経営ハンドブック
人事評価制度と賃金制度の改善
企業理念の実現と人事評価を結びつけよう
「採用」「人事評価」「報酬」「人材開発」は、人的資源管理の4要素と呼ばれる。中でも「人事評価」は、従業員のモチベーションや生産性を左右する重要な要素だ。従業員に対し適切な評価を積み重ねていくことは、人材開発のためにも不可欠である。
終身雇用・年功序列の雇用慣行が長らく定着していた日本企業では、人事評価においても勤続年数や残業時間を主な指標としてきた。しかし、付加価値の高い製品開発や効果的な販売戦略が企業の業績を左右するようになると同時に、年功を基準とする人事評価は見直しが求められるようになった。1990年代以降、「成果主義」型の評価制度が日本で取り入れられたのもその一例だ。最近では上司と部下との面談の機会を増やし、評価とフィードバックの頻度をできる限り増やすような新しい人事評価の在り方を取り入れる企業も出ている。
もちろん業種や規模、企業ごとの特性などによってふさわしい人事評価制度は異なるため、どの企業にも当てはまるような最適解は存在しない。重要なのは、自社の経営理念にふさわしい人材像を明らかにし、社員が納得感を得られるような人事評価制度を構築・運用していくことである。そのうえで、それらを賃金や処遇に適切に結びつけていくことが望ましい。
人事評価制度のポイント
- 企業理念・事業計画と明確に結びついた人事評価であること
- 明確な基準が示され、公平性・透明性をもって運用されること
- 従業員へのフィードバックまでがセットになっていること
1.企業理念・事業計画と明確に結びついた人事評価であること
従業員のやる気を引き出すには、何のために自分は働いているのか、どうすれば成果や評価に結びつくのかをはっきりと示す必要がある。「何のため(WHY)」とは企業理念の実現であり、「どうすれば(HOW)」は事業計画に当たる。
まずもって企業理念の実現や事業計画達成のために、一人ひとりの従業員がどうすればいいのかを明確にすること。それを人事評価と結びつけることが必要だ。企業理念や事業計画と切り離された評価では、従業員の納得感は得られない。
2.明確な基準が示され、公平性・透明性をもって運用されること
一般に人事評価は、業績、能力、情意(態度)の3要素について、それぞれどのような項目を、どのような基準で評価するかを決めて行う。職種によって項目を変えたり、職位によって評価項目の重み付けを変えたりすることもある。
ここで大切なのは、どんな項目について、どういった基準で評価がなされるのか、あらかじめ明確かつ具体的に示されていることだ。評価の枠組みをブラックボックス化せず、従業員が何をどうすれば評価されるのかを知ることによって、納得性は高まる。
もう1つ忘れがちなのが評価者の教育である。評価項目や基準が明確であっても、評価者によってその運用の仕方がバラバラでは公平な評価はできない。事前に評価者に対する研修や説明会等を行い、人事評価の意義や評価者の役割、自社に求められる人材像、客観的な評価の重要性、評価面談の留意点などを伝えておくことが望ましい。
3.従業員へのフィードバックまでがセットになっていること
人事評価は、結果が出て終わりではない。評価結果についての情報を従業員と共有し、次の成長に役立ててもらわなければ意味がない。現時点で何ができて何ができないのか、会社としてこれから何を期待しているのか、どのような行動を会社が評価しているのか、評価者である上司が個々の従業員にしっかりと伝えることが重要である。より高いパフォーマンスを上げるための従業員への働き掛けがあって、人事評価は一巡する。
フィードバックは、上司と部下のコミュニケーションのチャンスでもある。こまめなフィードバックはコミュニケーションを活発化させ、信頼関係の構築に貢献するほか、評価についてすり合わせする機会も増え、より納得性の高い人事評価につながる。最近は、「1on1ミーティング」という手法が注目を集めている。これは、週1回、最低でも月1回のペースで、30分ほど、上司と部下が1対1で面談して、成果を確認したり、悩みの解決を図ったりなど対話の頻度を増やす取り組みだ。背景には、経営環境の変化が激しくなり、年1〜2回程度の頻度で能力や成果を評価するのは難しくなっているということがある。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「従業員の意識と人材マネジメントの課題に関する調査」(2008年)によると、従業員が自身の仕事に対する意欲が「高くなっている」と感じる理由は、多いものから順に「仕事を通じて学べるものが多いから」「責任ある仕事を任されているから」「仕事の達成感が感じられるから」となっている。この点は、今も変わらないだろう。人は仕事を通じて成長し、責任ある仕事をして、会社に貢献することに働きがいを感じる。従って、人事評価制度は、学びたい、成長したいという想いを持った従業員の育成を手助けするものでなければならない。