ビジネスQ&A
パワーハラスメントの起こらない職場にするにはどうすればいいでしょうか
2022年 5月 11日
管理職によるパワーハラスメントが発生し、苦労したという他企業の話を聴きました。当社は今のところ問題はないと思っていますが、対策は必要と思っています。何に注意すればよいか知りたいです。
回答
パワーハラスメントの定義を明確にしたうえで、パワーハラスメントは許さないと明確に発信しましょう。
もっとも、何がパワーハラスメントに当たるかの判断は難しいものです。「ハラスメントかどうか」の線引きに労力を費やすことはせず、一人ひとりが気持ちよく働ける職場づくりを目指しましょう。
1.パワーハラスメントとは
職場における「パワーハラスメント(以下「パワハラ」)」とは、職場において行われる
- 優越的な関係を背景とした言動であって、
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
- 労働者の就業環境が害されるもの
であり、1.~3.までの要素を全て満たすものをいいます。
代表的な言動の類型として、以下の6つがあげられます。
- 身体的な攻撃:暴行や障害
- 精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
- 人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
- 過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害
- 過小な要求:業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
- 個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
2.職場におけるハラスメント防止対策の強化
2019年5月の労働施策総合推進法改正により、職場におけるパワハラ防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となりました(大企業は2020年6月から、中小企業は2022年4月から)
背景には、パワハラが深刻な社会問題になっているという事情があります。厚生労働省の調査によると、都道府県労働局等に寄せられる民事上の個別労働紛争の相談件数では、「いじめ・嫌がらせ」に関するものが、2012年度以降連続して最多となっています(※1)
そのため、職場のパワハラ対策を強化するために、以下の措置を講じることが求められています。
事業主の方針の明確化及び周知・啓発
①職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
②行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
④相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
⑤事実関係を迅速かつ正確に確認すること
⑥速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
⑦事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
⑧再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も含む)
そのほか併せて講ずべき措置
⑨相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
⑩相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
3.パワハラは予防が大事
2.のなかで、予防に関するのは主に「事業主の方針の明確化及び周知・啓発」です。
具体的には、以下の取組を進めましょう。
(1) どんな行為がパワハラに該当するのか共通認識を持ったうえで、企業トップから「パワハラは許さない」と明確に発信しましょう。
このときに、パワハラの定義も確認します。「パワハラ=悪」ということに異論を唱える人はいないでしょうが、何がパワハラに当たるのか、人によって認識が違うこともあれば、悪気も自覚もなくやってしまうこともあり得ます。パンフレットやイントラネットを活用し発信したり、社内研修を実施したりして、一人ひとりが、自分の言動は「業務上必要かつ相当な範囲を超えていないか」「自分の価値観を押し付けたものではないか」を確認する機会にするとよいでしょう。「あかるい職場応援団」のeラーニングを活用するのもお勧めです。
(2) パワハラを行った者に対しては、厳正に対処することを、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、周知しましょう。一定の抑止力になるはずです。
(3) 皆が気持ちよく働ける職場づくりを心がけましょう。パワハラ防止対策は、本来は「法律があるから」という理由で取り組むものではありません。職場環境が良好であれば、皆が意欲的に働けますし、生産性の向上も期待できます。
そのための鍵は、職場のコミュニケーションです。こまめな報告・連絡ができれば仕事の抜け・漏れも防げますし、困ったときに相談できれば安心です。他にも、イライラせずに心穏やか働くために必要なことは何か、各職場で考えてみてください。
【参考資料】
厚生労働省パンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました! ~~セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに対応をお願いします~~」
【データ出典】
- 回答者
-
中小企業診断士・社会保険労務士 高橋 美紀
同じテーマの記事
- 従業員の間で有給休暇を使い切る人とほとんど使わない人の格差があり困っています。どのように対応したらよいか、教えてください。
- パート従業員の効果的な活用方法について教えてください。
- 従業員を客先に常駐させたいのですが、注意点を教えてください。
- 社会保険の加入について教えてください。
- 労働保険の加入について教えてください。
- 就業規則の作り方について教えてください。
- 業績連動型の給与体系を導入する際の注意点について教えてください。
- 目標管理制度における目標設定の方法について教えてください。
- いま職場内で実施すべきセクハラ対策には、どのようなものがありますか?
- 月末の残業を減らし、賃金コストを抑える方法を教えてください。
- 社長が集金業務で出かけているときのケガは労災になりますか?
- 安全管理や衛生管理の注意点を教えてください。
- 時間外労働削減問題が大きな問題となっています。削減のための考えられる対応策にはどういうものがあるでしょうか。
- 在宅勤務制度の時間管理の方法を教えてください。
- 勤務時間内のボランティア活動は、賃金を支払うものですか。
- 従業員の勤務態度のモニタリングは、どの程度まで認められるのでしょうか?
- 残業手当の未払い問題を起こさないための留意点はありますか?
- 賞与支給日に在籍しない従業員の賞与は払わなければいけませんか?
- 従業員の表彰制度の導入を検討しています。導入に当たってのアドバイスをお願いします。
- 反抗的な社員をうまく活用するにはどうすれば良いですか。
- 長時間労働を改善するための取り組みを教えてください。
- 従業員の入れ替わりが激しく、安定した品質の製品を生産することができません。従業員の定着率を上げるにはどうしたら良いでしょうか?
- 従業員のメンタルヘルス対策について教えてください。
- 店長の休日を確保するには、どうしたらよいのでしょうか?
- 精神障害者の雇用維持のために、会社として求められる対応を教えてください。
- 業務が習慣化しています。どうすれば士気を高められますか?
- 「出勤停止」と「自宅待機」の違いについて教えてください。
- 企業の年金制度について教えてください。
- 評価基準の設定と運用のポイントは何ですか?
- セクシャルハラスメント発生後の対策について教えてください。
- 新たに義務化されるストレスチェックとはどのようなものか教えてください。
- ワーク・ライフ・バランスへの取組みのためには何が必要ですか?
- テレワークを導入する場合の留意点について教えてください。
- 仕事の減少による自宅待機を社員に命じるときの注意事項は何か。
- 社員から副業をしたいと言われました。どのようなことに気をつけて対応したらよいでしょうか?
- パワーハラスメントの起こらない職場にするにはどうすればいいでしょうか
- コミュニケーションが取りづらく、どう接していいのかわからない社員への対応をどうしたらいいでしょうか?
- LGBTQに配慮した企業の取り組みについて教えてください。
- ワーク・ライフ・バランスに配慮するとどのような効果があるのか教えてください。