経営ハンドブック
コーポレートアイデンティティ
2023年 3月 1日
CIを取り入れて、自社の存在価値を見直そう
コーポレートアイデンティティ(CI)とは、気の利いたロゴマークを作ることではない。確かにCIを導入すれば、ロゴマークも新しく作るかもしれない。しかし、その本質は企業の独自性を見いだして、企業価値を高めるところにある。競合する他社とは「ここが違う」と、誰にでもわかりやすい形で表現することがコーポレートアイデンティティの本質だ。この表現を社外だけでなく、社内に対しても行っていくことで社員のモチベーションが高まり、会社がまとまって生産性の向上にもつながることが期待できる。
コーポレートアイデンティティのポイント
- CIとは何か
- CIの導入を考える
- インナーブランディングを理解する
- CIの先にあるブランディングを考える
1.CIとは何か
コーポレートアイデンティティ(Corporate Identity 略称:CI)とは、企業文化を構築し、その特性や独自性を内部的に再認識・再構築した上で、統一されたイメージやデザイン、わかりやすいメッセージ(言葉)として外部に発信し、社会と共有することで存在価値を高めていこうとする企業戦略の一つである。
CI計画を実行するにあたっては、その企業を象徴するマークやロゴを作成することが多いため、CIというとマークを新しくすることだと思われがちだが、マークの一新はあくまで一つの手段で、本来はもっとトータルに行われるものである。
その企業が持っている特性や独自性を、次に挙げるような3つの側面から、統一されたイメージやデザイン、メッセージでわかりやすく表現することで、それを社会に浸透させ、競合会社との明確な差別化を図ることができる。
- マインドアイデンティティ(Mind Identity: MI)……企業理念、社是、社訓、経営哲学などから生まれる企業の精神的方向性を示すこと
- ビヘイビアアイデンティティ(Behavior Identity: BI)……企業理念や企業戦略などを実践行動に移していくこと
- ビジュアルアイデンティティ(Visual Identity: VI)……シンボルマークやコーポレートカラー、社名のロゴ、店舗デザイン、商品パッケージ、印刷物などで視覚的に表現すること
2.CIの導入を考える
CIを導入するにあたっては、新規で導入するのか、それとも既に導入したCIを新たに変更するのかによって、その意味合いが大きく違ってくる。
新規で導入する場合は、最初にその意義や考え方、実施方法などについて、社内で十分に共有しておく必要がある。
既に導入したCIを新たに変更する場合は、なぜその段階でCIを変更する必要があるのか、従業員が理解しておく必要がある。また、「リブランド」とも言われる形でCIを全面的に刷新してしまうのか、VIなど一部のみを変更するのかという問題もある。
企業が大幅な事業転換を図る場合やM&Aで企業の合併・買収が行われた際などには、全面的なリブランドが必要となることが多い。これに対して業容拡大や事業承継などの際には、ロゴマークやロゴタイプ、コーポレートカラーなどのVIのみが変更になることが多い。
CIの導入による主な開発項目は以下の通りである。
1. ネーミング
- 社名やブランド名、製品名など
2.企業理念
- コーポレートフィロソフィー
- コーポレートステートメント
- コーポレートスローガン
- コーポレートメッセージ
3.デザイン
- 企業またはブランドマーク
- 企業またはブランドロゴ
- 正式社名ロゴタイプ(英文・和文)
- コーポレートメッセージなどのロゴ化
- コーポレートカラー
- コーポレートイメージ、キービジュアル
- パッケージデザイン
4.標語・スローガン
- スローガン
- タグライン(tag line)
- キャッチフレーズ
5.キャラクター・マスコット
- コーポレートキャラクター
6.コーポレートツール
- 名刺、封筒
- 企業エントランスデザイン、店舗デザイン
- 社旗、社章
- 車両マーキング、ユニフォーム
7.企業広報
- 会社案内
- 商品カタログ
- コーポレートサイト
- ブランドサイト
- 採用サイト
- 企業動画
- サイン(パネル、看板、標識等)
3.インナーブランディングを理解する
CIは、主に社会に対して発信されていくものだが、企業内部においても統一された価値の共有による従業員の意識の向上、それに基づく品質や生産性の向上、就職希望者の増加などの効果が期待できる。
つまり「一つ旗のもと」といった言葉に表されるように、CIは従業員が一致団結して強い組織になるための「旗印」になり得るのである。
しかし、いくら経営者が「これが経営理念だ」とか「社是だ」と挙げてみたところで、ただそこにあるというだけでは、社員全員がそれに従った行動をとるのは難しい。そこでコーポレートアイデンティティを確立させるために必要なのが、「インナーブランディング」と呼ばれる社内向けの啓蒙活動である。
インナーブランディングは、社内報やイントラネットを活用したり、従業員向けのイベントを開催したりすることで、継続的・計画的に行っていくことが重要である。
クレド、マニュアル、人事評価制度といった目に見えるものだけでなく、日常の会議やコミュニケーションなどの場面においても、あらゆる手段で浸透を図る必要がある。
その結果、社員が自社に誇りを持ってモチベーションを高め、ふさわしい行動を取るようになることで、CIが対外的にもより明確に浸透し、組織的にも強くなることができる。
4.CIの先にあるブランディングを考える
CIの考え方をさらに進めて、市場の顧客・ユーザーに対して、企業の価値や信頼性を積極的に浸透させていこうとするのが「ブランディング」という考え方だ。要は自社のブランドを好きになってもらって、ファンをつくるということである。
現在では多くの企業で、一つのコーポレートブランドのほかに、プロダクトブランドをいくつも所有している例が珍しくなくなった。顧客や商品の特性に合わせてブランドを立ち上げて、それぞれのブランドのイメージに合わせて展開していくといった手法がとられている。
そうした多くの所有ブランドを管理するために、最近では「ブランドポートフォリオ戦略」といったブランドマネジメント法が取られることも多くなってきた。
企業が所有する複数のブランドの商品は、多様な販売チャネルで市場に供給されているが、それぞれのブランドの商品の種類や特性、ターゲットなどが重複する事態が起こることもある。そうした場合に企業内では混乱や非効率が生じてしまう。
こうした事態を防ぐために、複数のブランドを価格帯やターゲットなどによって体系づけ、ブランドに割り当てられる役割や市場の範囲を明確にして管理していくのがブランドポートフォリオの考え方である。
今後も人口減少が続く中で、これまでと同様に商品を作っているだけでは先細りは目に見えている。企業イメージを創出するCIにしてもブランディングにしても、すでに取り組みが一段落している大企業ではなく、中小企業にとってこそ、これからの経営に活かしていく意義がある。