ビジネスQ&A

海外拠点から上手に撤退するにはどうすれば良いですか?

中国にアパレルの製造工場を設置し日本に輸入してきましたが、人件費の高騰が激しく工場閉鎖を考えています。海外での撤退には困難が伴うと聞きますが、損害を最小にして撤退するにはどうすれば良いでしょうか?

回答

すでに海外で事業活動を行っている中小企業が海外での事業活動の変化等に対応するため、進出先での事業の縮小・撤退、第三国への移転等の事業再編に取り組むケースが増加しています。中小企業が海外から撤退する際の問題を分析し、海外展開のポイントとして以下7点に絞って整理します。

【撤退の方法と資金回収】

合弁により海外に進出した場合、撤退する際には持ち株を売却したり、合弁会社を清算したりして資金を回収しますが、回収ができず、結果的に出資金を全額損失処理せざるを得ない場合が数多く見受けられます。

海外から撤退する方法には、一般的に持ち分譲渡、解散・清算、破産があります。最も許認可が得られやすく、手続き完了までスムーズに運ぶ可能性が高いのが、持ち分譲渡です。譲渡先としては外資企業を選ぶことが最上です。

一方、解散・清算は、その会社自体がなくなるので、現地政府当局は今後そこから税金を徴収できなくなりますし、現地の従業員の雇用が失われることになります。そうしたことから許認可がなかなか得られず、撤退までの道のりが長期化するのが一般的です。

破産は債務超過の状態にある企業が債務を整理する方法ですが、中国企業はともかく外資系企業の場合はまず認められることはなく、現実的な選択としては持ち分譲渡か解散・清算となります。

【現地利害関係者との調整】

中国では現地から撤退する際に、董事会で董事全員の承諾を得る必要がありますが、当初は中国側の董事の承諾が得られず、約三年の交渉を経てようやく清算の手続きを踏むことができたものの、それまで出資していた全額を棄損したという事例もあります。合弁や独資など海外進出の形態をどのようにすべきか海外進出調査時に十分検討するとともに、撤退に関する法律を確認しておくことが対策として必要です。

【撤退リスクの軽減】

海外での事業展開リスクは日本と比べると数段高いことから、撤退リスクを低減するためにさまざまな対策をあらかじめ打っておくことが必要です。たとえば中国において法人としての進出ではなく、社長個人が出資する形で進出したことにより、行政上の手続きを踏むことなく、比較的スムーズに撤退できた事例もあります。

また、補助金を活用し初期投資を抑えることも、結果的に撤退リスクの低減につながります。一般的に中小企業の業界のマーケットサイズは小さく、収益も限られることから、初期投資を抑え、環境変化に耐えられる最小の経営体制を進出初期から構築しておくことが必須です。国や地方自治体などさまざまな中小企業支援策が準備されていますので、積極的に活用しましょう。

【投下資金の早期回収】

次に投下資金を早期に回収するような仕組みを構築することがあげられます。合弁会社に対する出資ではなく、貸付金を供与し毎月返済してもらう形や、技術供与・生産委託等を検討します。適切な海外進出形態を選択するためには、事前の情報収集をしっかり行うことが必要です。ただし貸付の場合には、出資よりも現地企業に対する発言力が低下するといったデメリットもあります。進出形態を検討する際には、こうしたメリット・デメリットを勘案した上で選択することがポイントです。

【撤退計画の作成】

撤退計画をあらかじめ作成しておくことも有効です。自社の経営状況がどのような状態になったらどうするかを、あらかじめ基準として設定しておくことが望まれます。具体的には「3年間赤字が続いた場合には、事業計画を抜本的に見直す」、「設立後5年が経っても最低目標の利益をあげられなかった場合には、撤退も含めて事業再編を検討する」など、時期や金額の目安を明確にしておきます。また、撤退計画を作成することで、撤退の影響を国内事業に及ばせないためにはどうしたら良いかを考えるきっかけになります。

【外部資源の積極的な活用】

経営資源に乏しい中小企業が単独で海外展開を図ることは決して簡単なことではありません。海外展開時に外部資源を積極的に活用することが肝要です。進出調査に留まらず、企業運営・管理ノウハウや現地パートナーの選定についてもコンサル会社の活用は可能です。コンサル会社の活用についても公的機関からの補助金を積極的に活用することで、初期投資負担を抑えることができます。ただし外部経営資源を活用する場合には、当事者間の意思疎通をしっかり行うことが必要です。

【パートナーの慎重な選定】

海外で事業を行う場合には、その土地でのコネクションが必要となることが多く、どのような設立形態であっても、現地パートナーが必要となります。パートナー間の方針の相違は海外から撤退する大きな原因となりますので、パートナーの選定に当たっては経営者自らがパートナーと何度も会って交渉を重ねることが重要です。パートナー候補が現地人であれば、現地の文化とともに商慣習を理解し、入念に意思疎通を図ることが重要です。

また、仮にパートナー候補が日本人である場合も、安易に信用せず、事前に信用調査を行ったり、契約書できちんとした取り決めを行ったりすることが必要です。

回答者

中小企業診断士 林 隆男

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