ビジネスQ&A

越境ECを行う場合、商品の受け渡しにはどのような方法がありますか。

2024年 11月 8日

オリジナルアクセサリーの小売店を経営しています。コロナ禍以降、対面販売の限界を感じ、Eコマースの準備を始めています。海外の市場も視野に入れたいと思いますが、越境ECにおける商品の受け渡しにはどのような方法があるのでしょうか、そのメリット、デメリットについても教えてください。

回答

越境EC(国境を越えて行われる電子商取引)を行う場合、商品の受け渡しは主に「個別に直接配送する」「国内物流事業者と提携して配送する」「現地に拠点を設置して現地の提携事業者から配送する」の3つの方法に分けられます。各方法にメリットとデメリットがあるため、ビジネスの規模や目的に応じて適切な方法を選びましょう。

1.越境ECの3つの商品受け渡し方法

越境ECとは国境を越えて行われる電子商取引のことです。その商品の受け渡し方法には主に3つの選択肢があります。1つ目は「個別に直接配送する方法」で、初期費用がかからず容易に始められます。2つ目は「国内物流事業者と提携して配送する方法」で、通関手続きの手間を削減できます。3つ目は「現地に拠点を設置し、現地の提携事業者から配送する方法」で、迅速な受け渡しが可能です。それぞれにメリットとデメリットがあり、ビジネスの規模や目的に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。

以下、ビジネスライフサイクル(企業や事業が時間と共にどのように成長し、変化し、最終的に衰退するかを示す概念。一般的に導入期・成長期・成熟期・衰退期の4つの段階に分けられる)も意識しながら各方法を説明します。

【ビジネスライフサイクルの4つの段階】

1.導入期

  • 特徴:製品やサービスが市場に投入される時期
  • 課題:顧客の獲得のため、マーケティングへの多くのリソースの投入が求められる
  • 戦略:製品やサービスの認知度を高めることを重視する

2.成長期

  • 特徴:製品やサービスが市場で受け入れられ、売上が急速に増加する時期
  • 課題:競争が激化し、効率的な経営体制の構築が求められる
  • 戦略:ブランド力の強化、新しい市場への進出、ラインナップの拡充を重視する

3.成熟期

  • 特徴:売上がピークに達し、成長が安定する時期
  • 課題:市場の変化に対応し続けることが求められる
  • 戦略:新製品・新サービスの開発、既存顧客の維持、コスト削減を重視する

4.衰退期

  • 特徴:市場の需要が減少し、売上も減少し始める時期
  • 課題:既存顧客が減少していき、新規顧客の獲得も難しくなる
  • 戦略:事業の再構築(新しいビジネスモデルの採用、異業種との提携等)を重視する

2.個別に直接配送する方法

越境ECを行う場合の商品の受け渡し方法として、まず考えられるのは「個別に直接配送する方法」です。この方法は、商品の注文が入った後に日本国内から海外の購入者へ直接配送するもので、日本郵便株式会社や民間の国際便を主に利用します。1.で説明したビジネスライフサイクルの「導入期」に用いられることが比較的多い方法です。

この方法の最大のメリットは、初期費用がかからず容易に始められる点です。また、ECモールや物流事業者と契約する必要がないため、契約に縛られることなく自社の裁量に基づいた柔軟なビジネスの展開が可能となります。

一方でいくつかのデメリットがあります。まず、特に少量・多頻度の配送となる場合、1回あたりの配送費が高くなりがちなことです。また、複雑な通関手続きを自社または購入者が行わなければならないため、ほかの方法に比べてより手間がかかります。さらに、配送先の国によっては輸入規制がある場合もあり、事前に具体的な対応方法を確認しておく必要があります。

この方法を選ぶ際には配送業者の選定が重要です。日本郵便の「EMS(国際スピード郵便)」(*1)は120以上の国と地域に対応しており、最短2~4日程度で届けることができ、追跡サービスや損害賠償制度も充実しています。また、民間の国際便でもドア・ツー・ドアでの配送や幅広い国と地域への対応等、充実したサービスの提供を行う事業者も多くあります。

3.国内物流事業者と提携して配送する方法

次に、「国内物流事業者と提携して配送する方法」について説明します。この方法は、注文ごとに国内の提携物流事業者に商品を配送し、その事業者が海外の購入者に商品を配送するものです。ビジネスライフサイクルの「導入期」や「成長期」に用いられることが比較的多い方法です。この方法はさらに2つのパターンに分けられます。1つはECモールが提携している物流事業者の国内の物流拠点に商品を送付し、そこから海外の購入者に商品を配送する方法。もう1つは自社が提携する物流事業者の国内の物流拠点に商品を送付し、その物流事業者が海外の購入者への商品の配送を代行する方法です。

通関手続きにかかる手間を大幅に削減できる点がこの方法の最大のメリットです。提携する物流事業者が通関手続きの大半を代行してくれるため、自社で手続きを行う必要はほぼなくなります。また、物流事業者の配送ネットワークを活用することによる効率化も見込めます。特に大量の商品を一度に配送する場合や定期的に配送する場合に適した方法です。

一方のデメリットは、提携事業者の物流拠点に商品を送付する必要があるため、「個別に直接配送する方法」と比べて受注から受け渡しまでにより時間がかかります。また、提携事業者への手数料の支払いが発生するため、コストが増加する可能性があります。

トラブルが発生した場合の原因の特定や対応も提携事業者に依存するため、この方法を選ぶ際には信頼できる物流事業者と提携することが重要です。豊富な経験と実績を持っている大手の物流事業者であれば、基本的には安心して利用できる場合が多いと考えられます。

4.現地に拠点を設置し、現地の提携事業者から配送する方法

最後に、「現地に拠点を設置し、現地の提携事業者から配送する方法」について説明します。この方法は、現地(ターゲット国)に物流拠点を設置し、現地の提携物流事業者によって購入者に商品を配送するものです。商品を受注する前に現地に商品を輸出して保管しておく必要があるため、初期費用や在庫保管のための維持コストがかかりますが、受注後の購入者への迅速な配送が可能です。ビジネスライフサイクルの「成長期」や「成熟期」に用いられることが比較的多い方法です。

最大のメリットは、商品を購入者へ迅速に届けられる点です。現地に在庫を保管しておくことで、受注から受け渡しまでの時間を大幅に短縮できます。大量の商品を取り扱う場合や、現地での販売が好調で在庫の回転が速い場合に特に適しています。

この方法にもデメリットがあり、高いリスクも伴います。まず、初期費用が高額であることです。物流拠点の設置や在庫保管のための資金が必要です。また、在庫を抱えるリスクもあります。需要や販売が予測通りにいかない場合は在庫が過剰になり、保管コストが増加する可能性があります。さらに、現地の物流事業者とトラブルが発生した場合の対応は、国内物流事業者とのトラブル発生時と比較してより複雑になることも想定されます。

この方法を選ぶ際には、現地の市場調査を十分に行い、需要を出来る限り正確に予測することが重要です。また、信頼できる現地の物流事業者を選定し、契約内容を慎重に確認することが必要です。現地の法律や規制についても事前に調査し、適切な手続きを行うことが求められます。

以上のように、越境ECを行う際の商品の受け渡し方法の3つの選択肢には、それぞれメリットとデメリットがあります。ビジネスの規模や目的、ビジネスライフサイクルに応じた最適な方法を選び、効率的な物流体制を構築することが越境ECを成功に導く鍵となります。

回答者

中小企業診断士 後藤 啓介

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