業種別開業ガイド

カフェ

2024年 7月 10日

カフェのイメージ01

トレンド

カフェには大きく分けると、大手チェーン店とそれ以外の店舗の2種類がある。全国42,000人を対象に行った調査(厚生労働省、2018年)によると、最近3年以内に喫茶店・カフェを利用したことがある人は75.6%だったが、大手チェーン以外の店舗を利用した人は47.7%だった。最近3年以内に喫茶店・カフェを利用した人のうち、約27.9%は大手チェーンのみを利用するが、約47.7%は大手チェーン以外の喫茶店・カフェも利用している。

喫茶店・カフェの利用状況

このことから、大手チェーン以外の店舗でも新規利用者との接点を持つことができると考えられる。その際に、利用者に満足度の高いサービスを提供できれば、何度も足を運んでもらえる可能性もある。大手チェーン以外の店舗の利用者のなかには、喫茶店・カフェに、大手チェーンにはない個性を求めている人もいるだろう。そのため、自らの店舗の個性を明確に打ち出すことができれば、長く安定した経営を行うこともできるはずだ。

近年、消費者のニーズは多様化してきており、さまざまな特徴を持ったカフェが人気を集めている。以下では、2つの特徴的なカフェを紹介しよう。

(1)専門型カフェ

昨今は、幅広いメニューを揃えるのではなく、特定のメニューに特化した専門性の高いカフェが人気を集めている。例えば、コーヒーに特化したカフェのなかには、数十種類のコーヒー豆を用意し、利用者の好みに応じて1杯ずつ豆を挽いて提供するものがある。

他にも、紅茶や日本茶に特化したカフェもあり、他のカフェでは味わえない体験を利用者に提供している。

また、ドリンクのみならず、パンケーキやワッフル、パフェのようなスイーツに特化したカフェ、カレーやピザのような食事に特化したカフェもある。このように、特定の飲食物に特化することで競合他社との差別化を図るカフェがトレンドとなっている。

オーナーや経営者の趣味嗜好をカフェの個性に反映することもできるため、経営していて楽しめるカフェを作ることができるだろう。

(2)体験型カフェ

カフェのなかには、利用者に新しい体験を提供することを重視するものもある。例えば、店舗内に自由に読める書籍が数百冊から数千冊あり、カフェメニューとともに読書を楽しめるカフェがある。

また、ものづくりができるワークショップ型のカフェや、大福づくり、手巻き寿司づくりのように料理も同時に楽しめるカフェもある。他にも、全国から落語ファンが集まり、落語を楽しめるカフェや、数千種類の文房具を試すことのできる文房具カフェなども話題だ。

このように、立地と飲食物による差別化のみならず、利用者に提供する体験を活用して差別化を図るカフェが増えている。ユニークなアイデアを店舗に反映できれば、メディアに取り上げられたり、口コミで人気が高まったりする効果も期待できるだろう。

また、近年のカフェをめぐる大きな動きとして、SNSの影響が大きいことも挙げられる。Instagramなど写真共有型SNSを活用して、若い世代がカフェに関する情報を共有するようになっている。特に、内装やスイーツなどの見栄えの良い写真を撮影するためにカフェをめぐる人もいるほどSNSへの投稿は人気を博している。

近年のカフェ事情

日本フードサービス協会の「外食産業市場動向調査 令和5年(2023年)年間結果報告」によると、2012年以降、拡大基調だったカフェの市場規模(売上金額)は2020年、コロナ禍の影響を受けて激減した。しかし、2021年以降は持ち直して回復基調にある。
 

売上金額前年比(喫茶)

売上金額前年比(喫茶)

もう1つの大きなトピックとして、2021年に食品衛生法が改正されたことがある。これによって、カフェと喫茶店の営業区分がなくなった。

法改正以前は、カフェは「飲食店営業」、喫茶店は「喫茶店営業」と法律で区分されており、喫茶店における調理は基本的に不可とされていた。

ところが法改正により、「飲食店営業許可」と「喫茶店営業許可」が「飲食店営業許可」に統合され、喫茶店にもカフェと同様の営業許可申請が必要となった。そのため、喫茶店でもフードの提供ができるようになり、カフェと喫茶店のはっきりとした区別はなくなったと言える。

本改正により、これまでは「喫茶店営業」として経営していた店舗であっても、「冷蔵設備」「洗浄設備」「給湯設備」をはじめとする厳格な設備要件を満たさなければならなくなった。一方、喫茶店も食事を提供できるようになったため、競合他社との差別化のために本格的なメニュー開発を進める喫茶店も出てきている。長く営業している喫茶店のなかには、レトロでユニークな内装を備えた店舗もあるため、それらの個性と本格的なフードメニューを活用した個性的な喫茶店・カフェが増えていくだろう。

また、近年の特徴的な動きとしては、コロナ禍を経てリモートワークをする人が増えたことにより、セカンドオフィスとしての需要が増加してきたことが挙げられる。また、特定の企業に属さずに、フリーランスとして働く人も増えている。

カフェとしてもニーズに応えるべく、Wi-Fiや電源設備を設けるようになってきた。なかには、有料会議室を備えたカフェや、ディスプレイ、キーボード、マウスなどを貸し出すカフェもある。

