経営ハンドブック
生産性向上を社内に根付かせる第一歩
現場での演習とインセンティブが重要
経営者は、生産性を向上させようと、生産性向上の理論や考え方を書籍で勉強したり、コンサルタントに教えを請うたりと熱心に取り組む。ところが、実際には思うような結果を得られない。それどころか、「現場を引っかき回される」と、従業員側に抵抗勢力が生まれてしまう。実は、中小企業においてこのようことが起こるケースは珍しくない。
多くの場合、これは従業員が生産性向上について理解していないことが原因だ。ここでは、初めて生産性向上のための改善を本格的に進めていくうえで、従業員の間に改善に取り組む風土をどのようにつくっていくか、そのポイントを紹介する。
生産性向上を社内に浸透させる際のポイント
- 小さな“不満”から改善してみる
- 「現場が教材」、現場で従業員に考えてもらう
- 成果には報奨金や昇格で報いる
1.小さな“不満”から改善してみる
経営者は、早く大きな効果を出したいと考えがちだ。しかし、生産性の向上は長期的な視点に立って取り組みたい。
初めて生産性向上に取り組む従業員は、大学で生産管理を学んだことがある従業員などを除き、その手法に関する知識を持っていないことが多い。日々の仕事に忙しく問題意識がないために、なぜ生産性向上に取り組まなければいけないのか、その意図を理解しない場合もある。そうであったとしても、普段の業務の中で、製造装置の位置が使いづらいところにある、運搬が面倒な工程があるといった不満がまったくないという従業員は少ない。
こでまず、自分たちが普段の業務で感じている「時間がかかりすぎている作業」「身体的負担が大きい作業」などを挙げてもらう。その中からすぐに改善を実行できる問題点を抽出、改善してみる。例えば、現場のちょっとした設備の移動など、その日のうちに完了できる改善を選んで実行する。こうした取り組みを続けていると、従業員は少しの工夫で「自分たちの作業が楽になる」と認識するようになる。これにより改善の意識が芽生え、生産性向上の目的や手法を理解できるようになるケースは多い。
2.「現場が教材」、現場で従業員に考えてもらう
次に、現場から改善について自由に意見できる環境をつくっておくと、経営者やリーダーでも気づかない細かな問題点が報告されるといったことも起こり始める。このとき、報告された問題点に対して、リーダーは自らが解決策を打ち出すのではなく、「どのように解決するのがいいと思うか?」と従業員に問いかけて考えさせることが大切だ。この過程を通じて、従業員は問題解決能力を高めていく。いわば、現場を教材とするわけだ。
3.成果には報奨金や昇格で報いる
ところが、この手法を続けていると、ある程度の改善が進んだ段階で、改善の進行は鈍る。生産性向上の理論を学んでいないため、担当工程の作業の工夫はできても、ライン全体の業務最適化などまでに考えが及ばないためだ。
そこで、この段階になったら、理論を習得させる。社内の管理職が教育を施してもよいし、外部から講師やコンサルタントを招いて研修を実施してもよい。既に現場を変える習慣が芽生えつつある従業員に生産性向上の理論や指標となる数値などについて学ばせることで、次のステップに進める。
この段階でも、ただ理論を教え込むだけではなく、演習も併せて実施する。経営者やリーダーから「こういう経営指標を改善したいが、どうすれば実現できそうか」と問いかけ、従業員に答えさせる。従業員による考察と回答、リーダーによる修正を繰り返しながら、改善のセンスを鍛えてもらう。
改善に効果が出て、作業時間の短縮や労力の軽減につながれば、従業員にとってそれがインセンティブともなる。とはいえ、従業員の改善により成果を上げた場合には、できれば表彰したい。実際に具体的な報酬金などを提示している企業のほうが、現場から多くの提案が出てくる傾向にある。報奨金ではなく、生産性を向上させた部署や担当者を集めて社費で振る舞う食事会などを実施する、あるいは人事評価制度として、功績のあった従業員を昇格させるといったインセンティブもある。