経営ハンドブック
企画会議の技法
2023年 7月 26日
企画会議の技法を取り入れて、新しいアイデアを商品開発や販路開拓に用いる
商品開発や市場開拓において、なかなかいいアイデアに恵まれないという企業では、新たな技法を取り入れてみてはどうだろう。ブレインストーミング、バックキャスティング、ファシリテーション、アイデアの評価、アクションプランの策定など、こうした企画会議の技法を試して社員の多様な意見が集まるようになれば、思わぬ活路が開かれるかもしれない。こうした技法を使い分けることで、商品開発や販路開拓のため、競合他社にはない新鮮なアイデアを取り入れられるようになる。また、消費者や取引先にとって新鮮に受け入れられることで、売上などの指標も向上するものと期待される。
企画会議の技法のポイント
- 企画会議の重要性
- 企画会議に取り入れたい4技法
- 企画会議後の2技法
1.企画会議の重要性
新たな商品やサービスの開発、あるいは販売促進のためのアイデアなどを話し合う企画会議は、多くの中小企業にとってとても重要な役割を担っている。幹部クラスの役員が集まって今後の大切な経営方針を話し合う経営会議と同等以上の重要性をもって、企画会議を扱う会社もある。中には経営会議と企画会議をほとんど区別していない中小企業もあるだろう。
充実した企画会議を実現できれば、会社全体のモチベーション向上にもつながる。多くの社員は、顧客や取引先から商品やサービスの不満やクレームを直接受けていたり、日頃から「ここをこうすればいいのに」といったアイデアを抱いていたりするものだ。しかし、社員と幹部役員との間で、コミュニケーションの風通しが良くない会社では、そうしたクレームやアイデアがなかなか反映されにくい。もし、企画会議で社員たちの意見やアイデアを出しやすい雰囲気を作れれば、商品やサービスの開発や改善、新たなビジネスモデルの構築や市場開拓にもつながり、会社の明るい未来も切り拓かれていくに違いない。
2.企画会議に取り入れたい4技法
企画会議では、参加者から新しいアイデアが出されて、そうしたアイデアが商品開発や販路開拓のために使われるようにしなければならない。しかし、ただ単に会議の場を設けるだけでは、効果的な企画会議を進めることは困難だろう。そこで、効果的な企画会議を実現させるために取り入れたい5つの技法を紹介したい。
(1)ブレインストーミング
企画会議が成功するかどうかは、ブレインストーミングがうまく行くかどうかが鍵を握っているといっていい。ブレインストーミングとは、その場の参加者が自由にアイデアを出し合える「バズセッション」の雰囲気をつくることによって、個々の努力だけで思いつくことが難しい斬新な発想や解決策を導き出すための手法である。
大量の情報が常に流通し、類似する品質の商品が容易に出回るコモディティ化が促進され、他社の売れ筋商品を模倣することも難しくなくなった現代社会では、ビジネス上の優位性を確保するための「新鮮なアイデア」がますます求められてきている。
他社の成功例を模倣するノウハウは多いが、新しいアイデアを導き出すノウハウは少ない。その中でも有効なノウハウと考えられているのがブレインストーミングなのである。ブレインストーミングに必要なバズセッションの雰囲気を醸成し、革新的なアイデアを得るためには、次の基本ルールを守らなければならないとされている。
1.批判禁止
他人のアイデアに対して否定から入ったり、頭ごなしにバカにしたりするクセがある参加者もいるだろうが、ブレインストーミングの場では絶対禁止である。批判は参加者を萎縮させ、いいアイデアが出る可能性を縮小させるためである。アイデア出しの段階で、批判は百害あって一利無しといえよう。
2.質より量
できるだけ素晴らしいアイデアを出して、褒められようとして、頭の中で捏ねくり回している時間は、ブレインストーミングにとって無駄である。思いついたらすぐにアウトプットして、他の参加者からのさらなるアイデアを誘引した方がよほど生産的である。ひとつのアイデアの品質よりも、むしろ、たくさんのアイデアを出した参加者が讃えられるブレインストーミングの場にすることが望ましい。アイデアの品質については、後で評価すれば十分である。
3.アイデアの組み合わせも自由
他の参加者が出したアイデアに触発されて、さらに新しいアイデアへと膨らませたり、自分のアイデアと組み合わせて新たな価値を創造したりすることも、ブレインストーミングの場では自由でなければならない。複数のアイデアの相乗効果(シナジー)で、他社の追随を許さないほど新しい商品やアイデアが生み出される可能性にも期待できる。よって「それはパクリだ」「自分が先に出したアイデアだ」などと、他の参加者を非難することは禁じられるべきである。
4.一見して関係ないアイデアも歓迎
あらかじめ設定した企画会議の目的やゴールからは、一見すると関連しないアイデアであっても、ブレインストーミングの場では受け入れなければならない。アイデア出しをできるだけ制限しない態度を取っていれば、斬新な発想を誘発することにもつながる。
