ビジネスQ&A

メインバンクとの関係づくりのポイントについて教えてください。

都市銀行をメインバンクにして取引していますが、今後積極的な資金調達により、事業拡大を図ろうと考えております。現在は、あまりメインバンクの担当者との関係づくりは行っておりません。これから先、融資を受ける際に、このままでは融資が受けられないのではと心配しております。メインバンクとのつき合い方のポイントを教えてください。

回答

(1)本業に注力し債務償還能力を維持する、(2)正確でタイムリーな計算書類を提出する、(3)適切な情報開示と経営意欲を強くもつことを心がけることにより、金融機関との信頼関係を構築しましょう。

民間金融機関は、徐々に担保に頼った融資から、計算書類などの信頼性や業界での評判、企業の技術力や代表者の資質といった定性面をこれまで以上に重視する融資にかわってきています。このようにリレーションシップバンキング機能が強化されている現状から、金融機関とのつき合い方のポイントとしては、リレーション、つまり貸し手と借り手の信頼関係の構築が大切だとされています。

では、信頼関係を構築するためには、具体的にはどのようにすればよいのでしょうか。いわゆる「人と人とのつながり」や「日ごろのおつき合い」を大切にすればよいのでしょうか。それだけでは足りません。

2005年1月に、中小企業総合研究所が行った実態調査を見ると、3年前よりとくに重要視されている項目の第1位は「債務償還能力」です。つまり、3年前に比べてもっとも強く求められているのは、あなたの会社が借入金をきちんと返済できる根拠なのです。これは、最低限必要な設備投資などコストを除いた本業のキャッシュフロー(これを「フリーキャッシュフロー」と言います)が借入金の返済額を上回っている実績と計画が示せますかということです。

要するに、本業に注力し、借入返済額を上回るフリーキャッシュフローを維持することが一番の王道だということです。冒頭に申上げた定性面のうち「業界での評判」や「技術力」なども、本業がうまくいっている証拠として重視されている項目だと言えます。

また、「債務償還能力」には、経理事務が堅実であることも含まれます。どんなにフリーキャッシュフローが潤沢でも、たとえうっかりミスであっても、返済の延滞が度重なると、それだけで金融機関の内部で行っている「信用格付制度」のルール上、あなたの会社は自動的に「要監視先」に格付けされてしまうかもしれないのです。

現在の金融機関は、リストラによって人材が不足しがちです。1人の担当者が多くの取引先を担当し、融資の審査は自動化される傾向にあり、与信管理部門は次第に本部やセンターに集中しつつあります。「人のつながり」を大切にしても、それが役立つのはきわめて限られた場面だけだと考えた方がよいでしょう。

また、金融機関は、与信先の本業の業況を確認するために、決算書や資金繰り表などの計算書類などが適正な頻度で、早く正確に提出されることも重視しています。

しかし、どんなに決算書がきちんとできていても、事実として与信先の経営が悪化すれば手を引くのが金融機関です。とくに、経営の透明性が求められている昨今、あなたの会社の信用格付けが恣意的に操作されることはまずありません。また、格付けに応じた対応をとらなければ、金融機関従事者自身が、特別背任罪や株主代表訴訟で訴えられるリスクも抱えています。

かつては、対応の画一的な都市銀行に比べて、地場の地方銀行や信用金庫は「人のつながり」を大切にするから経営が多少悪化しても安心できると一般には思われていました。

しかし、地銀や信金も事情は同じです。経営の悪化しつつある取引先に、新規の与信を行いたくないのは、当たり前のことですね。もちろん現在では、信金なども金融庁の検査マニュアルで、都市銀行と同様の対応が義務付けられています。

とは言え、金融機関も営利企業ですから、あなたの会社の信用格付けが下がらないことを望んでいます。格付けが下がると貸倒引当金を積まねばならず、高い収益性が経営に求められる現在、償却、とくに有税償却のもつインパクトは、金融機関の期間収益にとって非常に大きいのです。

ですから、あなたの会社の日頃の情報開示が適切ならば、金融機関もその分早めに手を打つことができ、新規の融資が可能な方策を、あなたと一緒に考えようとするでしょう。定性情報も含めて、自社の強みも弱みもすべて開示することで、信頼を勝ち得る例も多数あります。

さらに、前述の調査では、金融機関がもっとも重視する経営者の資質は「経営意欲」となっていました。最終的には、経営に対する強い意志をもって相談することが重要でしょう。

なお、「メインバンク」の位置付けが揺らいでいる今日、あなたのメインバンクがそれでも新規融資に応じてくれない場合のために、メインバンクに頼らず、取引金融機関の分散や資産の証券化、直接金融などに関する検討も怠りなくしたいものです。

回答者

中小企業診断士 岩佐 大

同じテーマの記事