ビジネスQ&A
人材育成に有効とされているコンピテンシーとは、どのようなものですか?導入するメリットは何でしょうか?
機械部品商社の総務部長です。当社は、販売会社であることから長年売上金額を基準とした出来高給制度で運用してきました。出来高基準は、給与決定基準としては合理性があるものの、組織での営業スタイルには不向きと感じています。
最近、コンピテンシーという言葉を良く聞きますが、コンピテンシーを導入するメリットは何でしょうか。
回答
コンピテンシーは、1990年代から日本の人事制度に取り入れられて来ています。これは、従来主流であった能力・情意評価が低成長経済化の厳しい競争環境に合わなくなった時期にちょうど、より具体的で評価しやすく、かつより成果に近いものを評価できる制度を米国から紹介されたことによります。中小企業においても企業の文化や戦略にあったやり方でさまざまにアレンジされ、「日本式コンピテンシー」として導入が進んでいます。
【コンピテンシーとコンピテンシーモデル】
コンピテンシーとは高業績者の行動特性のことで、高い業績を上げている人に特徴的に見られる行動を類型化したもので、「できる社員の行動パターン」または「行動ノウハウ」と言い換えることができます。たとえば、好成績を上げ続けている営業担当者の行動特性を観察すると、「営業活動に出る前に綿密な準備を行い、効率的に顧客を訪問し、結果として訪問件数が多く顧客の関心事も把握している」、「商談よりアフターケアに重点を置き、そのための業務知識や事例が豊富である」といったことが明らかになれば、これらがコンピテンシーとなります。
高い業績の実現には、いくつかのコンピテンシーを組み合わせることが必要です。この観点から多数あるコンピテンシーを体系的に整理し、その役割や仕事内容によって組み合わせたものが「コンピテンシーモデル」です。1つひとつの行動特性がコンピテンシーで、それを部門・職種や等級といった単位ごとにまとめたものがコンピテンシーモデルですが、実際には両者は厳密に区別して用いられてはいません。
【コンピテンシーの氷山モデル】
コンピテンシーの概念は、ハーバード大学の行動科学研究者であるD.C.マクレランド教授を中心としたグループが、「学歴や知能レベルが同等の外交官(外務情報職員)が、なぜ開発途上国駐在期間に業績格差がつくのか?」という調査・研究の依頼を米国国務省から受け、「業績の高さと学歴や知能はさほど比例することなく、高業績者にはいくつか共通の行動特性がある」と回答したことが始まりであるとされています。
これらの研究結果から、さらにマクレランド教授は人の行動の目に見える部分である「スキル、知識、態度」に対しては、目には見えない「動機、価値観、行動特性、使命感」など潜在的な部分が大きく影響を与えていることに注目していきます。行動の目に見える部分は氷山の一角であり、実際に氷山を動かしているのはその水面下の大きな部分だという認識です。
この考えは「氷山モデル」と呼ばれ、成果を上げる行動を評価する現在の人事システム構築のためのコンピテンシー理論の基礎となったのです。
【コンピテンシーのメリット】
- 成果への連動性が高いことから、コンピテンシーを評価し、開発・向上させることで業績の向上が期待できます。
- 評価基準が実際に目に見える行動となるので、スキルと比較すると評価しやすいといえます。
- 等級レベルや部門や職務に応じて具体的な行動が示されますので、成果を上げるためには、どのような行動を取ればよいかが明確となり、アクションプランが立てやすいといえます。
【コンピテンシーのデメリット】
- モデルを設計するのに時間がかかることです。どの企業でも使えるような汎用性のあるモデルではありませんので、自社にマッチするモデルの作成には時間と費用がかかります。
- 環境変化や新規事業の進出などにより、コンピテンシーの変更や新規設計が必要となり、メンテナンスの手間もかかります。
- コンピテンシーで評価する場合には、部門や職位などで異なるコンピテンシーを用いるため評価者は慣れるのに時間がかかります。
【コンピテンシーの抽出法】
コンピテンシーの抽出には、抽出法と選択法があります。前者は、高い業績を上げている社員へのインタビューや経営者や経営幹部から理想とする社員の取るべき行動を上げてもらい、独自に行動特性を抽出する方法です。後者は、既存の体系化されたコンピテンシー・ディクショナリーから自社に適したものを選択する方法です。 前者はカスタムオーダー、後者は既製品といえますが、企業の規模、専門人材の有無、予算などに応じて自社に合った方法を選択します。
【コンピテンシーとスキルの違い】
スキルは一定のレベルの業務に必要となる力で、潜在的なものと顕在的なものがありますが、保有能力を一般には示します。しかし、スキルがいくら高くても実際に発揮されなければ高い成果には結びつきません。
一方コンピテンシーが対象とするのは、実際に行動で示される発揮能力であるので、成果への連動性が格段に高まります。スキルにおいては「~できる」と表現しますが、コンピテンシーでは「~している」と表現し、具体的行動で記述する点に特徴があります。
- 回答者
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中小企業診断士 林 隆男
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