ビジネスQ&A

経営の経験が浅いため会社の方向性を決められず困っています。どうしたらよいですか?

私は、地方の食品メーカーの2代目です。昨年、創業者である父より経営を引き継ぎましたが、近年は競争が厳しくなっており、業績も停滞気味です。私はもともと技術畑で、昨年まで電子部品メーカーのサラリーマンでした。会社経営についての経験やノウハウがなく、業績回復のために、今後どういう方向性で経営していけばよいか悩んでいます。何かよいアドバイスをお願いします。

回答

まずは経営計画を策定してみましょう。経営計画を策定する過程で、おのずと今後の方向性が見えてくると思います。また、一人で悩むのではなく、信頼できる従業員や外部の専門家と一緒に経営計画を策定することも有効です。

経営計画とは、企業が目指す将来像(あるべき姿)に到達するために、何を行わなければならないかという道筋を示すものです。たとえば、「富士山の頂上に登りたい」という目標がある場合、どのルートで登ろうか?天候は大丈夫か?どのような装備が必要か?食料は足りるか?など、事前に綿密な計画を立てると思います。そうしなければ、道に迷ったり、途中で食料が尽きて断念したりと、目標に到達できなくなる可能性が高まります。同様に、企業も目標に到達するためには、経営計画を立て、その道筋に沿って企業活動を行うことが重要です。

また、経営計画を策定する過程で、自ずと今後の方向性が見えてきます。さらに、計画策定に従業員を巻き込むことで一体感が生まれ、外部の専門家(中小企業診断士など)に相談することで、客観的な意見や情報を得ることが可能となりますので、数人のチームを作って検討することも有効です。

上記以外のメリットとしては、

  1. 利害関係者(顧客・取引先・従業員・資金提供者)に、経営者の意図やビジョンを伝えるツールとなる
  2. 経営者自身の考えが整理され、経営の一貫性を保ちやすくなる
  3. 実際の企業活動と計画を比較し、進捗管理や、方針の修正などを迅速に行うことが可能となる
  4. 資金提供者に自社の将来性を説明することが容易となり、資金を調達するための有効なツールとなる

などがあげられます。

しかし、経営計画は漠然と立てればよいというものではなく、数値目標や客観的分析により、できるだけ具体的かつ合理的に策定する必要があります。それでは、計画策定のプロセスや手法の一例についてご説明します。

【環境分析】

まずは、経営環境を分析します。経営環境分析は、内部環境分析と外部環境分析の大きく2つに分けられます。内部環境とは自社内の経営資源の状況を、外部環境とは御社を取り巻く業界の動向など、社外の環境のことを指します。ここでよく利用される手法としては、SWOT分析というものがあります。自社内の強み・弱み、外部環境における機会・脅威の、英語の頭文字をとってSWOT分析と呼ばれています。図1のような図に整理すると、課題や問題点がはっきりし、戦略や行動計画検討のための基礎資料となります。

図1 SWOT分析マトリックス 図1 SWOT分析マトリックス
図1 SWOT分析マトリックス

【戦略策定】

次に、分析結果に基づき、あるべき姿を実現するための戦略を立てます。経営戦略は、大きく成長戦略、競争戦略、機能別戦略に分類されます。成長戦略は、全社的な戦略であり、自社の製品やサービスをどの市場に投入するかという事業領域を検討するものです。代表的な考え方として、図2の製品と市場のマトリックスがあります。

図2 製品と市場のマトリックス 図2 製品と市場のマトリックス
図2 製品と市場のマトリックス

次に、競争戦略では、その事業領域における同業他社への競争優位性について検討します。代表的な考え方として図3のポーターの競争の基本戦略があります。

図3 ポーターの競争の基本戦略 図3 ポーターの競争の基本戦略
図3 ポーターの競争の基本戦略

そして、機能戦略でこれらの上位戦略に合致した各機能(営業、人材、生産、財務など)のあり方について検討していくことになります。

【行動計画策定】

策定した戦略に基づき、誰が何を行うのかというような具体的な行動計画と、売上・利益・費用・資金などの目標となる数値計画を立てます。ここでは、行動計画と数値計画の整合がとれていること、また、数値計画はある程度高い目標であり、かつ実現可能性のあるレベルに設定されていることを確認する必要があります。

【計画の実行管理】

策定された経営計画は実行に移されなければ意味がありません。従業員に周知し、進捗管理を行い、実際の活動と計画にギャップが生じた場合には、問題点を把握し、必要があれば計画を修正する、という実行管理のサイクルが重要になります。

最後に対象期間についてですが、経営計画は5年を超える長期計画、3-5年程度の中期計画、1-2年以内の短期計画に大きく分けられます。

各企業の事情によっても変わりますが、貴殿は事業を継承されたばかりだということですので、長期的な観点で計画を立てるには、まだまだ知識や経験が不足しているでしょう。逆に、短期計画だと目前の課題に対応するための計画しか盛り込めません。そういった意味で、先述のプロセスなどを参考に、まずは3-5年先を見据えた中期計画を策定されてはいかがでしょうか。

回答者

中小企業診断士
塩谷 豊久

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