ビジネスQ&A
賃金引上げに活用できる国の支援制度について教えてください。
2024年 2月 21日
賃金引上げに活用できる国の支援制度について教えてください。
回答
賃金引上げに活用できる支援制度は多岐に渡ります。賃金引上げに直接的に関わる助成金や税制優遇の他に、生産性向上に寄与するための各種補助金の優遇措置等、数多くの制度がありますので、自社の置かれた状況や課題に応じて、各種制度の活用を検討してみてください。
賃金引上げに関する支援
厚生労働省・中小企業庁は、賃金引上げに取り組む中小企業・小規模事業者に対して、以下の支援を行っています。
1.業務改善助成金
事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げた上で、生産性向上に資する設備投資等を行う中小企業・小規模事業者に対し、その設備投資等に要した費用の一部を助成する制度です。
対象となる事業者は、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であり、解雇・賃金引き下げ等の不交付事由がないことが条件です。
助成される金額は、生産性向上に資する設備投資等にかかった費用に一定の助成率を掛けた金額と助成上限額とを比較し、いずれか安い方の金額となります。助成率、助成上限額は、事業場内最低賃金額の引上げ額、引き上げる労働者の数、引き上げ前の事業場内最低賃金額に応じて変わります。
業務改善助成金の申請受付や個別事案に関するお問い合わせは、各都道府県労働局雇用環境・均等部室にて受け付けております。
2.キャリアアップ助成金
有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業者に対し、助成する制度です。全部で6つあるコースの内、賃金引上げに活用できる制度は「(3) 賃金規定等改定コース」になります。
支援内容は、有期雇用労働者等の基本給を定める賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用した事業者に対して、助成を行うものです。助成される金額は、3%以上5%未満増額改定した場合は5万円、5%以上増額改定した場合は6万5,000円です(いずれも一人当たりの金額)。こちらは、1年度1事業所当たり100人までは複数回の支給申請が可能です。
また、職務評価を行った上で賃金規定等を改定した場合は、助成額の加算を受けることができます。加算額は、中小企業の場合、20万円です(1事業所当たり1回のみ)。キャリアアップ助成金に関するお問い合わせは、各都道府県労働局までご連絡下さい。
3.中小企業向け賃上げ促進税制
青色申告書を提出している中小企業者等が、前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税額(又は所得税額)から控除できる制度です。
適用要件は、まず雇用者給与等支給額の増加額で変わります。雇用者給与等支給額を前年度より1.5%以上増加させた場合は15 %、2.5%以上増加させた場合は30%を、それぞれ税額から控除できます。また、追加要件として、教育訓練費の額が前年度より10%以上増加している場合、さらに10%の税額控除が加算されます。そのため、最大で40%の税額控除が可能となっています。但し、税額控除額の上限は、法人税額(又は所得税額)の20%です。
中小企業向け賃上げ促進税制に関するお問い合わせは、中小企業税制サポートセンターまでご連絡下さい。
各種補助金の優遇措置
各種補助金においても、賃金引上げに取り組む事業者に対しては、補助率の引き上げ等の優遇措置が充実しています。
1.事業再構築補助金
コロナ禍を経た経済社会の変化に対応するため、新分野展開、業態転換、業種転換等の事業再構築への挑戦を支援する制度です。通常枠の他に、対象ごとに特色の異なる各種申請枠を有します。中でも「最低賃金枠」は、最低賃金引上げの影響を受け、その原資の確保が困難な事業者を対象としたもので、補助率は最大4分の3、補助上限額は最大で1,500万円となっています。申請を行うには必須要件を満たした上で、以下2点を満たす必要があります。
- 2022年1月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、2019年〜2021年の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少していること。
- 2022年10月から2023年8月までの間で、3か月以上最低賃金+50円以内で雇用している従業員が全従業員の10%以上いること。
※上記は、令和5年10月現在公募中の公募要領より抜粋しています。詳しくは、事業再構築補助金コールセンターまでお問い合わせ下さい。
2.ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)
中小企業・小規模事業者等が取り組む、革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善等を行うための設備投資等を支援する制度です。事業再構築補助金同様、各種申請枠を有します。その中の「回復型賃上げ・雇用拡大枠」は、業況が厳しい事業者に対して、補助率を3分の2に引き上げて支援します。申請するためには基本要件に加え、
- 前年度の事業年度の課税所得がゼロ以下であること。
- 常時使用する従業員がいること。
- 補助事業を完了した事業年度の翌年度の3月末時点において、その時点での給与支給総額の増加率が1.5%、事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上の水準の増加目標を達成すること。
が追加要件となります。
また、「大幅賃上げに係る補助上限額引上の特例」として、事業計画期間において給与支給総額と事業場内最低賃金を大幅に引き上げた事業者については、従業員数に応じて各種申請枠の補助上限額を引き上げます(但し、回復型賃上げ・雇用拡大枠などは除きます)。
※上記は、令和5年11月現在公募中の公募要領より抜粋しています。詳しくは、ものづくり補助金事務局サポートセンターまでお問い合わせ下さい。
3.小規模事業者持続化補助金
小規模事業者等が経営計画を作成し、その計画に沿って行う販路開拓の取組等を支援する制度です。これも他の補助金同様、各種申請枠を有します。
その中の「賃金引上げ枠」は、補助事業実施期間に事業場内最低賃金を地域別最低賃金より+30円以上とした事業者が対象となります。補助率は3分の2、補助上限額は200万円となっています。また、業績が赤字の事業者については、補助率が4分の3へ引き上がる追加要件もあります。詳しくは、管轄地域の商工会・商工会議所までお問い合わせ下さい。
その他の支援制度
上記以外にも各種支援制度があります。国の補助金以外にも、日本政策金融公庫の資金融資制度等がありますので、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
1.事業承継・引継ぎ補助金
事業再編、事業統合を含む事業承継を契機として経営革新等を行う中小企業・小規模事業者に対して、その取組に要する経費の一部を補助するとともに、事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎに要する経費の一部を補助する制度です。
その中の「経営革新事業」においては、補助率は2分の1〜3分の2、補助額は100万〜600万円となっていますが、一定の賃上げを実施する場合、補助上限額が800万円に引き上がります。
2.働き方改革推進支援資金
業務効率向上・生産性向上を図る設備導入や、非正規雇用労働者の賃上げ・正社員化、多様な人材の活用促進などを図る中小企業者を支援するため、日本政策金融公庫が必要な資金を融資するものです。事業場内最低賃金の引上げに取り組む事業者においては、限度額7億2,000万円の融資が受けられます。利率は2億7,000万円までは特別利率、2億7,000万円超は基準利率にてご利用可能です。詳しくは日本政策金融公庫の窓口までお問い合わせください。
- 回答者
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中小企業診断士 佐合 和行
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