ビジネスQ&A
高齢者や障害者の活用に関して具体的な取り組みや方策を教えてください。
2024年 9月 20日
多様な人材を受け入れることでイノベーションを生み出し、価値創造につなげていく「ダイバーシティ経営」を推進していくために、特に高齢者や障害者の活用に関しまして、具体的な取り組みや方策がありましたら教えてください。
回答
高齢者や障害者に活躍してもらうには、個人の事情や障害に寄り添って必要な配慮をすること、能力開発や能力発揮の機会を提供することが必要です。まず、経営者が明確な理念・目指すべき方向を示すことが推進力となります。合わせて、職場環境や人事制度の改善を行います。ご本人には、仕事上の役割や目標を明確に伝えます。「多様な人材が活き活きと働ける職場で新たな価値を作る」という目標を掲げて実践していきましょう。
1.ダイバーシティ経営 ~多様な人材を戦力化して、価値を創造する~
(1)ダイバーシティ経営の方向性を従業員に伝えよう
ダイバーシティは多様性を意味します。ダイバーシティ経営は、従業員の持つ多様性を「価値創造」につなげること、年齢・性別・人種の違い、障害の有無、異なる価値観を持つ「多様な人材を戦力化」することです。単なる補助的な労働ではありません。戦力として働き、新たな商品やサービスを生み出したり、製造プロセスを改良したりしてもらう、ということです。
高齢者や障害のある人の就労には、個人の事情に合わせた工夫が必要になります。その工夫によって働きやすい職場になると、子育て世代など他の従業員も働きやすくなります。従業員全体の満足度が向上し、社外での評価も高まる可能性があります。
このように、ダイバーシティ経営は、商品やサービスを通じた直接的な成果と、従業員の満足度向上や社外の評価向上という間接的な成果をもたらします。
「多様な人材が活き活きと働ける職場で、その能力を存分に発揮してもらうことにより、新たな価値を作る」、この方向性をしっかり従業員に示しましょう。改善や改革には手間がかかります。従業員に方向性をしっかりと浸透させることが、成功への推進力となります。
(2)障害がある人への「合理的配慮」と職業能力開発
障害のある人が職場でその能力を有効に発揮できるよう、障害者雇用促進法では、募集・採用時や採用後に「合理的配慮」を義務化しています。「合理的配慮」とは、能力発揮の支障となる事情を改善するため、過重な負担とならない範囲で、企業に施設の整備、援助者の配置等を求めるものです。募集・採用時の配慮では、職場実習を実施する、面接時に就労支援者を同席させる、などが該当します。
また、専門的な支援が必要な障害には、主治医やデイケアなど医療機関、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなどの適切な支援を受けられるよう配慮しましょう。企業も、職業能力の開発や向上を通じて、経済的な自立支援をしっかりと行います。
2.職場環境や人事制度の改善を行おう
年齢を重ねると、視力、聴力、体力、敏捷性の低下、生活習慣病などの体の変化や、家族の介護、地域のまとめ役など役割の変化がおきてきます。このような変化や、障害のある人のハンディ克服には、職場環境の改善や柔軟な人事制度が有効です。
推進にあたっては、課題ごとにリーダーを決め、安全衛生委員会等で継続的に進捗の確認をしていきましょう。
(1)加齢による変化をカバーする職場環境の参考例
ア 筋力や体力の低下
例えば、設備・装置導入、器具の工夫、作業場の段差解消、要注意箇所へテープや標識をつける、階段をスロープへ変更する、手すりを設置する、などを行います。
イ 視力や聴力の低下
掲示板の拡大表示や大型PCモニターへの交換、作業場所は照度を上げる、警報音は聞きとりやすい中低音域とする、注意喚起のためのパトライト等は、身長や作業姿勢を考慮して目に入る位置に移動するなどの工夫をします。
ウ 暑さへの対応
涼しい休憩場所の整備、意識的な水分補給を推奨します。また、熱中症の初期症状を把握できるウェアラブルデバイス等のIoT機器の導入などで、体調管理を行います。
