経営ハンドブック
幹部のロイヤルティーを高めるには
経営者が権限を委譲し、公私混同をしない姿勢を示す
会社で大きな役割を担う幹部のモチベーションを高め、意欲的に働いてもらう仕組み作りは、経営者の大切な仕事の1つだ。しかし、社長の指示に従って業務をこなすだけの幹部も中小企業には多い。自律的に行動する幹部を育てるには、会社へのロイヤルティー(忠誠)が重要になってくる。
幹部のロイヤルティーを高めるポイント
- 能力だけでなく、人格も重視する
- 権限を委譲し、責任感を持たせる
- 公私混同せず、会社のために働く
1.能力だけでなく、人格も重視する
経営者は、自分を支える幹部を選ぶ際に、営業ができる、技術に優れている、財務に詳しいといった個々の能力を重視する。もちろん、能力は大事だ。しかし、それだけでは会社はうまくいかない。本人の能力が高いことと、組織として成果が出ることは必ずしも一致しないからだ。
また、部下の成果を横取りして、自分の手柄としてアピールするような人物では、幹部にふさわしくない。会社よりも自分のことだけを考えていると判断できる。
そこで、幹部を選ぶに当たっては、人格という側面も大切にしたい。自分以外の人に対する「思いやり」があるかどうかと言い換えてもいいだろう。こうした人材は、一般にチームとして結果を出すことに喜びを感じるものだ。経営者が打ち出す方針を通じて、着実に会社と従業員が成長していることを実感できれば、自然と幹部のロイヤルティーが高まっていく。
2.権限を委譲し、責任感を持たせる
「社長に言われた通りにやるだけ」の幹部は、会社へのロイヤルティーは決して高くない。自分で判断して行動していないので、失敗しても「自分は悪くない」と、責任を経営者に転嫁してしまうからだ。また、「うちの会社では、責任は与えられるが権限は与えられていない」とグチをこぼす幹部も少なくない。
そこで、経営者は権限を幹部に委譲して、自分で判断して行動する経験を積ませる必要がある。まずは、簡単な判断から任せてみよう。経験豊かな経営者であるほど、幹部の判断に対して、口を挟みたくなるかもしれない。ここは、ぐっと我慢して見守る。成功すれば、もっと難しい判断をさせる。大事なのは、失敗したときだ。その原因を考えさせるだけでなく、「後始末」をさせる。具体的には、失敗の影響を最小限に抑えるための行動だ。この経験を通じて、幹部は責任を持って判断し行動するようになる。
幹部に任せることに対して、「そんなリスクは負えない」と感じる経営者もいるだろう。しかし、経営者自身はこれまでたくさんの失敗を繰り返しつつ、自ら問題解決してきたはずだ。幹部に失敗を経験させ、それを生きた教材として指導する。
また、5年後や10年後に幹部自身がどうなっていたいのかといった話し合いも大切だ。経営者を目指したい人もいれば、専門家としてプレーヤーに戻りたい人もいるだろう。自身の将来について真剣に考えてくれている経営者の姿勢がロイヤルティーの向上につながる。
3.公私混同せず、会社のために働く
必死に営業して売り上げを伸ばし、現場の改善活動でコストを削減する幹部が、もし経営者が会社のお金をプライベートな飲み会や私用の高級車に利用していることを知ったら、どう思うだろうか。
当然、真面目に働くことをバカらしく感じ、経営者や会社へのロイヤルティーをなくすだろう。場合によっては、幹部が自分の私利私欲のために、会社のお金を使ってしまうかもしれない。そうなったら、組織として成り立たなくなる。経営者は私用であるならば、自分の給与から支払うようにする。会社のお金と経営者のお金は明確に分けておく。
経営者は会社のために働く姿勢を幹部や従業員に示し、公私混同はしない。当たり前のことだが、実際は決裁権や人事権といった権力を持つと、つい自分のために使いたくなってしまう——。自らを律する強い意志が経営者には求められる。
最後に、経営者自身が任命していない古参幹部のロイヤルティーを高めるのに苦労する企業が多い。経営方針や価値観について、しっかりと話し合い、すり合わせる必要がある。ケンカ別れのような形になってしまった結果、退職した幹部が競合企業に転職して自社の情報を提供したり、関係者に悪評を流したりといったケースは枚挙にいとまがない。経営者が自身の感情を優先して、自社をリスクにさらさす事態は起こさないようにしたい。