ビジネスQ&A
減価償却とはどのようなものなのか教えてください。
知人の社長から「前期は利益が厳しくて減価償却をしなかった」と聞きました。減価償却とはどのようなもので、社長の意思によってするかしないか決定できるものなのですか?
回答
減価償却とは設備投資などの費用を一定期間に配分する会計処理のことです。税務に関しては、法人に限り一定の条件下で、任意償却が可能です。ただし、企業会計では認められていません。
税法会計(=税金に関する会計)では、法人の場合はある価額(=償却限度額)の範囲内で減価償却は任意に行えます(法人税法第31条)。ただし、個人事業者の場合は、減価償却が必須です(所得税法第49条)。
また、企業会計(=株主や債権者などに企業の活動を報告するための会計)における決算報告では恣意的な利益操作を許しておらず、減価償却は必須です。
したがって、お知り合いの社長のご発言は税務申告を意識されたものであれば、問題ありません。その場合は、上記のとおり、一定の条件はありますが減価償却をいくらするか、あるいはしないかの決定が可能です。しかし、決算報告上利益を恣意的にあげることを目的とするものであれば、企業会計上できません。
1.お金の流れ
- 購入年度:100万円の支出
- 翌年度以降:お金の流れはなし
2.会計上の流れ(=減価償却)
- 購入年度:100万円の資産を計上
- 購入年度末:資産を20万円減らし、費用(=減価償却費)を20万円計上
- 購入年度以降5年度:資産を20万円減らし、費用(=減価償却費)を20万円計上
このように減価償却は、実際のお金の流れと異なる動きをします。これは減価償却が、毎年度の収益と費用を対応させる配慮であるためです(もし、減価償却を行わないとすると購入年度に100万円が費用に計上されることになります。)。
税務上の減価償却についてもう少し詳しく見ていきます。
税務上、資産を購入した場合の取り扱いは、その取得金額により異なります。その区分けは、以下のとおりです。
- 10円以上20万円未満:一括償却(※1)または減価償却の選択が可能(資産に計上)
- 10万円未満:損金として経費処理が可能(費用に計上)。一定償却・減価償却も可能
- ※1一括償却:耐用年数に関係なく、一括して3年での償却を行う方法
上記のようにある金額の場合は、経費処理や一括償却などを選ぶことができます。通常は、減価償却より有利(※2)であるため、それらを選びます。
- ※2減価償却は、償却にある程度の期間(耐用期間)がかかります。また、一部資産に関しては全額を償却できません。一方、経費処理や一括償却は短期間(経費処理はその年、一括償却でも3年)で、全額償却できます。
なお、青色申告書を提出する中小企業者等(個人を含みます)の場合には、上記の他、取得価額が30万円未満の資産について、取得した事業年度(個人の場合は年)に全額を損金算入できる少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例が設けられています。
【減価償却の方法と効果】
次に、減価償却の方法ですが、以下の2つがあります。
- 定額法:毎年同じ“額”だけ減価償却します。毎年一定額が費用計上されます。
- 定率法:毎年同じ“率”で減価償却します。償却費は初年度に高く、低減します。
上記のどの方法で償却を行うかは、所轄の税務署長に届出(=「減価償却資産の償却方法の届出」という)が必要になります。
この届出をしない場合には、法定償却方法で計算を行うことになります。
なお、税務上は、以上の通常の減価償却のほか、企業規模や設備投資等一定の要件を満たす場合に利用できる特別償却制度があります。
法人税法上の減価償却費の取り扱いは、あくまで、「損金経理した場合に、損金とする」というところがポイントです。これが、冒頭述べた「減価償却をいくらするか、あるいはしないかの決定が可能」ということの意味です。企業会計は資産の取得価額について、費用配分の原則によって各事業年度に配分することを求めているため、本来、恣意的な減価償却費の計上を認めていません。
最後に、減価償却の効果を見ていきたいと思います。
先ほどの例にもありましたとおり、減価償却費は費用であっても資金の流出ではありません。このことは、資金が企業内部に留保され、キャッシュフローや付加価値(※3)の増加をもたらすことを意味します(これを「減価償却の自己金融作用」と言います。)。
また、利益が減少されるため、節税にもなります。しかし、会計上は利益が低くなるため、銀行などからの借り入れの際には、査定が厳しくなる可能性があります(社長もそのため悩まれたのではと推測されます)。
- ※3減価償却は、償却にある程度の期間(耐用期間)がかかります。また、一部資産に関しては全額を償却で付加価値=営業利益+人件費+減価償却費。中小企業新事業活動促進法における経営革新計画の承認を受けるための目標基準です。
- 回答者
-
中小企業診断士
上村 洋史
- 関連情報
-
中小企業庁
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