ビジネスQ&A
動画を使った人材育成施策の効果的な方法やフローを教えてください。
2023年 11月 1日
若い世代向けに「動画」をつかった人材育成施策に取り組みたいと考えています。効果を上げやすい方法やフローについて教えてください。
回答
人材不足の解消には、ベテランの長期雇用と若手の育成(多能工化)が考えられます。会社の将来を考えるとベテランの指導のもと、若手を育成していくことがベストです。理由は将来のリーダーを育てられるからです。
若手の育成方法として、ベテランの動きを可視化できる「動画」は、指導者の個人差が出ない有効な育成手段です。但し頻繁に改正があるような法律に関係するものは要注意です。また「いつでも迅速に知りたい情報が取り出せる」ことが要件です。
よって編集にも工夫が必要です。更に「動画」の利用状況や社員のスキルアップに対する評価についても併せて検討していってください。
マニュアルと言えば、以前は紙媒体にして書棚に、あるいはPCのフォルダーにPDF化して保管していることが多く、一般社員の利用度は高いとは言えませんでした。しかしスマホが情報の中心にある若者にとっては、この動画マニュアルは、やり方によっては相性が良く、早期普及が見込めそうです。
以下に動画マニュアルの【運用上での課題】、【効果を上げやすい方法】、【運用フロー】をまとめます。
運用上での課題
- 撮影自体はそれほど困難なことではないのですが、編集は結構難しいものです。不要部分のカットはもちろん、字幕や効果音など、編集操作のスキルやセンスも要求されます。
- 動画をマニュアルとして使用していくうちに音声だけでなく、コメント字幕の重要性に気づきます。更に外国人労働者がいる場合、翻訳機能も欲しくなります。
- 動画が増えていくうちに、自社のサーバー容量が心配になります。
- 利用者の声を聞くと、忙しい作業者にとっては、必要な時に欲しい情報が直ぐに引き出せるような検索機能を付けて欲しいと言う要望がでます。これは、新人よりもある程度仕事を任された成長過程の社員に散見されます。
- 若者の場合、PCやタブレットでの学習よりも、その利便性からスマホを使ってネット環境上で動画をチェックしたくなります(ただしYouTubeなどへの自社の技術情報のアップはお奨めできません)。
効果を上げやすい方法
- ベテラン社員(指導員、撮影される側)、制作者(管理部門、撮影する側)、若手社員(受講者)が事前に育成ポイント、撮影内容を打合せすることをお奨めします。三位一体で制作にあたることになります。
- 始めからあまり完成度を求めず、まず撮影してみて上記三者で話し合い、より使いやすいものに変えていきます。撮影は回数を重ねたほうが冗長性も減り、シンプルな見やすい動画になってきます。こう言ったPDCAを回せるところがデジタル化の利点でもあります。
- コメント字幕の編集では、タイトルはもちろん、指導員が伝えたいポイントをコメント字幕で入れておくことが大切です。あとで動画を見た時に作業の注意点、技術ポイントがどこにあるのか、画面上で分かるようにしておくことです。
- 動画が増えてくると検索機能は重要です。動画内容を工程・作業別に体系化し、「キーワード」検索などの機能を設けると便利です。しかし「AND検索やOR検索」など専門的な知識やツール運用のスキルが求められます。
※編集に関しては、市販の動画制作ソフトを購入することをお奨めします。専用のソフトを使用すれば、多くの負担や時間をかけずに制作ができるでしょう。更に、作りたいマニュアルの規模やレベルにもよりますが、可能であればプラットフォーム(動作環境)をもったクラウド型の動画マニュアルのシステム会社と契約することも一つの手段です。そのほうがデータ容量やサーバーの保守メンテナンスの心配もなくなります。コストはかかりますが利用できる補助金もあります(IT導入補助金の場合、導入したいITツールが補助金対象製品であることが必要です)。
次に運用フロー(手順)をまとめます。
運用フロー
- まず、どんな作業工程のどんな技術(スキル)を記録に残したいのかを明確にします。機械設備、使用工具、撮影対象者の選定を行います。
- 指導員、制作者、できれば受講者側も参加して事前打合せを行います。
- 身近なスマホを使っても撮影は可能です。マイクを使った音声の入れ方、三脚の有効性(手振れ防止)など経験しながら改良していきます。
- 教室でなく動画を作業場で見たい場合は、ネット環境の整備も必要です。作業場にネット環境がなければ、最初からコストをかけずにポータブルWi-Fi等を使ってサーバーやクラウドにアクセスし、まずは動画の運用効果をテストします。
- 編集、翻訳、検索、管理機能などを持った市販ソフトを購入します。前述しましたように動画数など規模によっては、ネット環境を利用できる動画マニュアルのシステム会社と契約することも検討に入れます。
- 動画マニュアルが定着してきたら、誰が頻繁に利用しているのか、どの動画が良く見られているかなどを調査し、人材育成に結びつけていきます。
- 自社の動画マニュアルを完成させることがゴールではありません。個々の社員のスキルアップもデジタルツールを利用して「見える化」し、多能工化や兼務化に貢献している社員を評価していくことも実施していきます。
まとめ
上図のように若手の人材育成(多能工化)は、「動画マニュアル」による育成と「スキルマップ」による個別評価が相まって達成されていきます。つまりこれらは車の両輪と言えます。人材不足下でも、デジタルを有効に活用することで、若手への技術浸透を迅速に図ることができます。そして多能工化と言う貢献を会社が平等に評価していくことで、社員の定着も図れ、結果、会社の成長に繋がります。このような人材育成の進め方は、中小企業にとっても積極的な活用が期待されています。
- 回答者
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中小企業診断士 澤田 良敬
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