経営ハンドブック

各ハラスメントの特徴と防止策

本人に相手を傷つける意思がなくてもハラスメントに該当

ハラスメントという言葉が社会に浸透したのは、「セクシャルハラスメント(セクハラ)」が流行語大賞となった1989年頃のこと。それに先立ち、男性が一方的に女性に対して性的嫌がらせを起こした「西船橋駅ホーム転落死事件」「福岡セクハラ訴訟」が社会的に大きな話題となり、セクハラが問題視されるようになった。2001年には、コンサルティング会社の提唱に始まる「パワーハラスメント」が一般語として広まり、以降、さまざまなハラスメントが登場した。現在では30種類以上のハラスメントがあるといわれるが、職場で起きやすいハラスメントについて、ポイントを見ていく。

職場におけるハラスメント防止のポイント

  1. セクハラ防止は個人的なマナーではなく、企業の法的責任問題
  2. 指導とパワハラとの線引きは企業や職場で認識を合わせる
  3. 妊娠・出産・育児休業で労働者の権利を侵害してはならない

1.セクハラ防止は個人的なマナーではなく、企業の法的責任問題

昭和の時代、ともすれば女性の体に触れることを職場コミュニケーションの一環と勘違いしているような社員が許される雰囲気のある会社があり、また、セクハラ被害の判例も定義もなかった。しかし、平成に入ってセクハラの意識が高まり、人権侵害の1つと認識されるようになった。1997年の改正男女雇用機会均等法では職場におけるセクハラを以下のように定義している。

労働者の意に反する性的な言動が行われ、1.それを拒否したり抵抗したりすることによって解雇、降格、減給などの不利益を受けること、2.職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じること

1.は対価型セクハラ、2.は環境型セクハラと呼ばれる。2.について、例えば、女性に対しスカート着用を望んだり、「恋人はいるの?」と聞いたりすることもセクハラに該当する。

2007年の改正男女雇用機会均等法では、男性に対する女性のセクハラ禁止も対象となった。セクハラ行為に対し、男女雇用機会均等法では「適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と事業主の義務を明言している。具体的措置として、厚生労働省では、「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」「職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」などを掲げている。

2.指導とパワハラとの線引きは企業や職場で認識を合わせる

パワーハラスメント、通称パワハラは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」と定義される。上司から部下、先輩から後輩に対して行われるケースが多数だが、「地位や優位性を背景」にしているのであれば、同僚間や年下から年上というケースもあり得る。

パワハラの該当行為については、厚生労働省で6類型を示しているが、問題となるのは「業務上の指導」との線引きの難しさだ。場合によっては、他の従業員の前で叱責することもあるだろう。そこで基準となるのが「業務の適正な範囲」かどうかという点。下表の(1)については明らかに「業務の適正な範囲外」、(2)(3)は原則範囲外だが社会的マナーを欠いた行為が再三の注意にもかかわらず繰り返され、発言が人格を欠いたものでない場合は適正な範囲と捉えられるケースもある。もちろん以下の具体例で示しているような「役立たず」「給料泥棒」などは議論の余地なく「業務の適正な範囲外」だ。(4)~(6)については、業種や企業文化によって適正範囲が異なるため、各企業や職場で認識をそろえ、適正範囲を明確にすることが望ましい。また、2019年5月には、パワハラ防止を企業に義務付ける法改正(労働施策総合推進法の改正)がなされた。施行は2020年からとなっており、猶予はない。

3.妊娠・出産・育児休業で労働者の権利を侵害してはならない

職場で3番目に問題となりそうなハラスメントが、妊娠・出産・育児休業(および介護休業)に関するハラスメントだ。マタニティーと関連づけて「マタハラ」とも呼ばれる。

男女雇用機会均等法と育児・介護休業法により、労働者の妊娠・出産・育児休業等を理由とする解雇などの不利益取り扱いが禁止されている。さらに2016年の両法律の改正により、「上司・同僚からの妊娠・出産に関する言動により(育児・介護休業法では「育児休業・介護休業に関する言動により」)、妊娠・出産をした女性労働者の(同「育児休業・介護休業をする者の」)就業環境が害されることがないよう防止措置を講じなければならない」とされ、防止措置が義務付けられた。なお、男性に対して育児休業の取得を拒否する行為もマタハラに当たる。

妊婦に対する配慮は、マタハラとの線引きが難しいところだ。長時間労働をしている妊婦に対して、業務分担を見直して残業量を減らしたり、楽な部門に異動させたりといった配慮はハラスメントには該当しないとされている。ただし、会社としては気を利かせたつもりでも、妊婦が納得していなければマタハラと受け取られてしまうケースもある。職場でその範囲を十分に検討すること、当人と話して意向を知ることが重要だ。

その他の職場のハラスメントとして厚生労働省は、飲酒にまつわる嫌がらせや強要=アルコールハラスメント、「男なのに」「女なのに」といった男らしさ・女らしさの強要、同性愛者に対する嫌がらせ=ジェンダーハラスメント、精神的暴力や精神的虐待=モラルハラスメントを指摘している。30年前にはなかったハラスメント問題だが、「昔はこんなものなかったから関係ない」ではなく、経営者や管理職は認識を新たにすることがまず重要だ。

出所:厚生労働省「管理職向け職場のハラスメント対策セミナー2018」

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