ビジネスQ&A
LGBTQに配慮した企業の取り組みについて教えてください。
2023年 12月 8日
LGBTQに配慮した企業の取り組みを始めたいと思っています。どのようなやり方で取り組んでいったらよいのでしょうか。教えてください。
回答
LGBTQとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど、性的少数者・セクシュアルマイノリティと呼ばれる人びとを指す総称です。性のあり方は生物学的な性別に加えて、自己が認識する性(性自認)、性的魅力を感じる性(性的指向)などがあり、これらの要素にはさまざまな組み合わせがあります。性自認や性的指向の多様性を尊重することは、人が生まれながらに持っている基本的人権だと理解することが、LGBTQに配慮した職場づくりの第一歩です。
1.性的指向・性自認の尊重は基本的人権の一つ
LGBTQという言葉は、2023年に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(以下、LGBT法)」の施行により、近年、認知度が高まっています。企業に求められる対応として、LGBT法では「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるための情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置」と定められています。詳細は今後、国が策定する基本計画などで具体化されると思いますが、LGBTQの従業員に対するハラスメントを防止することは、すでに別の法律(労働施策総合推進法)で企業に義務化されています。
LGBTQとは性的少数者・セクシュアルマイノリティと呼ばれる人びとを指す総称です。詳しくは下表をご参照ください。
上表に挙げたLGBTQ以外にも、自己の認識する性別が男性か女性のどちらかに該当しないX(エックス)ジェンダー、他者に対して性的魅力を感じないアセクシュアルなど、多様な性のあり方があります。
性のあり方は主に、以下の要素の組み合わせ(*1)で成り立っています。
(1) 身体の性別
生物学的な性別、出生時に医師によって判定された性別。
(2) 性自認(ジェンダーアイデンティティ)
自己が認識する性別。LGBT法では「自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識」と定義されています。
(3) 性的指向
性的魅力を感じる性別。LGBT法では「恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向」と定義されています。
これらの要素の組み合わせはさまざまであり、それぞれの要素に濃淡や強弱もあるので、一人ひとり多様な性のあり方があることを理解することが大切です。性的指向・性自認は本人の認識によって決まるものであり、それを理由に不利益な扱いをしてはいけません。一人ひとりの性的指向・性自認を尊重することは基本的人権のひとつであり、LGBT法でも「全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないものである」と明記されていることを、押さえておきましょう。
2.無意識のうちに起こりうるハラスメント
性的指向・性自認を理由とするハラスメントは、無意識のうちに起こりえます。厚生労働省では、例えば以下の言動がハラスメントに該当するとしています。
(1) 性的指向・性自認に関する侮辱的な言動をとること(*2)
(例)「ホモ」「おかま」「オネエ」「レズ」などを含む言動をとること、「同性愛者は気持ち悪い」などと言うことなど
(2) 性的指向・性自認などの機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する(*2)
(例)LGBTQの従業員が、自身の性的指向や性自認について上司や同僚などに相談した際、相談を受けた従業員が当該従業員の同意なく、性的指向や性自認に関する情報を第三者に漏えいすること
(3) 被害を受ける者の性的指向や性自認にかかわらず、性的な内容の発言および性的な行動をすること(*3)
(例)性的な事実関係を尋ねること、必要なく身体へ接触することなど
上記の言動以外にも、例えば以下のような言動も、性的指向・性自認を理由とするハラスメントに該当する可能性があります。
- 採用選考においてLGBTQの人を排除すること(*4)
- トランスジェンダーの従業員に対して、性別適合手術を受ける前の写真や戸籍上の名前を開示するように求めること(*5)
- 「良い年なのだからそろそろ結婚してはどうか」、「もう少し男らしく/女らしくしなさい」など、性的指向が異性であることや、身体的性別と性自認が一致していることを前提とした発言をすること
近年では、性的指向に関する情報を第三者に漏えいされたことによる精神疾患の発症が労災として認定される事例(*6)や、トランスジェンダーの従業員と他の従業員、それぞれの要望を踏まえて最適な職場環境を整備することが大事であるという裁判例(*7)が出てきています。
