経営ハンドブック
商品開発・市場開拓のための最新市場動向と特徴
世の中の流れを自社の商品やサービスに取り込む
企業を取り巻く環境が転換期を迎えている。これまで成長し続けてきた国内市場は、少子高齢化に伴う人口減少時代に入り、成長戦略が描きにくくなっている。世界市場を見ても、グローバル化による競争激化、デジタル化による新たな技術革新が進んでいる。同時に、大国の対立などで景気も不透明だ。
こうした環境の変化は、ビジネスチャンスを生む。新たに登場する市場への参入によって、先行者利益を享受できたり、成長市場の“追い風”に乗ったりすることができる。ここでは、今後の商品開発・市場開拓に役立ちそうなテーマを3つ挙げておく。
これからの成長が期待できる市場の最新動向
- 「あなた向け」に提供する
- 既存事業にデジタルを活用する
- 世界の潮流を見据える
1.「あなた向け」に提供する
消費は、1人の中での二極化が進んでいる。
本当に欲しい商品やサービスには、徹底的にこだわる。たくさんの情報を集め、価格が高くても購入する。品質やデザインが優れていることはもちろん、手作りの“オンリーワン”である、数量や期間が限定されている、人に話をしたくなるストーリーがあるといった要素も購入判断の基準に含まれる。
一方で、こだわらない商品やサービスに対しては、安くてみんなが買っているモノで構わない。みんなが使っているから安心、というわけだ。
後者は、テレビなどのマスマーケティングが可能な資本力を持つ大企業が優位な分野だ。中小企業が狙うべき市場は、少量を高額で売っていく前者だろう。
毎年、消費者傾向を展望する予測リポートを公表している英ユーロモニターナショナルによると、2019年の消費トレンドの1つとして「『自分のケアは自分で』=ダイエット、美容、アレルギー、メンタルケアを個人的にサポートするサービス」を挙げている。
ポイントは「個人向けにサポートする」、つまり不特定の多数を対象にするのではなく、「あなた向け」を意識すること。1人のこだわりを満足させることで、同じ価値観を持つ人が集まるようになり、市場の開拓につながっていく。
2.既存事業にデジタルを活用する
IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ロボット、5G(第5世代移動通信システム)など、新しいデジタル技術が登場している。この技術を自分たちの分野で利用できないかと考えてみるのも手だ。
大きな動きでは、米アマゾン・ドット・コムが展開する無人化店舗「アマゾン・ゴー」が一例だ。店内にはセンサーやカメラが張り巡らされ、誰が何を買ったかを自動的に識別し、オンラインで決済する。利用者は専用アプリをスマートフォンにインストールしておけばよい。従来のスーパーマーケットやコンビニエンスストアとは異なる利便性や顧客体験を提供、店舗数を伸ばしている。
デジタル化の動きは、いろいろとある。これまで通訳は外国語に詳しい人が必要だったが、今はスマートフォンなどを介して会話できる翻訳ツールが出てきている。移動や入浴の際に力仕事が生じる介護も、人の負担を軽減するパワースーツが開発されている。
このように、既存の商品やサービスにデジタルを活用する視点を持ち込むと、新しい市場になる可能性がある。既にニーズは存在しているので、参入するリスクも少ない。
3.世界の潮流を見据える
「エシカル消費」という言葉がある。これは、消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援したりしながら消費活動を行うことを意味する。
この動きが盛り上がってきた背景として、児童労働などで搾取したり、自然環境を破壊したりする企業に対する監視の目が厳しくなってきたことが挙げられる。使い捨てで環境を汚染するプラスチックゴミが問題視されるなど、今後、さらに環境志向は強まるだろう。
つまり、環境志向の商品やサービスはこれから成長する可能性が高いともいえる。自社の商品やサービスに環境志向を取り込むことで、新しい事業機会の創出につながったり、会社のブランド価値を高めたりすることができる。
ほかには、高齢化も世界的な傾向だ。「高齢化白書2019」によると、世界総人口に占める65歳以上の人の割合(高齢化率)は、2015年が8.3%だが、2060年には18.1%にまで上昇するものと見込まれている。日本で成功している高齢者向け商品やサービスが、今後、世界に広がっていく可能性がある。
世界の潮流を見据えた商品やサービスの開発によって、将来的に世界市場に展開できる道が開けるかもしれない。