ビジネスQ&A

従業員を客先に常駐させたいのですが、注意点を教えてください。

私は5人の従業員を抱え、ホームページのデザインを請け負う会社を経営しています。ある大手のお客さまから、「うちのオフィスに常駐させて、作業させて欲しい」ということで、従業員のうちの一人をお客さまの事務所で働かせているのですが、何か問題はありますでしょうか?

回答

貴社とお客さまとの契約内容によっては、偽装請負とみなされる可能性があります。偽装請負とは、契約上請負の形を取っていますが、実態としては、お客さまの管理のもと、常駐している社員が、お客さまの指揮命令下で業務を行うという、派遣業務を偽装した業務形態のことを言います。労働者派遣法や職業安定法違反になり、是正勧告などを受けることになります。

お客さまの職場で、自社従業員を働かせる場合、2通りあります。1つは、お客さまから業務を請け負い、自社従業員をお客さまの職場で働かせる場合、もう1つは、労働者派遣法に基づき、自社従業員をお客さまの職場に派遣する場合です。

【請負の場合】

業務の委託を受ける際、「その業務が完成するという結果に対し報酬を支払う」という条件の取引を契約した場合、このような取引を法律用語で「請負」と言います。たとえば、「家を建てること(業務)が完成した場合、××万円(報酬)を支払う」という内容の契約をした場合、この契約は「請負契約」と呼ばれます。

請負契約の場合、請負者は、委託された業務を完成させればよいわけです。家を建てる請負契約を締結した場合、「家を建てるために何人の使用人を使うか?」とか、「どのようなスケジュールで進めるか?」といったような、家を建てるための具体的な事項は、原則として請負側の受託企業が判断して決めます。一方、発注者は、これらの事項については、原則として口出ししません。あくまでも、発注したとおりの家が建てられたかどうかで請負企業を評価し、対価を支払うことになります。

このような請負契約の考え方を、今回のご質問のケースにあてはめると、お客さまの職場に誰を常駐させるか、どのように仕事を進めさせるのかなど、請け負った業務の遂行にかかる従業員への指示は、すべてあなたが行うことになります。

【派遣の場合】

次に、労働者派遣法に基づき、お客さまに自社の従業員を派遣するという前提を今回のケースにあてはめてみます。お客さまは、自社で働いて欲しい「人」について、必要な能力や待遇などの条件を内容とした契約を締結することになります。派遣業者は、お客さまのニーズに合致した人材を派遣(「派遣社員」)し、お客さまのもとで働かせます。そして、お客さまは、自社の従業員と同様に、自ら派遣社員に対し、指揮・命令します。この場合、派遣業者および派遣社員は、この派遣社員の行った業務の結果については関係なく、対価を得ることができます。

このように、「請負」と「派遣」の特徴的な違いは、「誰が指揮命令するか」というところにあると言えます。

図1 請負と派遣 図1 請負と派遣
図1 請負と派遣

「請負」という形で人材を受け入れる形態は、景気の浮沈に伴い、委託する業務の内容を調整し、それによって受け入れる人材の人数を調整しやすいため、広く製造業やソフトウェア開発業などで、行われてきました。

【契約内容を精査】

一方、請負の形態を守ろうとしつつも、現場では指揮命令が直接なされてしまうケースが見受けられます。その結果、労働者派遣法などに定められた、お客さまと受託企業との責任分担が曖昧となってしまい、指揮・命令の所在が不明瞭になってしまうほか、実際にお客さまの現場で働いている派遣社員の雇用条件や保険、休暇などといった基本的な労働条件が不明確になってしまうことなどがあります。

したがって、最初に発注者と受託企業との間の契約で決めた内容をしっかり守っていく必要があるというわけです。

なお、労働者派遣か請負か、どちらに該当するかについては、契約の内容を書類審査するということではなく、実態に即して判断されるもので、仮に契約が請負契約の形態をとっていたとしても、常駐している社員と発注企業との間に指揮命令関係があるのならば、それは実態として「労働者派遣」として判断され、結果として「偽装請負」だと判断される可能性が高いと考えられます。

もし現在、偽装派遣の疑いのある業務形態で、自社従業員をお客さまの職場に常駐させているような場合があれば、できるだけ早く、弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士など、労働問題に詳しい専門家に相談してみましょう。

回答者

中小企業診断士
竹村 考太

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