経営ハンドブック

DXを進める

2023年 5月 26日

DXを進めるイメージ01

DXを着実に進めるには経営者、担当者、そして外部の専門家の力が必要

中小企業がDXを進めるためには、適切な外部人材の活用や、経営者・DX担当者が多くの役割を果たすと同時に、取組みの実施を通じてノウハウを蓄積しながら、必要な人材の育成に取り組んでいくことが必要だと言われる。また最初は身近なできるところから一歩ずつ進めていき、地道な試行錯誤を繰り返しながら、活動を継続していくのが成功の秘訣だと言われている。

DXを進めるポイント

  1. DXとはなにか
  2. 2025年の崖
  3. DXの導入を進める
  4. DX成功のポイント
  5. DXのコスト
  6. DXに関する補助金・税制

1.DXとはなにか

DXというのはDigital Transformationの略で、直訳すると「デジタル変革」というような意味になる。Transformationの「Trans」は「Cross」という言葉と同義で、「Cross」が「X」と略され「X-formation」と表記されるようになり、Digital TransformationのことをDXと呼ばれるようになった。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土をも変革し、競争上の優位性を確立することとされる。

似たような言葉に「IT(Information Technology)化」という言葉もあるが、決定的に違うのは、DXは、ITなどのデジタル技術を使って、企業や社会に変容・変革をもたらすものであるという点だ。「DX」は目的を表し「IT化」はその手段を表すと言ってもいいかもしれない。

2.2025年の崖

DXが注目されるようになったきっかけは、2018年に経済産業省が発表した『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜』だった。

このレポートにおいて、多くの経営者がデジタル・トランスフォーメーションの必要性を理解はしているものの、実際にはなかなか一歩を踏み出せないでいるのは、次のような理由があるとされている。

○既存システムの複雑化・ブラックボックス化

  • 事業部ごとにシステムが構築された結果、複雑化し、全社横断的なデータ利用ができない。
  • 過剰なカスタマイズがなされ、個々のシステムに独自ノウハウが存在。何らかの理由でこれが消失した際、システムがブラックボックス化する。

○経営者と現場サイドのDXに対する希望の乖離

DXの実行には、既存システムに関する問題解決、そのための業務の見直しが求められる。経営者がDXの実行を望んでいても、業務の見直しなどには現場サイドの抵抗も大きい。

この課題が解決できない場合、DXが実現できないだけでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の3倍)という経済損失が生じる可能性があるとされ、DXレポートでは、これを「2025年の崖」と呼んでいるのである。

3.DXの導入を進める

経済産業省では2020年に「DX認定制度」および「デジタルガバナンス・コード」を発表し、日本の企業にDXを推進するよう背中を押していたが、当初のDXは大企業を中心に進められていた。このような状況を受け、2022年4月には「中堅・中小企業向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」が発表されている。

そこでは「中小企業がDXを進めるためには、適切な外部人材の活用や、経営者・DX担当者が多くの役割を果たすと同時に、取組みの実施を通じてノウハウを蓄積しながら、必要な人材の育成に取り組んでいくことが必要」と記されている。

つまり最初から自社の人材だけで変えようとするのではなく、外部人材の力も借りながら、DXに取り組む過程を通じて段階的にノウハウを蓄積し、必要な人材を育成していけばよいということだ。

まずは優先順位を明確にした実施計画づくりを行い、それに沿った形でDX実現のためのプロセスを踏んでいくことになる。

中小企業におけるDX実現に向けたプロセスはおよそ以下のようなものだ。

DX実現に向けたプロセス

各プロセスの中心的な担い手は、「意思決定」「全体構想・意識改革」が経営者であり、「本格推進」「DX拡大・実現」が社内のDX担当者ということになろうが、必要に応じて経営支援機関やITコーディネーター等の外部人材の活用および内部人材の育成が必要になる。

4.DX成功のポイント

(1)気付き・きっかけと経営者のリーダーシップ

  • 中小企業等のDXにおいては、経営者のリーダーシップが大きな役割を果たす。
  • とくにDXの推進に取り組む「きっかけ」や「気付き」を得る機会をいかにしてつくるかが重要。

(2)まずは身近なところから

  • まずは身近な業務のデジタル化や、既存データや身近なデータの収集・活用に着手する。
  • その推進過程で成功体験を得るとともに、ノウハウ蓄積や人材確保・育成し、組織全体に拡大する。

