経営ハンドブック

社長と従業員の関係構築

“べき論”を捨てて、まずは話を聞こう

「従業員が育たない」「部下が言うことを聞かない」と悩む経営者は多い。相手の性格や、これまでの関係性などによって、従業員一人ひとりに合わせて教育方法を変えたほうがいいとされている。もし今悩んでいるのなら、以下に挙げる3つのポイントを経営者自身が行っているか、振り返ってほしい。

従業員と良い関係を築くためのコツ

  1. まずは話を聞く
  2. 自身の感情を表に出さない
  3. “べき論”を捨てて接する

1.まずは話を聞く

従業員に仕事の指示や指導をする場合、多くの経営者は「何をしてほしいか」「何が問題と考えているか」を伝える。その後に、「じゃあ任せたよ」「伝えたからね」ではなく、任せる仕事についての疑問や不満があるかを確認する。指導であれば、本人側からの言い分を聞く時間を持つ

ある程度の信頼関係ができれば、経営者からの問いかけに対して、従業員は答えてくれるようになる。出てきた意見に対して相手側の立場を考えながら説明することで、多くの人は納得してくれる。「社長に対してきちんと意見を伝えた結果、話を聞いてもらえた」という納得感が重要だ。

また、経営者と過ごす時間が長いことも信頼関係の構築には効果的だ。飲み会や食事会で長い時間過ごし、話を聞いてあげるだけで関係性は好転する。経営者自らが従業員一人ひとりに感謝を述べるために、賞与を現金で手渡ししている会社もある。普段の仕事ぶりを評価されつつ、賞与を手渡しされた従業員は、会社や経営者への愛着を強めるだろう。お互いの信頼関係を深める効果が期待できる。

問題となるのは、既に関係が悪化している場合だ。その状態でいくら質問をしても、ほとんど回答は得られない。「どうせ何を言っても聞いてくれない。最悪の場合、さらに怒られる」と思われているからだ。こうした場合は、過去に思い当たる自身の行動を振り返り、自身が反省していることを伝えながら、根気強く信頼回復を図るしかない。

従業員から話を上手に聞き出せていないと感じているのであれば、「コーチング(指導を受ける側に話させて自身で解答や納得に導く手法)」と呼ばれる手法を専門家から学ぶのも手だ。コーチングとは、大まかにいえば、あれこれと上司側が指示・指導するのではなく、部下が課題や問題点を洗い出しながら自力で答えにたどり着けるように誘導する手法を指す。頭ごなしに指導される場合と比べ、考える機会が増えることで自律的な行動を促すと同時に、自身で導き出した答えであるという認識から、納得感を持って仕事に取り組むケースが増える点が特徴だ。

2.自身の感情を表に出さない

これは、いきなり怒り出す年上の親族や教師に対して、子供が距離を置きたがるのと同じだと考えてほしい。経営者が「いつでも報告や相談をしなさい」「会議では自分の意見を話すように」と従業員に伝えていたとしても、いざ相談に行ったら、「何でそんな馬鹿なことをやるんだ」と叱責したり、会議で発表したら、いきなり強い口調でダメ出しを始めたり……。これでは従業員から避けられてしまい、良好な関係は築けない。

経営者からすると、以前から伝えていた指示を守っていなかったり、報告内容が稚拙すぎて腹が立ったりするのは自然なことだ。その会社で誰よりも困難な仕事に取り組んでいる経営者から見れば、従業員の仕事のレベルが低いと感じてしまうのも、ある意味では当然ともいえる。

それでも、従業員との関係を考えるならば、経営者自身の瞬間的な感情を表に出すのは避けたほうがいい。その怒りに任せた言動で従業員との距離ができてしまえば、その溝を埋めるのは一苦労だ。

3.“べき論”を捨てて接する

従業員に強い口調で指導する、つい感情的な態度を表に出してしまう経営者には、“べき論”が強く根付いているケースが多い。それは、「課長なんだから、これくらいの能力は備えているべき」「社会人なんだから、この程度の常識は備えているべき」「社長に上げてくる報告書は、最低限このくらいの完成度であるべき」といったものだ。

このような意識を根底に持っていると、従業員のミスや怠慢が許せなくなり、表情や言動にも表れてしまう。ただ、そもそも、その人物を採用して役割を与えているのは企業側である。問題が生じているのであれば、別の人物を昇格させるか、必要な教育や訓練を施して育てるなどの対策を講じることでしか問題は解消されない。

そして何より、こうした“べき論”で接してくる経営者に、従業員は同じ論法で不満を抱くようになる。「部下の仕事には社長が責任を持つべきだ」「“社長なんだから、私にも分かるように指示すべきだ」「1カ月前と言っていることが違う。説明と謝罪があるべきだ」といったものだ。こんな応酬を続ける人間関係が良好であるはずがない。

関連リンク