(2)採用後の合理的な配慮の参考例
ア 作業面 補助工具、手順、工程
手先が器用な視覚障害のある人向けに、補助工具を作成し、カット作業を可能にする。
作業手順書は文字を使わず、写真を多用したものとする。専用タブレットを導入する。
作業がうまくいかない時は、細かく観察・分析し、原因を特定して改善につなげる。(例:チェック用紙をめくるのが負担のようだ→めくらなくてもよい様式に変更する)
イ 指導面 指導者、資格取得
障害のため、異なる指示を受けると混乱するので、業務指導を行う担当者を固定する。
知的障害がある人のフォークリフト免許取得において、社内講習のほか、緊張緩和のため試験に他の社員を同行させる。
(3)新たな役割や目標、柔軟な人事制度を示そう
60代前半の勤務時間は、定年前と同じかそれ以上が約6割を占めます。60代後半もフルタイム勤務を希望する方が過半数です。力を十分に発揮してもらうためには、新たな役割や目標を本人や周囲にきちんと説明すると良いでしょう。また、個人の事情に応じた、柔軟な人事制度を導入することで、公私とも充実させることができます。以下に例を示します。
3.多様な人材が能力を発揮する機会を提供するには
(1)個人個人の状況を知って能力発揮の方向を考えよう
一般的に高齢者は、長い職業生活を通じて得た知識、技術、得意先、人脈等を持ち、危険察知、結果予測の能力も優れていますが、新しいことへの対応力が低い傾向があります。 知的障害は、読み書き計算が不得手で、未経験の出来事や急な状況変化への対応も困難ですが、集中力や持続力は特筆しています。精神障害は、うつ病や幻聴幻覚が現れる統合失調症などの発達障害ですが、職業能力を身につけているケースもあります。ただし、体力がなく勤怠が不安定で、継続した服薬が必要な方も多いです。
各従業員の状況を知って、どうしたら能力を発揮できるか考えましょう。
(2)能力開発の機会を提供しよう
ア あらかじめ能力に限界を設けない
先述の知的障害の方のフォークリフト免許取得は、厚生労働省「令和6年度合理的配慮好事例集」に掲載された実際の好事例です。中小企業である製造業者が、これまで3人に免許を取得させています。あらかじめ能力に限界を設けてはいけません。
イ OJTは目標や時期を示して行う
- 目標を明確にする:スキルマップ等で、キャリアの道筋や今回の取組を明確にします。
- きちんと話す:相手に伝わっているか確認しながら、留意して話しましょう。
- 改善方向で話を聞く:うまく進まない時には、改善方法を考えさせましょう。
- 改善点を話す:人に焦点を当てると辛くなります。改善すべき点を話しましょう。
- 期待を示す:注意だけして終わることは避けましょう。改善後の良い状態を想像させるなど、明るい気持ちで努力できるよう工夫しましょう。
(3)みんなが活発に意見を出し合える雰囲気を作ろう
新たな商品やサービス、プロセスの改善は、さまざまな意見の中から、ふとしたきっかけで生まれます。高齢者や障害のある人が抱える問題点や不自由さは、商品開発のきっかけとなる可能性があるものです。
ア 教え合い、話し合う風土をつくろう、きっかけを見つけよう
年齢差があると、話題が合わずなかなか話をする機会がないものです。コロナ禍では、若い従業員がオンライン会議ツールの使い方を高齢者に教える、代わりに顧客対応のノウハウを高齢者が若い従業員に指導する例がありました。きっかけを与えれば、従業員同士が気軽に教え合い、話し合うようになります。
イ 自由に意見を言える雰囲気を作ろう
打ち合わせでは、人の話を否定しないルールを作りましょう。多様な意見を面白がるようにしましょう。雑談しながら気軽に話せるよう、休憩場所などの工夫も有効です。
ウ 大まかに決めて、徐々に良くしていこう
ヒントが見つかったら、相談しながら徐々に精度を高め、育てていきましょう。
- 回答者
-
中小企業診断士・社会保険労務士 阿世賀 和子
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