経営お悩み相談室
店舗清掃「きれいなお店で新しいお客さまを呼び込もう」(相談室7回目)
文:田中聡子(中小企業診断士)
皆さま、こんにちは。第7回のお悩み相談室を担当する田中聡子です。
早いものでもう12月。年の瀬の準備に追われている方も多いのではないでしょうか。年の瀬といえば、大掃除も行事の一つ。そこで今回は、清掃をテーマにお伝えします。
今回の相談者は、下町にあるお惣菜屋さん。お父さまの代から、飾らないけれど、毎日食べても飽きない手作りの味わいを提供し続けていて、お馴染みさんの評判もいいようです。
このお店の周辺には、大きな環境変化がありました。駅前に大きなスーパーマーケットができたのです。お客さまの流れがすっかり変わり、近所にあった小さなスーパーは、ついに閉店してしまいました。
しかし 店主さんは「これは、自分のお店を見直すチャンスだ」と考え、新規のお客さまを増やす店づくりに取り組むことにしました。とはいえ、何をどうしたらいいのかわかりません。そんな経緯で、相談をいただきました。
早速お店を訪問し、店内や商品を見せていただきました。試食したお惣菜は、コクやうまみがしっかり出ていて、腕のよさが伝わってきました。「信用のおけるところから材料を仕入れているから、いいものが使えるんだよ」という店主さんの言葉どおり、材料に対するこだわりも感じられます。
でもそれは、お惣菜を食べて初めてわかること。買っていただかなければ、美味しいことには気づいてもらえません。
実は、お店に入ったときに「お客さまが買う気をなくしてしまうのでは?」と気になった点がありました。それは店内に漂う「油」の匂いでした。カレーやウナギ、お出汁の「いい匂い」につられて食事の内容を決めることがあるように、食品を買う上で嗅覚はとても重要です。
特に新規のお客さまにとって、お店の第一印象は味ではなくて店内の「見た目」や「匂い」。古い油の匂いがする店内は、それだけで「古い油を使っているのでは?」、「お店の清掃をきちんとしてないのでは?」と思われて、「こんなお店のお惣菜って美味しくなさそう、体にもよくなさそう」と、期待感を下げてしまうことにもなりかねません。しかも、異物が入っているわけではないので、お客さまはなかなか「店内が匂うわね」とは教えてくれないのです。
この店主さんも自分のお店に慣れてしまい、匂いに気づいていませんでした。お鍋などの調理道具はピカピカですから、原因は、長年使っている厨房の五徳(ごとく)や床などにしみこんだ油の匂いと思われました。そこで早速、お店の大掃除に取り組むことになりました。
「ここまでとなると、自分でするのは大変だな」と言う店主さんに、1回だけ専門家に清掃を依頼することを提案しました。多少のコストはかかりますが、「時間で効率を買う」という考え方です。それと同時に、以下の点もアドバイスしました。
- 依頼した専門家に、自分でできる正しい清掃方法を教わること
- 清掃後の店内を撮影し、ベストの状態を忘れないようにすること
これは、1回だけお店がきれいになっても、自分で維持できなければ元通りになってしまうためです。 こうして、正しい清掃で、きれいな状態を維持できるようになりました。
専門家による清掃が入ってしばらくした後、お店を再度訪問しました。床が以前より明るくなり、あの油の匂いも気にならなくなっていました。店主さんは、専門家に依頼した後も、毎日、教わった方法で清掃をしているとのこと。お客さまからも、「最近お店がきれいね」と言われるようになった、と嬉しそうにお話されました。
清掃は売場では見えなくても、お客様を引き寄せたり、遠ざけたりするカギになります。もし、お店の商品が埃でざらっとしていたら、買う気も薄れ、足も向かなくなりますよね。 特に、見た目だけではその「味」がわからない食料品では、「清潔感」は、お店の印象を変えるだけでなく、食品を美味しく見せることにつながります。
売上高=客数×客単価とは一般的に使われる公式です。でも、ここで言う「客数」は、レジに来てくださったお客さまの人数のこと。レジへお客さまが来てくれるまでには、(1)お店の前を通る→(2)お店に入る→(3)商品に関心を持つ→(4)買い物をするためにレジへ行く、という流れをたどります。汚れていたり、いやな匂いのするお店では、実は、(1)や(2)のお客さまを、買い物をする気にさせずに返してしまっていることがたくさんあるのです。
せっかく来てくださったお客さまを、残念な気持ちでお帰ししたくありませんよね。良いものを提供したいという気持ちがあっても、伝わらなければもったいない。その心遣いを伝えるためにも、ぜひ一度、お店のなかをチェックしてみてくださいね。
掲載日:2011年12月15日
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