経営ハンドブック

製造現場の生産性向上

積極的な設備投資、ITやロボット導入

リーマン・ショック後、一時大きく落ち込んだものの、大企業は労働生産性(一人当たりの付加価値額)を向上させている。一方、中小企業を見るとこの30年近く横ばいで推移している。2009年以降、大企業と中小企業の生産性の差は広がり続けている。

しかし、中小企業にも生産性が高く「稼げる」企業は存在している。製造業では約1割の中小企業が大企業の平均よりも高い。こうした企業は設備投資やIT(情報技術)投資などの成長投資に積極的に取り組み、賃金も高い。また、情報セキュリティーなどリスクへの対応も進んでいるのが特徴だ。

製造現場の生産性を高めるには

  1. 積極的な設備投資や研究開発への取り組み
  2. IT導入による業務の効率化
  3. IoT(モノのインターネット)・ロボット・AI(人工知能)の導入

1.積極的な設備投資や研究開発への取り組み

生産性を高めた中小企業には、自社の強みや事業領域を明確化し、設備投資やIT投資など「攻めの投資」を実施、受注を拡大した企業が多い。東北地方の回転機の修理・メンテナンス会社は、もともと大手の協力会社として操業していたが、大型モーターの修理・メンテナンスに集中することを決意、設備投資を積極的に進めた。機械化により、手作業ではこれまで作業員2人で1カ月かかっていたところ、1人でわずか数日で終わるようになった。さらに、モーターの試験設備を導入、性能試験まで一貫して行う体制を確立したことで、取引先の大手企業から高い評価を受けている。

設備投資をはじめ、中小企業の生産性向上には、中小企業等経営強化法に係る支援措置を積極的に活用したい。国は生産性の低いジャンルを中心に、事業分野別に生産性向上の方法などをまとめた指針を策定している。それに基づいて「経営力向上計画」を作成、認定を受けると、生産性を高めるための設備を導入した場合に即時償却または税額控除といった支援措置を受けることが可能だ。

2.IT導入による業務の効率化

中小企業ではITを活用した効率化はまだ遅れており、生産性の向上にはITツールの導入が効果的だ。多くの企業ではITツールの導入によって、業務プロセスの合理化が進み、コストの削減が進んでいる。

もう1つ、大きな効果は「経営の見える化」による意識の向上だ。ITツールの導入や活用に伴い、業務プロセスやコストの見直しが進むことによって、工程や要した時間が明確になり、改善に向けた具体的なアクションにつなげられる。結果として残業が減り、働き方改革が進むという副次効果を生むこともある。

中小製造業が導入を進めるITツールとしては、生産管理システムがある。導入によって、調達の最適化によるコスト削減、見積書作成の迅速化による負荷軽減と顧客満足度向上、生産計画や製造指示書の作成に伴う負荷の軽減といったメリットを得られる。より製造現場に近いものとしては、3D CAD(コンピューターによる設計))やCAE(コンピューターによるエンジニアリング)、CAM(コンピューターによる製造)を中心としたデジタルマニュファクチャリング(デジタル製造)ツールなどがある。

人事・給与・経理といったバックオフィス業務も、パッケージソフトなどで合理化を進めたい。一見、製造現場の生産性向上には関係がないようだが、バックオフィスの省力化によって、営業や製造現場に割くことができる人員や時間が増え、売り上げ向上への意識が高まる。

IT導入に当たっては、IT導入支援事業者があらかじめ登録したツールを使って生産性向上を計る中小企業が導入する際の経費の一部を補助する「IT導入補助金」が設けられている。積極的に活用したい。

3.IoT・ロボット・AIの導入

IoTやロボットの導入は、単純作業や重労働を省力化し、品質の向上や不良品の削減などにつながり、中小企業の生産性向上に非常に大きな効果がある。「ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2018」に取り上げられたケースを見ると、中小企業のロボット導入による生産性の伸びは1.5~3倍程度が多いが、中には10倍以上という会社もある。

労務費を削減、働きやすい環境をつくり出すことによって人手不足の解消や働き方改革にもつながる。

もう1つ、大きなポイントが「匠の技」の見える化だ。熟練した技術者のみが有する感覚や知見を、ロボットやAIを活用することによって、後世へ引き継ぐことが可能となる。ある金型メーカーでは匠の職人にしか捉えられなかった「金型の息づかい」(樹脂の流れや金型の動き)をセンシング技術によってデータ化、見える化することで「匠の技」の継承が可能になった。また、AIを活用して工場長の見積もり作成の知見や、特有の思考回路の見える化・システム化も実施した。

ロボットやIoTを導入した企業では、直接的な効果だけでなく、作業手順の見直しや社員の意識変革、顧客や取引先の評価が高まるなど、導入当初は想定していなかった効果が生まれている。

しかし、導入コストや想定通りの費用対効果が出るかが不安で、リスクを感じている企業が少なくない。近年は国がリードして、ロボット導入実証事業を実施、ロボット導入の成果やノウハウを「ロボット活用ナビ」で発信している。これらを活用して情報収集するとよいだろう。

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