5.ダメなアイデアをあえて出し合う
「これはさすがに不採用だろう」と、それぞれの参加者が思うようなアイデアでも、遠慮なく出し合える楽しい場をブレインストーミングで演出できれば、最高のアイデアが生まれる可能性が高まる。斬新な発想は、どこに埋もれているかわからないからである。同じ理由で、自社の既存商品やサービスを逆に悪化させるアイデアを出し合うことも、凝り固まった思考回路から各参加者が解放され、より創造的なアイデアを導き出すチャンスになりうる。
(2)バックキャスティング
バックキャスティングとは、会社が目指したい商品開発や販路開拓の目標を達成するため、将来の自社にとってあるべき姿を想定し、その実現のために現在必要となる手段を、逆算的に導き出す方法である。このバックキャスティングも、企画会議に取り入れて有効活用することができる。
バックキャスティングを効果的に実践するためには、将来のあるべき姿をできるだけ具体的に描き出し、将来のあるべき姿を実現するための必要条件を、できるだけ多く洗い出す必要がある。このバックキャスティングは、中長期的な取り組みに関連するアイデア出しに適しており、短期的な問題解決には向いていないといわれる。よって企画会議の目的ごとに、バックキャスティングを取り入れるべきか吟味する必要も生じる。
(3)ファシリテーターの採用
可能であれば、議論を促進し、参加者から話を引き出すための「ファシリテーター」役の人物を用意しておきたい。アイデアが活発に交換されやすく、企画会議が成功する可能性が高まるためである。
企画会議でのファシリテーターは、司会者とは役割が異なる。司会者は、あらかじめ定められた会議の式次第に沿って、その場を滞りなく進めることが主な役割だが、ファシリテーターは、会議の参加者から意見や疑問などを引き出し、議論が円滑に進められるよう中立的な立場から取り仕切り、最終的に合意を導き出すところまで責任を負う。
(4)質問会議
その名の通り、質問とそれに対する回答のみで行われる会議のことだ。もともとは米国ジョージワシントン大学大学院のマーコード教授によって開発され、日本ではNPO法人日本アクションラーニング協会が提唱している。
質問会議では、参加者の一人が「アクションラーニング・コーチ」(ファシリテーター)として進行役を務め、役職や先輩・後輩にかかわらず自由に発言できることになっている。
会議の参加者は自発的に意見を言えないため、導入当初は欲求不満が募りがちだ。とくに役職者等にはその傾向が強く見られがちだが、上からの立場で意見を述べる人はアクションラーニング・コーチによって退場させられることもあるという。
解決策を考えるのではなく、問題がどこにあるかを考えることからスタートする。最初から自分の考えを押しつけるのでは無く、参加者全員がそれぞれの角度から考え始めることになる点が質問会議の大きな特色だと言える。
3.企画会議後の2技法
(1)アイデアを評価する場を設ける
ブレインストーミングやバックキャスティングで出てきたアイデアは、いくら独自性が高く、創造的であっても、そのままでは実現可能性や商品としての価値が不明確である。そこで、アイデアの実現可能性や成果性などを客観的に評価する場も設ける必要がある。アイデアを評価する手法は様々あるが、いずれにせよ、アイデアを出し合うブレインストーミングの場と、出てきたアイデアを評価する場は、切り離されなければならない。
アイデアの評価は、たとえば、次のような基準に基づいて行う。
1.新規性
そのアイデアが、どれだけ独創的で、競合他社には見られないかどうかを評価する。
2.有用性
そのアイデアが、どれだけ市場や顧客のニーズに応えられる可能性があるのか、どれだけ既存の商品やサービスに付加価値を提供できるかどうかを評価する。
3.実現可能性
そのアイデアが、現実問題としてどれだけ商品やサービスとして具体化できる可能性があるのか、可能性があるとして、実現までにどれだけの時間やコストを要するかを評価する。
4.成果性
そのアイデアが、どれだけ商品開発や市場開拓に貢献し、どれだけの収益を会社にもたらしうるかを評価する。
(2)アクションプランの作成
ブレインストーミングやバックキャスティングで出てきたアイデアを評価した後は、実際の商品開発や市場開拓のために、行動ベースで取り組めるようにするアクションプランを作成しなければならない。アクションプランとは、具体的なタスク、担当者、期限を設定し、必要な資源や予算などを明らかにした計画のことである。どんなに斬新なアイデアであっても、アクションプランに落とし込めないアイデアは無駄になってしまう。
アクションプランを作成していくためには、アイデアを「商品開発」「販売促進」などのカテゴリ分けを行って、担当者を明確にし、さらに緊急度や優先順位を基にしてランク付けし、ランクの高いアイデアから具体化していく手続きが必要である。
アイデアのランク付けには、作業時間を考慮することも重要である。中でも短時間で完了しそうなアイデアをタスクとして優先的に処理することで、より効率的に目標達成へ近づいていくことができる。