ビジネスQ&A
従業員の介護離職を防ぐために、事前に対策できることを教えてください
2022年 4月 22日
少子高齢化の進行により、近い将来、介護離職を申し出てくる従業員が出てくることを心配していますが、自分自身に介護の経験がないため、何から始めればいいのかイメージがわきません。
回答
介護をしながらでも働き続けられること、そしてそれを支える制度について知ってもらうことから始めましょう。
1.介護離職は年間10万人
急速に高齢化が進む日本。企業経営にもさまざまな影響が及んでいますが、その一つに介護離職の問題があります。
「平成29年就業構造基本調査」(総務省)によると、家族の介護・看護を理由に離職した人は年間で約9万9千人、平成24年の同調査でも約10万1千人となっており、毎年10万人程度が介護離職していると推測されます(※1)。一方、要介護・要支援認定を受けている人は、令和2年3月末現在で669万人、平成12年の介護保険制度発足当初の256万人から約2.6倍に増加しており(※2)、今後も増加が見込まれます。
介護はある日突然やってくることも少なくありません。しかも、親の介護の担い手になっているのは、多くは企業の中核を担っている働き盛りの世代です。彼らが介護していることを言い出せずに思い悩み、心身の負担が限界を超えて離職してしまったら、本人にとって不幸であるばかりか、企業にとっても大きな痛手となります。
2.介護離職にはこう備える
このような事態を招かないために、企業は今のうちに以下のような取組をしておきましょう。
(1)「介護離職をさせない」という発信
まずは、企業が「介護が必要になっても辞めてはいけない」と発信することが大事です。それがあってこそ、従業員は、仕事を続けるという発想が持てるようになります。
(2)相談窓口の周知
(1)と併せ、従業員が介護に直面したときに、相談できる体制を整備し、それを案内しておきましょう。それがないと、冷静に考えることもできずに退職を決めてしまいかねません。従業員に、いざというときに思い出してもらえるよう、「相談できる場所がある」ことを継続的に知らせましょう。
(3)介護に関する制度の案内
(2)の相談窓口は、介護をしながら働き続けられる制度を案内しましょう。支援制度として、主に以下の2つがあげられます。
①介護休業制度
育児・介護休業法には、介護が必要な家族1人について、通算して93日まで、3回を上限として分割して休業できる制度が定められています。この期間は、企業は給与を支払う義務はありませんが、雇用保険の被保険者が介護休業をした場合、一定の要件を満たすと、雇用保険から介護休業給付の支給(賃金の約67%)が受けられます。
もっとも、介護期間の平均は4年7ヶ月(※3)、そして先の見通しも立ちにくいものです。そのため、介護休業は、介護に専念することを前提に取得するのではなく、介護サービス利用に向けた準備や調整のための休みと捉えましょう。通院の付添いは介護休暇(対象家族が1人の場合は年5日まで、2人以上の場合は年10日まで、1日または時間単位で取得可能)、夕方に見守りや手助けが必要な場合は短時間勤務等の制度や所定外労働を免除する制度などを活用すると良いでしょう。
②介護保険制度
介護をしながら働き続けるためには、一人で抱え込まずに、介護サービスを活用することも大切です。相談窓口では介護保険の利用を勧めましょう。介護保険とは、40歳以上が加入する公的な社会保険制度であり、65歳以上が主な制度利用対象者です。
介護保険を利用するには、市区町村に申請し、要介護認定を受ける必要があります。認定を受けたら、介護のコーディネータ役であるケアマネジャーと相談して作成したケアプランに基づき、サービスを受けることができます。
相談窓口では、サービスの詳細まで把握する必要はありませんが、従業員に、「地域包括支援センター」の存在は知らせておくことをお勧めします。地域包括支援センターとは、地域の高齢者などの相談対応や介護予防、サービスの連携・調整業務を行っている公的な相談機関のことを言います。
制度の詳細は、厚生労働省「介護休業制度 特設サイト」もご参照ください。
(4)実態把握調査の実施
介護は実態が見えにくいものです。「介護をしている従業員は我が社にはいない」と思っていても、実は人知れず介護をしている従業員がいるかもしれません。そのような従業員が本当にいないか、ぜひ調査をしてみてください。その調査そのものが「介護を打ち明けやすい雰囲気作り」に繋がるかもしれません。
実態把握調査の例は、厚生労働省「仕事と介護の両立支援実践マニュアル」に掲載があります。
3.「誰にも起こりうる」ことを認識しましょう
介護と仕事の両立に関する悩みは、いつ、誰が抱えることになるか分かりません。制約を持っても働き続けられると伝えていくことは、従業員に大きな安心感を与え、人材の流出を防ぎます。今から必要な制度を整え周知するとともに、困ったときに休みを申出しやすい職場風土を醸成していきましょう。
出典:
- 回答者
-
中小企業診断士・社会保険労務士 高橋 美紀
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