経営ハンドブック

従業員間コミュニケーション

仕事だけではない“会話の場づくり”がコミュニケーションを促す

「社内のコミュニケーションに課題がある」と答えた企業は8割、そして「コミュニケーション不足は業務の障害になる」と感じている企業は6割以上——。人事領域の調査・研究を手がけるHR総研が実施した「社内コミュニケーションに関する調査」(2016年)の結果だ。

従業員同士のコミュニケーションが活発化すると、お互いに知恵を出し合うことによる生産性の向上や、会社へのエンゲージメント(愛着心)が高まることによる離職リスクの低減などが期待できる。従業員同士がコミュニケーションを取りやすくなる施策を紹介する。

従業員間コミュニケーションを高めるポイント

  1. 従業員の相互理解を深める(公式なコミュニケーション)
  2. 雑談できる場を設ける(非公式なコミュニケーション)
  3. ビジネスチャットなどのツールを活用する

1.従業員の相互理解を深める(公式なコミュニケーション)

違う業務や部署の従業員間でコミュニケーションが図れるような制度を設けることも、コミュニケーションの活性化につながる。

あるシステム開発企業では、社員が別の部署で働く「シャドーイング」という制度を設けている。2~3カ月の間の数時間程度だが、部署を横断した社員の交流を促すことで、新しいビジネスチャンスが生まれたり、ほかの部署の優れた取り組みを自分の部署に持ち替えたりといった動きにつながる。経験した社員は、社内にさまざまな仕事があることを知り、自身のキャリアを描くことにも役立っているという。

朝礼、昼礼、終礼と1日3回も全員が参加するミーティングを開催しているのが、佐賀県を中心に事業展開する結婚式場運営企業だ。昼礼では、発表者が見習いたい行動を示した人に感謝の言葉を述べると、全員が拍手するという機会を作っている。ほかの従業員の行動に注意を払うようになり、褒められた人はやりがいを感じる。こうして、従業員同士がお互いを認め合う風土を築いている。

2.雑談できる場を設ける(非公式なコミュニケーション)

従業員同士で意見交換や議論が交わされている環境は、企業へのエンゲージメントにつながり、イノベーションを生む土壌となる。それぞれが置かれている状況や心境を理解し合うことで、メンタルヘルス維持やストレス解消をもたらし、離職率の低下をもたらす。従業員たちが普段から互いの業務を把握し、情報を共有していることは、結果的に違反や不正の発生を防ぐことにもつながる。コンプライアンス(法令順守)の観点からも好影響をもたらす。

ある家具チェーンでは、毎週金曜日の午後3時にお茶会を開く。オフィス内のダイニングキッチンに従業員が集まり、同社の販売する菓子や、持ち寄ったお手製のデザートを食べながら、世間話をする。20分ほどしたら、三々五々、各自の業務に戻っていく。

ただそれだけのことだが、さまざまな効果が生まれている。社内が明るくなる、一体感が生まれる、普段話す機会の少ない他部署の人と面識ができる、ちょっとした打ち合わせであればこの場で済んでしまうなど、業務の効率化にも役立っている。

3.ビジネスチャットなどのツールを活用する

効率的に社内コミュニケーションを活発化させる手段として、社内SNS(交流サイト)やビジネスチャットなどのツールを活用する方法もある。複数のメンバーが直接会って話すのは時間的・物理的な制約があるが、これらのコミュニケーションツールはネット環境やパソコンやスマートフォンなどがあれば、いつでも手軽に進捗確認や情報共有を図ることができる。複数の人間に手軽に同時に文字情報が送れるので、「伝言ゲーム」のように人づてで正しく情報が伝わらないトラブルを防ぎやすい。履歴が残るので、過去のやり取りや進捗を時系列で確認することも可能だ。

京都府に本社を置く部品設計・製作の企業では、社員全員にタブレット端末を配布し、「LINE」の業務用チャットサービスを導入している。顧客からの発注情報や仕様などに関する情報を営業社員が受け取ると、関係する社員全員にチャットで送付。図面などの画像情報も送る。効率的に情報共有が図れるだけでなく、先輩社員からのアドバイスもすぐに得られるため、知識やスキルを伸ばすのにも役立っているという。

なお、「デジタルネイティブ」と呼ばれる若い世代はオンラインでのコミュニケーションになじんでいる一方、50代以上は慣れていない人も多いので、研修等を取り入れてフォローしていく必要がある。

近年多くの企業が取り組んでいる働き方改革の結果、テレワークやコアタイムなしのスーパーフレックスタイム制など多様な働き方が広がっていくことは、従業員同士のコミュニケーション機会を減らしてしまう側面がある。その意味でも、ビジネスチャットなどの活用により、公式・非公式のコミュニケーションを増やすような施策はますます重要になるだろう。

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