経営ハンドブック

多角化の方法

2023年 4月 14日

多角化の方法のイメージ01

多角化にはメリットとデメリットがあり、事業計画は慎重に策定する必要がある

企業が成長する方法として、主力事業とは別に新たな分野に進出し、新たな製品・サービスを投入したり、新たな市場を開拓したりすることなどを多角化と言う。多角化には、収益の増大、リスクの分散、シナジー効果などのメリットがあるが、コストがかかることや経営が非効率になりやすいなどといったデメリットもある。多角化の進め方としては、自社で行う方法のほか、他社との資本提携・業務提携によって行う方法やM&Aによって行う方法などもある。中小企業が行う多角化としては、長期的な視点で計画を立てることや既存の事業をブラッシュアップすること、初めから巨額投資をしないこと、新しい競争優位性を作ることなどが留意点として挙げられる。

多角化の方法のポイント

  1. 多角化とはなにか
  2. 多角化のメリット・デメリット
  3. 多角化の進め方
  4. 多角化の留意点

1.多角化とはなにか

企業が成長する方法として、主力事業とは別に新たな分野に進出することであり、新たな製品・サービスを投入したり、新たな市場を開拓したりすることなどを多角化と言う。新型コロナウイルス感染拡大による事業環境の変化や顧客ニーズの多様化という背景もあって、企業では新たな収益事業を立ち上げる多角化戦略を、近年重視する傾向にある。

収益性や成長性の実績が、企業が目指している目標と比べて下回っているとき、現在の業務を拡大するより多角化を行ったほうが、収益性が高く、さらに実現性も高いと判断された場合に行われることが多い。

2.多角化のメリット・デメリット

企業が事業の多角化を目指す場合、そこにはメリットばかりでなく、デメリットも存在することを忘れてはならない。

【多角化によって得られる可能性のあるメリット】

1. 収益の拡大が期待できる

市場が拡大されたことによる収益増が期待できる。

2. 事業環境の変化によるリスクを分散できる

予想できない事業環境の変化によって打撃を受けても、異なる複数の事業を多角的に展開することでリスクを分散できる。

3. シナジー効果(相乗効果)が期待できる

組み合わせる事業のシナジー効果によって、より大きな成果を期待できる。

  • 販売シナジー(広告宣伝や販売チャネル、販売ノウハウなどの共有によって生まれる)
  • 生産シナジー(原材料や機械、技術などの共同利用により生まれる)
  • 投資シナジー(工場設備の共同利用、研究開発成果の転用などによって生まれる)
  • 経営管理シナジー(経営者や管理者のマネジメントやノウハウを共有することで生まれる)

4. プロダクトライフサイクルに対応できる

消費者ニーズの多様化や技術革新の結果として、「開発期〜導入期〜成長期〜成熟期〜衰退期」というプロダクトライフサイクル(製品寿命)が短縮化している。主力製品の衰退期に別の新しい製品が成長期に入るように多角化を進めることによって、企業全体として安定的に売上を維持することができる。

5. 従業員のモチベーションを高める

主力事業が一つのピラミッド型組織では、同一の業務で役員・管理職のポストも限られるが、多角化を行うことにより、多様な業務が生まれ、ポストも増えるため、従業員のモチベーションが上がることも考えられる。

【多角化によって生じる可能性のあるデメリット】

1. コストがかかる

中小企業の場合、限られた経営資源を複数の事業に分散させることになるため、一つに事業にかけられる資源には限界がある。多角化の初期段階ではマーケティングや製品開発、販売活動などのためのコストが増大する傾向にある。

2. 経営が非効率的になりやすい

各事業が個別に動き出して発注業務などを行うと、大量発注によるコストダウンなどのメリットを失うことがある。

3. 損失拡大の可能性がある

多角化した事業で必ず利益を出せるというわけではない。そこに経営の非効率化(上記 2)が生じた場合、さらなる収益の低下をもたらすこともある。

4. 企業ブランドの不明瞭化

いままで築いてきた本業のブランドが、様々な事業を展開することにより、顧客にとって不明瞭なものになってしまうこともある(ブランドの毀損)。

3.多角化の進め方

多角化を進めていくためには、自社の人材や技術、資金などといった面に加えて市場動向なども加味して、それぞれの企業に適した方法を選択することになる。

1.多角化を自社だけで行う

自社が持つ人材・技術・資金などによって、新規事業・社内ベンチャーを立ち上げる方法。第三者の関与がないので自社内で全てをコントロール可能となる。とくに水平型多角化に向いているが、他の方法と比べて時間がかかることや斬新な発想の新製品・新サービスが生まれにくいといったことが短所となる。

2.多角化を他社とのアライアンス(資本提携・業務提携)によって行う

新規事業に必要な資金、技術、生産力、販売力などのいずれかを持つ企業と資本提携・業務提携して、費用・開発業務・失敗した場合のリスクを分担する方法。自社だけで進めるよりも短期間で多角化を実現できる。とくに垂直型多角化や集中多角化に向いているとされる。

3.多角化をM&Aによって行う

自社の多角化に必要な事業を行う企業をM&Aによって自社に取り込む方法。M&Aには大きく分けて合併と買収がある。合併には「新設合併」と「吸収合併」があり、買収には「株式譲渡」と「事業譲渡」がある。その企業の状況に合った方法で行うことが求められる。M&Aは、とくに全く異なった事業に進出する集成型多角化を展開する上で有効な方法とされる。

4.多角化の留意点

中小企業が多角化を行う際の留意点については、以下のような点が挙げられる。

1.長期的な視点で計画を立てる

経営資源の分配や想定されるコストを明らかにした上で、多角化を行うのに適切な時期を見極めることが大切となる。

2.既存の事業をブラッシュアップする

多角化を行うには、多角化経営に耐えうる経営資源・経営基盤であることが前提になる。まずは既存の事業を磨き上げ、十分にその価値を高めきったかどうかを考える。もしまだやることがあればまずそちらをやってみることが、今後多角化を支えるバックボーンともなるのである。

3.初めから巨額投資をしない

多角化をしたからと言って必ず成功するとは限らない。最初から巨額の投資を行うのは、失敗した際のリスクを考えると避けるべきだ。最初は少額投資にとどめ、自社の能力や市場の状態を見極めてから、十分な投資を行っていくようにすればよいのである。

4.成長市場だからということで安易に選ばない

市場の魅力度が高く成長性の見込める分野は、多くの企業が多角化の対象として選ぶために、結果的にそこでの競争が激しくなる。競争優位性を構築するためには、価格の優位性や他社との差別化を図れるかがポイントとなる。また、競争圧力の少ないニッチな市場を選ぶのも1つの方法だろう。競争のためのコスト増も考慮しておかなければならない。

5.シナジー効果や強みを過信しない

自社の所有する経営資源や強みが特別に抜きん出ている場合はともかく、現実には差が小さくほぼ同質な場合が多いため、進出した新分野においても既存事業の競争関係がそのまま持ち込まれることが少なくない。そうしたことを避けるためには、多少時間はかかるかもしれないが、顧客価値に根ざした「競争優位の条件」を作り上げていくことが重要だろう。

※中小企業事業者が新規事業を立ち上げて多角化を行うために資金が足りない場合、活用できる融資制度がある。
日本政策金融公庫による「中小企業経営力強化資金」というもので、認定経営革新等支援機関による指導・助言を通じた経営革新や異分野の中小企業と連携した新事業分野の開拓などまたは「中小企業の会計に関する基本要領」・「中小企業の会計に関する指針」に従った会計処理を行う中小企業の経営力や資金調達力の強化を支援するための資金であるとされている。

関連リンク