ビジネスQ&A
非正規雇用労働者のキャリアアップはどのように進めたらよいでしょうか。
2024年 8月 2日
中小企業である自社内で、非正規雇用労働者のキャリアアップは、どのように進めていったらよいのかポイントを教えてください。
回答
非正規雇用労働者の自社内でのキャリアアップを考える場合、まずは会社の理念・ミッションと非正規雇用労働者に期待する姿を示すことが出発点です。その上で、「労働環境改善とコミュニケーション活性化」、「スキルの見える化と教育・研修の充実」、「キャリアパスと評価のしくみづくり」に取り組みましょう。これらの取り組みは、非正規雇用労働者のモチベーション向上や定着率の向上につながり、有効な人材不足対策となります。
1.労働環境改善とコミュニケーション活性化
非正規労働者の労働条件改善や、仕事と家庭の両立支援など、働きやすい環境を整えることで、モチベーション向上と離職率の低下を図ります。また、定期的なミーティングやコミュニケーションを通じて、一人ひとりのニーズや課題を把握し、適切な支援を行います。
(1) 労働条件改善・見直し
給与や福利厚生の見直しを行い、非正規労働者にも適正な報酬と福利厚生を提供しましょう。例えば、賞与や退職金制度の導入、労働時間の柔軟化、育児・介護休業の取得支援などです。定期健康診断やメンタルサポートの充実なども重要です。また、非正規労働者が正規雇用に転換するための支援制度を設けることも方策の一つです。具体的には、一定の勤務期間を経て正規雇用への転換を検討する制度や、転換に向けたサポートの実施が考えられます。国(厚生労働省)も非正規労働者の正社員化や処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成するキャリアアップ助成金制度を設けています。こうした制度の活用も検討してみましょう。
【参考】
(2) 職場環境の整備
職場環境の整備もすすめましょう。作業するデスクや椅子、照明などを改善し、快適な業務・作業環境を提供します。適切なツールや機器を提供し、非正規労働者が効率的に作業できるようにします。また、業務プロセスの見直しを行い、無駄な作業を減らすことも重要です。リフレッシュできる休憩スペースを設置し、非正規労働者がリラックスできる環境を作ります。労働安全衛生法に基づく安全管理体制を強化し、定期的な安全教育を実施します。職場の清掃や衛生管理を徹底し、感染症対策を実施します。
(3) コミュニケーションの活性化
上司が常にオープンな姿勢で非正規労働者と対話できる環境を作ります。非正規労働者が気軽に意見や提案を出せるような雰囲気づくりを心がけましょう。週次や月次でチームミーティングを開催し、情報共有や意見交換を行います。上司との個別面談を定期的に実施し、キャリアプランや課題について話し合います。社内イベントや懇親会を定期的に開催し、社員同士の親睦を深めます。チームビルディングを目的としたワークショップや研修を実施し、チームの連帯感を強化します。
2.「スキルの見える化」と「教育・研修の充実」
(1) 「スキルの見える化」
非正規労働者が担っている、担う可能性のある業務のスキルをリスト化します。この中には、業務知識、技術力、組織行動力などが含まれます。また、各スキルに対して、初級、中級、上級などのレベルを設定します。「教えられてできる」「一人でできる」「人に教えることができる」などです。各非正規労働者がどのスキルをどのレベルで持っているかを評価します。自己評価と上司評価を組み合わせると客観的な結果が得られます。
この「スキルの見える化」によって、非正規労働者が持つ具体的な能力や経験を明確に把握することができます。これにより、各人がどのような仕事に適しているか、どのようなトレーニングが必要かを判断しやすくなります。スキルが明確になることで、各人を最適なポジションに配置することができます。これにより、非正規労働者のモチベーションが向上し、業務効率も上がります。
また、「スキルの見える化」は、非正規労働者自身が自身のスキルアップを具体的に描くのに役立ちます。どのスキルが不足しているのか、どのようなスキルを習得すれば次のステップに進めるのかが明確になるため、キャリア開発の計画を立てやすくなります。具体的な「スキルが見える化」されることで、企業はより効果的な教育・研修を実施することが可能となります。
(2) 教育・研修の充実
非正規労働者への教育・研修の充実も重要な取り組みです。非正規労働者のスキルや目指すべき目標を明確にし、それに基づいて教育・研修を実施します。教育・研修内容は、基本的な業務スキル、特定の職務に関連する専門知識や技術、リーダーシップなどのマネジメント研修等となります。
教育・研修には、いくつかの方法があります。一つはオンザジョブトレーニング(OJT)、実際の業務を通じてスキルを学ぶ方法です。経験ある社員が指導役となり、直接指導を行います。二つ目は、オフザジョブトレーニング (Off-JT)、業務外でスキルを学ぶ方法です。セミナー、外部研修(リアル・オンライン)を受講させます。また、eラーニングを活用し、時間や場所を問わず学べる環境を提供する方法も有効です。
こうした教育・研修を実施し、その効果を評価し、フィードバックを行うことで、教育・研修プログラムの改善を図ります。非正規労働者が成長を実感し、定着率向上にも役立つこととなります。
3.キャリアパスと評価のしくみづくり
非正規労働者のキャリアアップを支援するためのキャリアパスと評価のしくみを構築します。特に、一定規模(50名程度)以上の中小企業では評価のしくみづくりにチャレンジしましょう。これにより、非正規労働者のモチベーションと業績を向上させ、企業全体の成長にも貢献することが期待されます。
(1) キャリアパスのしくみづくり
非正規労働者が将来的にリーダー・管理職を目指すのか、専門職として力量をアップしていくのか、道筋を示すキャリアパスを明確にして、目標設定の支援を行います。また、前述した非正規雇用から正規雇用へのステップアップの道筋を明らかにすることも必要です。
非正規労働者ごとにキャリアプランを作成し、目標達成のための具体的なステップを示します。経験豊富な社員が指導役となり、各人のキャリア開発をサポートします。必要なスキルを習得するための教育・研修プログラムを提供し、各人の成長を支援します。社外のセミナーや研修プログラムへの参加を奨励し、幅広いスキルを習得させます。キャリアパスの情報を社内で共有し、全ての非正規労働者が自分のキャリアパスを理解できるようにします。
(2) 評価のしくみづくり
業績や能力に基づいた公平な評価のしくみを作り、成果などに応じた昇給や昇進の機会を提供します。はじめに、職務内容に応じた明確で具体的な評価基準を設定します。基準は、①成果(業績など)評価、②能力・スキル評価、③行動評価など3つ程度の大項目で構成します。その際、態度など評価者の恣意性が入りやすい内容は極力除外します。
各人の具体的な目標を設定し、その達成度を評価基準に含めます。自己評価と上司による評価を組み合わせて評価を実施します。同僚や部下、他部門の関係者からの評価も取り入れることで、多角的な視点からの評価も可能となります。半年ごとや年次など、定期的に評価を実施し、非正規労働者の成長を継続的にサポートします。評価後に個別面談を行い、評価結果をフィードバックし、今後の改善点や目標を話し合います。評価結果をもとに、昇給やボーナスなどの報酬に反映します。評価結果に基づいて、個々のスキル開発計画を策定し、必要な研修や教育を提供します。
以上、非正規雇用労働者の自社内でのキャリアアップのすすめ方をみてきました。労働力人口が減少する中、全ての産業において人材不足が深刻となります。中小企業においては、非正規雇用労働者の戦力化は欠かせません。早急に非正規雇用労働者の働く環境整備とキャリアアップのしくみづくりをすすめていきましょう。取り組みは待ったなしです。
- 回答者
-
中小企業診断士 山際 淳
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