ビジネスQ&A

いまある在庫の金額は、どうやって計算すればよいでしょうか?

弊社は精密機械メーカー向けの金属部品の製造・販売を行っています。今年起業したばかりで、来月、初の決算を迎えます。商品アイテム数が多く、同一商品でも顧客によって売上単価は違い、また、仕入単価も仕入ごとに変化します。このような状況で、棚卸資産はどのように計算すればよいのでしょうか?

回答

棚卸資産の評価方法はいくつかありますが、事務処理の簡便性を考えると最終仕入原価法が望ましいでしょう。どの評価方法を選択するかは、その企業の業種や取扱商品の特性などによりますが、同じ評価方法を継続的に使用する必要があります。一度選択した評価方法は、原則的に3年間は変更できません。

棚卸資産の評価は、企業の損益を確定させる重要な要素の一つです。当期に仕入れた、もしくは製造した金額の総額がすべて売上原価となるわけではありません。事業年度が終わるときには、通常、売れ残りが発生するものなので、事業年度の終了日にある在庫(期末棚卸高)の金額を差し引いて、売上原価を算出する必要があります(表1)。

期首棚卸高 当期商品仕入高(当期製品製造原価) 売上原価 期末棚卸高 期首棚卸高 当期商品仕入高(当期製品製造原価) 売上原価 期末棚卸高
表1 売上原価の算出

【棚卸の項目】

棚卸すべきものは、以下のとおりです。

  1. 商品/製品
  2. 半製品
  3. 仕掛品
  4. 主要原材料
  5. 補助原材料
  6. 消耗品で貯蔵中のもの
  7. これらの資産に準じるもの

棚卸高は、上記の資産の期末の在庫数量に、仕入単価を掛け合わせて算出されますが、仕入単価は事業年度中、必ずしも一定とは限らないので、税法上、個別法・先入先出法・後入先出法・最終仕入原価法など、いくつか評価方法が用意されています。詳細については後で記述しますが、どの方法を選択するかは各企業に任されており、事業所別、棚卸資産の区分別に評価方法を選択することができます。ただし、同じ評価方法を継続的に使用する必要があり、一度選択した評価方法は、原則的に3年間変更できません(税務上、評価方法を変更する場合には、変更事業年度開始の日の前日までに税務署長に申請書を提出し、承認を受ける必要があります)。

また、新たに設立された法人は、第1期の事業年度の確定申告書の提出期限までに、どの評価方法にするか選択し、所轄の税務署長に提出する必要があります。もし、評価方法の届けをしなかった場合、最終仕入原価法が自動的に適用されます。「棚卸資産の評価方法の届出書」は、関連情報欄に記載してあるリンク「国税庁ホームページ」から取得できます。

【棚卸資産評価方法の説明】

1.原価法

棚卸資産の取得価額で評価する方法で、以下の8種類に分類されます。

(1)個別法

棚卸資産のすべてについて、個々の取得価額によって評価する方法です。商品ごと個別に在庫の管理を行う必要があります。受払いが明確なものにむいており、逆に、商品アイテム数が多い場合は、管理が煩雑になり不適です。

(2)先入先出法

先に仕入れたものから順次払い出されると想定して、期末の棚卸高を算出する方法です。そのため、棚卸高は期末の時価に近い金額となります。デフレ時には、期末になるほど取得価額が下がるので、節税効果につながります。

(3)後入先出法(廃止)

後から仕入れたものから順次払いだされると想定して、期末の棚卸高を算出する方法です。そのため、もっとも古い在庫が期末の棚卸高の評価額になります。インフレ時には、期首に近いほど取得価額が低く、(1)貸借対照表の棚卸資産価額が最近の価額と乖離する、(2)期末棚卸高が期首棚卸高を下回る場合、保有損益が計上され期間損益に影響を与える、といった理由から企業会計上廃止されました。それを受けて、税務上も平成21年4月1日以降開始事業年度から廃止されました。

(4)総平均法

期首の棚卸資産額と期中に取得した商品や製品の合計を、総数量で割って1単位あたりの価格として算出する方法です。事務処理は簡単ですが、期末になるまで、単価が算出できないので、随時、在庫の評価ができないのが難点です。

(5)移動平均法

商品や製品を取得するごとに、そのときまでの取得価額の総額と、新たに取得した商品や製品の取得価額の合計を、在庫の総数量で割って1単位あたりの単価を導き出す方法です。随時、在庫の評価を行えますが、その都度、仕入単価を算出する必要があり、事務処理が煩雑になります。

(6)単純平均法(廃止)

期中に取得した商品や製品を、単価ごとにグループ分けして、グループごとの単価を足し合わせ、グループ数で割り、平均単価を算出する方法です。計算は簡単ですが、各単価グループの数量が加味されていないので、会計上、望ましくないと言われています。平成21年度税制改正にて、平成21年4月1日以降開始事業年度から廃止されました

(7)最終仕入原価法(法定評価方法)

期末にもっとも近い時期に取得したときの仕入単価を、期末の棚卸資産の単価として評価する方法です。時価の概念にもっとも近い方法で、商品や製品の受け払いをその都度記録する必要がないので、事務処理が簡単なため、多くの企業が採用しています。「棚卸資産の評価方法の届出書」を所轄の税務署長に提出していない場合、最終仕入原価法が法定評価方法となります。

(8)売価還元法

通常、売価で商品などを管理している業種に向いている方法です。期末の棚卸資産の通常販売予定価格の総額に、原価率(1-売価値入率)を掛け合わせて、在庫総額を算出する方法です。

2.低価法

上記の6種類の原価法により算出された取得価額と、期末の棚卸時の時価のうち、いずれか低い方を取得価額として評価する方法です。期末に商品や製品の時価が、原価法で算出された取得価額を下回った場合、時価を採用することができ、売上原価を多く算定することができ、節税効果につながります。なお、低価法には切放し低価法と洗い替え低価法がありましたが、平成23年度税制改正にて、平成23年4月1日以後開始事業年度から切放し低価法が廃止されました。

ご質問のような、金属部品の製造・販売会社で、商品アイテム数が多く、管理が煩雑な場合は、事務処理の簡便性を考えて、最終仕入単価法が適していると思われます。
上記にて棚卸資産の評価方法を説明してきましたが、どの方法を採用すればよいかは、その企業の業種や、商品や製品の特性によります。

たとえば、不動産や骨董品など、通常、高額な商品を個別に管理している場合は、個別法が適していると言えます。多品種で大量の商品を売価で管理しているスーパーや小売店では、売価還元法を採用した方がよいでしょう。また、流行品など、商品の陳腐化が激しく、単価の下落が著しいものを扱う場合などは、時価を採用できる低価法の選択が望ましいと言えます。

以上のように、評価方法ごとに特徴がありますので、自社の取扱商品や製品の特性や、受け払いを効率的に記録できるかなどの管理体制を考え、自社に合った評価方法を選択するようにしましょう。

回答者

経営コンサルタント
谷田部 剛

関連情報

国税庁

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