓練及び教育の実施その他の事業継続力強化の実効性を担保するための取組」
  • 「5 事業継続力強化を実施するために必要な資金の額及びその調達方法」

作成後は、都道府県を管轄する経済産業局または内閣府の沖縄総合事務局に提出します。

◎新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた今後の支援策

今回の新型コロナウイルスの感染症の拡大を受け、経済産業省は令和2年4月に公表した緊急経済対策に、感染症対策を加味したBCP及び事業継続力強化計画の策定支援事業を計上しています。

具体的な事業は、以下2つを予定しています。

  • 普及啓蒙活動
    リスクファイナンスなどのコンテンツ作成、事業継続力強化計画策定の手引き改訂や説明動画作成、ガイドライン等の周知のための広告の実施。
  • 感染症対策等の計画策定支援事業
    感染症や自然災害等の事前対策に知見のある支援人材を派遣しての計画策定支援、自社製品の生産を可能とする代替生産先の確保を含む計画策定

◎まとめ

事業継続力強化計画の認定を受けると補助金の優先採択をはじめ様々なメリットがあります。しかし最も重要なことは台風災害等の復興現場でも、あらかじめ災害対策をしている企業は人命を守るとともに、早期に復旧着手出来ている傾向にあることだと思います。

従来の地震、台風等の災害に加え、現在は新型コロナウイルス感染症の影響が世界的にも深刻化しています。

経営者をはじめ社員やそのご家族の命を守り事業を継続するために、ぜひ事業継続力強化計画を策定してみてください。

なお、中小機構では、先述の補正予算事業と合わせて、事業継続力強化に関するシンポジウムや計画策定のためのセミナー・ワークショップ等を実施予定です。詳しくは中小機構サイト等をご確認下さい。

回答者

中小企業診断士・キャリアコンサルタント/E-SODAN「専門家とのチャット」担当
濵松 一弘

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