経営ハンドブック

業務プロセスの見直しによる生産性向上

ムダを「見える化」し、自律的に改善する人材を育てる

業務プロセスの見直しは、生産性向上を実現する基本的な方策である。待ち時間や移動時間を削ったり、機械の導入で作業に関わる人数を少なくしたりといった改善の積み重ねが生産性の向上につながる。この結果、給与を増やしたり残業が減らしたりできるので、従業員のモチベーションも高まる。

現場の問題を発見し、対策を講じて成果を評価、さらなる改善に取り組むというPDCA(Plan→Do→Check→Act)を循環させる。この活動を続けることで、会社の収益性も継続的に高まる。

業務プロセスを見直すうえで、押さえておくべきポイントをまとめておく。

業務プロセスの見直しにより生産性を向上させるときのポイント

  1. 業務を「見える化」する
  2. “当たり前”を疑う
  3. 人材を流動化する

1.業務を「見える化」する

業務プロセスを見直すうえで、最初にやらなければいけないのは、作業工程を「見える化」することだ。現場を見ていても、意外とムダには気づきにくい。

例えば、積み上がっている仕掛品を次のラインへ運んで自分の作業に取り掛かる従業員がいたとする。従業員は忙しそうに動き回っているので、一生懸命に働いているように思える。しかし、作業工程を分解すると、仕掛品を運んでいる時間と作業する時間がある。仕掛品を運んでいる時間は、付加価値を生んでいない。従って、積み上げた仕掛品とラインの距離を縮めて移動の時間を短くできれば、生産性は高まる。カイゼン前と後で移動にかかる時間や歩数を「見える化」し、どのぐらいムダを減らしたかを分かるようにすると、従業員の改善に対する意識も高まるだろう。

「見える化」によって作業工程のムダが浮かび上がってくるため、「移動距離を減らす」といった具体策を示すことができるようになる。「この作業にかける時間を何とか減らしてほしい」「この作業とあの作業はまとめてやってもらえないか」といった漠然な指示では、従業員は「そんなことは無理です」と拒絶するだけだ。

ムダをどう解決するかは、現場のリーダーや担当者に考えさせるとよい。最初は、小さな改善で構わない。それによって自分たちの作業が楽になることが分かれば、自律的に改善活動に取り組む人材が育ってくる。

2.“当たり前”を疑う

長年、同じやり方を続けていると、現場は「それが当然」という意識になりがちだ。しかし、よく調べてみると、まったくの思い込みというケースもある。

食品を扱う工場の事例を紹介する。ここでは以前、充填機で個包装したパックを台車に積み上げて、隣の部屋へ運んで異物検査などの検品を実施していた。普通に考えれば、充填した部屋でそのまま検品すればよさそうだが、衛生基準を満たすために部屋を替えていたという。

これに対し、あるコンサルタントから「部屋を区切ればいいのであれば、壁に最小限の穴を開けて、コンベアでパックだけ運べばいいのではないか」という提案があった。衛生基準を検査している組織に確認したところ、その方法で問題がないことが分かった。

早速、壁に穴を開けて、コンベアを設置した。投じた費用は数十万円。パックを台車に積んで運ぶ作業がなくなったので、作り始めてから完了するまでのリードタイムは1時間以上短縮できた。また、運搬を担当していたパートは、ほかの作業に回すことができた。

工場だけではない。オフィスや店舗でも同じように、“当たり前”を疑うことで業務プロセスを見直すヒントが見つかる可能性があるはずだ。

3.人材を流動化する

業務プロセスを見直した結果、従来の仕事をより少ない人数で処理できるようになれば、新規事業の開発などに人員を振り向けて、利益や売り上げの拡大につなげていく。

もし余剰人員を異動できないとなると、現場は「トラブルがあったときには人手が必要になる」といった理屈をつけて変わらぬ人数で動かそうとする。これでは、業務プロセスを見直した意味がなくなってしまう。

異動させる余剰人員は、当該グループのリーダーや改善活動を成功に導いたキーマンから選ぶとよい。こうした人材がほかのグループで活躍することで、全社に改善活動が広がっていくことが期待できるためだ。

複数の持ち場の業務をこなせるスキルを身につけた従業員を育成することも、業務プロセスの見直しにつながる。ホテルを例に取ると、主にフロントを担当する従業員が、食事時はレストランで配膳もするといった具合だ。マルチスキルを持つ人材が増えると、業務の繁閑に合わせて適切な人員を配置することが可能になる。また、人材交流を通じて他の業務内容をお互いに知ることで、異なる職場間の対立などを未然に防げるメリットもある。

マルチスキルを持つ人材を育てるうえで、辞令を伴う異動では現場の負担が大きくなる。ある企業では、出荷量や生産量で繁閑の目安をつけ、閑散期に数人を他グループに送り出す“社内留学”を実施している。新しいグループに移った人はある程度の作業ならこなせる力がつくし、受け入れ側も人材の教育を通じて自分たちの仕事の在り方を見直すことができるとあって、効果のある仕組みといえる。

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