日本におけるLGBTQ該当者は、概ね3%~8% (*8)(調査機関や調査方法によって異なる)と言われています。自身がLGBTQであることを職場に伝えていない人もいるため、自社にはいないと考える企業の方がいるかもしれません。ただし、無意識のうちに、性的指向・性自認を理由とするハラスメントを起こしてしまうリスクがあるので、企業としては、自社にLGBTQの従業員がいることを前提とした対応が求められます。
3.厚生労働省が示した7つの取組み
厚生労働省が2020年に公表した「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」では、企業の取組みとして主に以下のようなことが挙げられています。
(1) 方針の策定・周知や推進体制づくり
性的指向・性自認にかかわらず多様な人材が活躍できる職場づくりをすることを企業が表明することで、LGBTQである/ないにかかわらず、従業員が安心して働くことができます。
(2) 研修・周知啓発などによる理解の増進
LGBTQの従業員が働きやすい職場をつくるには、従業員一人ひとりがLGBTQについて正しい知識を身につけ、理解の増進をはかることが大切です。
(3) 相談体制の整備
性的指向や性自認に関する相談窓口を明確化し、実際に相談を受けたときは、その内容をどこまで社内で伝えるか、当該従業員の承諾を得ましょう。当該従業員がLGBTQであるという情報が、本人の承諾なく、当該従業員の承諾を得た範囲外の人に漏れないようにすることが重要です。
(4) 採用・雇用管理における取組み
採用や配置、昇格、昇進などの場面で、性的指向や性自認を理由とした不利益を従業員が被ることのないよう、公平な取り扱いが求められます。
(5) 福利厚生における取組
企業が整備している各種制度について、LGBTQの従業員にも柔軟に適用できるようにしましょう。
(6) トランスジェンダーの社員が働きやすい職場環境の整備
LGBTQのなかでも特にトランスジェンダーの従業員については、氏名の表記やお手洗いの使用、海外出張、医療機関での治療など、配慮が必要な場面があります。
(7) 職場における支援ネットワークづくり
LGBTQについて正しく理解して支援する姿勢を表明することで、LGBTQの従業員が安心して働くことができます。
実務上は、上に示した取組みを参考に、自社の状況に応じて適切に対応していくことになります。例えば、身体の性別が男性で性自認が女性のトランスジェンダー従業員が女性用のトイレや更衣室を使用したいと希望した場合、他の女性従業員の意見も取り入れながら最適解を模索、調整することなどが挙げられます。
なお、性的少数者・セクシュアルマイノリティと呼ばれる人びとを指す言葉として「LGBTQ」の代わりに「SOGI」が用いられることがあります。厚生労働省の「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」において、SOGIは、「性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとった略称」であり、「特定の性的指向や性自認の人のみを対象とするのではなく、すべての人を含む表現」であると定義されています。
すべての人を含むので、身体的性別と性自認が一致しており、性的指向が異性である「性的多数派」の人も含まれることになります。一人ひとりのSOGIを尊重した言動がとれるよう企業内での理解増進に努めつつ、LGBTQの従業員に配慮した職場環境を整えることは、誰もが安心して力を発揮できる職場づくりにつながるのです。
(*1) 3つの要素に加えて、言葉遣い・服装・振る舞いなどの性別表現を加えた、4つの要素の組み合わせとする向きもあります。
(*2) 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
(*3) 厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)
(*4) 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「採用選考自主点検資料~公正な採用選考を行うために~(令和5年度版)」
(*5) 国連人権高等弁務官事務所「国連ビジネスと人権の作業部会 訪日調査、2023年7月24日~8月4日 ミッション終了ステートメント」(2023年8月4日)
(*6) 日本経済新聞「性的指向の暴露「アウティング」で労災認定 労基署」(2023年7月24日)
(*7) 裁判所「令和3(行ヒ)285 行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件」(2023年7月11日 最高裁判所)
(*8) 一般社団法人日本経済団体連合会「週刊経団連タイムス 2023年8月10日 No.3602」
- 回答者
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中小企業診断士 黒澤 優
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