これらのカフェでは、自宅や会社とは異なる環境で働けるのみならず、普段は知り合うことができないような人と知り合える可能性がある。カフェを経営する側の視点としては、長時間の利用、複数回の注文、リピート利用が期待できるだろう。

カフェの仕事

カフェの仕事は、「店長」「バリスタ」「キッチンスタッフ」「ホールスタッフ」などに分類できる。具体的な仕事は以下の通り。

  • 店長:店舗全体の運営、売上管理、勤務シフト作成、新メニューの考案、スタッフの採用など
  • バリスタ:コーヒーを淹れる専門的職種
  • キッチンスタッフ:フードやスイーツの調理・製造、食材・キッチンの管理など
  • ホールスタッフ:接客、会計、調理補助など
カフェのイメージ02

カフェの人気理由と課題

人気理由

  1. SNSを通じてコンセプトカフェの人気が高まっている
  2. 未経験者でも開業しやすい
  3. 自分の感性やアイデアを活かせる

課題

  1. 大手チェーンの進出による競争激化
  2. コーヒー豆の高騰

開業のステップ

カフェの開業ステップは、以下の通り。

開業のステップ

カフェに役立つ資格

カフェを開業するためには、以下の資格や許可が必要になる。

(1) 食品衛生責任者(必須)

カフェなどの飲食店には、食品衛生責任者を各店舗に1名以上配置することが義務付けられている。資格の取得には、保健所が行っている食品衛生責任者養成講習を受講する必要がある。講習会では、衛生法規や公衆衛生学などの講習を6時間ほど受けるほか、受講料として1万円前後が必要になる。栄養士や調理師の資格を取得していれば講習受講は免除される。

(2) 飲食店営業許可(必須)

飲食店を開業する際は、所轄の保健所へ営業許可申請を行い、審査に通らなければならない。営業する店舗の規模や形態により必要な手続きや書類が異なるため、事前に保健所に相談しておくとよい。

(3) 防火管理者(必要な場合がある)

収容人員(従業員を含む)が30人以上の場合には、防火管理者の選任が義務付けられている。防火管理者の資格には甲種と乙種の2種類があり、用途と収容人数によって取得する資格が異なる。

(4) 深夜酒類提供飲食店営業(必要な場合がある)

午前0時以降の夜間帯に酒類を提供する場合は、所轄の警察署の生活安全課へ深夜酒類提供飲食店営業の届出を行う必要がある。

(5) 菓子製造業許可(必要な場合がある)

パンやケーキなどを製造・提供する場合は、所轄の保健所へ申請を行い、許可を取得しなければならない。

(6) JBAバリスタライセンス(必要ではないが役立つ)

日本バリスタ協会が、バリスタのプロフェッショナルであることを認定する資格であり、レベル1~3まである。日本バリスタ協会の認定校が開講するカリキュラムを受講後、ライセンス試験に合格すると取得できる。

開業資金と運転資金の例

個人でのカフェ開業にあたっては、次のような資金が必要である。

  • 物件取得費:保証金、礼金、仲介手数料など
  • 内装工事費:設計費も含む
  • 什器備品費:テーブル、チェア、食器棚、冷蔵庫、調理器具、オーディオ設備、食器など
  • 広告宣伝費:ホームページ制作費、広告チラシ制作費など
  • 商品仕入費:食材、コーヒー豆など

フランチャイズでのカフェ開業にあたっては、次のような資金が必要である。

  • 加盟料
  • 保証料
  • 研修費
  • 店舗取得・工事費

開業資金と運転資金の例を表にまとめた(参考)。

 開業資金の例
運転資金の例

開業のための資金調達には、日本政策金融公庫の新規開業資金(限度額7,200万円)などが利用できる。銀行よりも有利な条件で借り入れができるため、まずは相談してみることをおすすめする。

また、各地方自治体が独自の融資制度を用意しているケースもあるため、都道府県庁や市区町村役場に確認してみるとよい。

売上計画と損益イメージ

カフェを開業した場合の1年間の売上のシミュレーションは、以下の通りである。客単価800円、席数20席、1日の回転数4とした場合の事例とする。

  • 日商:20席×800円×4=6万4,000円
  • 年商:6万4,000円×25日×12カ月=1,920万円

次に、損益イメージを算出してみよう。

【個人経営】
年間支出:約1,620万円
(人件費:約40万円、物件賃貸料:約15万円、水道光熱費・諸経費:約20万円、仕入原価:約60万円の合計約135万円×12カ月)
初年度売上高:約1,920万円
営業利益:約300万円

【フランチャイズ】
年間支出:約1,680万円
(人件費:40万円、物件賃貸料:約15万円、水道光熱費・諸経費:約20万円、仕入原価:約60万円、ロイヤリティ:約5万円の合計約140万円×12カ月)
初年度売上高:約1,920万円
営業利益:約240万円

1日の回転数4が確保できた場合に見込める売上であるため、オープン当初から達成できるとは限らないことに注意が必要である。

売上を確保するためには、カフェのコンセプトをしっかりと作り込み、そのコンセプトに合ったメニューを展開することが重要である。

宣伝にはSNSを活用すれば、コストをかけずに告知可能である。ただし、写真映えのするビジュアルを意識したメニューとインテリアにすることをおすすめする。こちらから発信するだけではなく、来店者がSNSで発信することでも、集客効果が期待できるだろう。

カフェのイメージ03
  • 開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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