(3)外部の視点、デジタル人材の確保

  • 日々発展するデジタル技術を経営に役立てるためには、専門的な知見が必須。
  • 取り組みを迅速に推進するため、外部人材の力を活用しながら不足するスキルやノウハウを補う。

(4)DXのプロセスを通じたビジネスモデル・組織文化の変革

  • データやデジタル技術の活用を進める中で、ビジネスモデルや組織の変革を進め、組織文化自体を変革に強い体質に変えていくことが重要。

(5)中長期的な取り組みの推進

  • 地道な業務プロセスの洗い出しや基幹システムの棚卸に始まる現状把握、ビジョンに沿った課題の設定、解決策の模索から現場の巻き込み、外部の支援者を含めた人材の確保・育成など。長い時間とコストを投じた変革の取り組みが必要になる。
  • 5年後・10年後のビジョンの実現に向けて、戦略的に投資を行いながら地道な試行錯誤に取り組む覚悟が重要。

5.DXのコスト

DXを進めていくためには、ある程度の資金が必要だ。具体的には以下のようなコストの発生が考えられる。

(1)DXに向けた社内体制等の構築費

  • 社内プロジェクトチームの立ち上げ、運用に関する経費
  • 専門家の招聘に要する経費
  • 生産施設や加工施設などの賃貸や建設・改修の費用
  • 機械装置や器具、専用ソフトウェア等の購入、構築、リースに要する経費
  • 各種の外注費

(2)宣伝広告費

  • 宣伝広告に関する経費
  • 展示会出展、セミナー開催、市場調査等に関する経費

(3)人材育成の費用

  • DXに関する研究費
  • 事業の遂行のために必要な教育訓練に関する経費

実際にどの程度の費用がかかるかは、事業の規模や開発の時間、企業の技術力によって異なるが、これらの項目の大半が補助金や助成金の対象になっているため、活用すれば大幅なコスト削減が可能になる。

6.DXに関する補助金・税制

DXを進めたいが、資金がなくてなかなか手が付けられない事業者のために、DX関連の補助金や助成金が用意されている。

【補助金】

(1)ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金

中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するもの。

(2)IT導入補助金

中小企業・小規模事業者がITツール導入に活用できる補助金。これまでの通常枠(A・B類型)に加え、令和元年度補正予算にてセキュリティ対策推進枠が追加され、令和3年度補正予算にてデジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型・複数社連携IT導入類型)が追加された。

(3)事業再構築補助金

新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売り上げの回復が期待しづらい中、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するために中小企業等の事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促すため、新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、又は事業再編という思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援する補助金。

(4)地域新成長産業創出促進事業費補助金(地域DX促進活動支援事業)

地域企業で取組が遅れているDXを強力に推進し、地域企業の生産性を向上させることを目的とし、産学官金の関係者が一体となった支援コミュニティを整備し、地域企業がDXを実現させるために必要な経営・デジタルに関する専門的知見やノウハウを補完するための各種支援活動に要する費用を補助する。

(5)地域新成長産業創出促進事業費補助金(地域デジタルイノベーション促進事業)

地域の特性や強みとデジタル技術をかけあわせ(X-Tech)、新たなビジネスモデルの構築に向けて地域企業等が行う実証事業(試作品製作、事業性評価等)に要する費用を補助し、地域発のデジタルイノベーションの先進事例の創出・普及を目指す。

【税制】

(1)DX投資促進税制(産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定)

ウィズ・ポストコロナ時代を見据え、デジタル技術を活用した企業変革(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためには、経営戦略・デジタル戦略の一体的な実施が不可欠。 部門・拠点ごとではない全社レベルのDXに向けた計画を主務大臣が認定した上で、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資に対して支援措置を受けることができる。

(2)特定高度化情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律

国の指針と適合した特定高度情報通信技術活用システムの開発供給計画の認定を受けた事業者及びそれらを導入する導入計画の認定を受けた事業者は、各種支援措置を受けることができる。

7.経営支援機関の例

中小企業がDXを進めるためには、必要に応じて経営支援機関やITコーディネーターなどの外部人材の活用が必要になることは前に述べた。以下に主な経営支援機関を挙げてみた。

・商工会議所

・商工会

・中小企業団体中央会

・都道府県等中小企業支援センター

・信用保証協会

・信用金庫

・信用組合

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