経営ハンドブック
過剰在庫を見直す
2024年 2月 7日
過剰在庫は速やかに処分し適正在庫を維持しよう
予想以上の発注があった時に欠品により取引先に迷惑をかけないように、在庫を多めに確保しようと考えている会社もあるだろう。もちろん、劣化しづらい物でいずれ売れる物であれば、機会損失のリスクを考慮し、在庫を多めに確保することもある程度は有効だ。しかし、過剰在庫というほどに、在庫を抱えてしまうと、在庫維持費用の増加、収益の減少、キャッシュフローの悪化といった影響が生じることがある。過剰在庫を抱えてしまった場合は速やかに処分し、適正な在庫管理ができるよう見直す必要がある。
過剰在庫対策のポイント
- 過剰在庫とは何か
- 過剰在庫になるとなぜ資金繰りが苦しくなるのか
- 過剰在庫が起きる原因
- 過剰在庫を減らすためには何をしたらよいのか
1.過剰在庫とは何か
過剰在庫(余剰在庫とも)とは、本当に必要な需要量よりも多く入荷してしまったために売り残り、倉庫に保管されたままになっている商品のことだ。
過剰在庫は、倉庫のスペースを圧迫するうえ、保管費用や維持費が発生してしまう。倉庫に積み重ねられたままに埃を被り、外箱が劣化することはもちろん、商品自体の劣化も進む。最悪の場合は、倉庫内での落下事故等により、商品が破損してしまうこともある。
商品が劣化しにくいものでも、時間が経てば流行遅れになったり、ニーズに合わなくなり、売ることが難しくなることもある。また、同じ商品の最新バージョンが販売されるようになれば、過剰在庫の商品はほとんど売れなくなり、最終的には廃棄処分せざるを得なくなる。処分のためにさらにコストもかかる。
このようにみると、過剰在庫となった商品は、無駄に保管費用や維持費がかかる上に、処分費までかかり、利益が生まれるどころではないことが分かるだろう。過剰在庫は企業にリスクをもたらす存在であるため、極力生じさせないことが大切だ。
また、過剰在庫は、倉庫にある在庫のうち、まだ売れる見込みがある在庫のことだが、これが品質劣化や消費期限切れなどのために、まったく売ることができなくなってしまうと滞留在庫ということになる。
過剰在庫の時点では、わずかでも利益が出る見込みがあるが、滞留在庫になるとゴミと同じなので、原則として処分以外に方法がない。過剰在庫は、滞留在庫になる前に何らかの手を打つべきなのだ。
2.過剰在庫になるとなぜ資金繰りが苦しくなるのか
商品を仕入れた場合は買掛金が発生し、その支払い義務が生じる。自社で製造する商品の在庫にしても、製造に必要な原材料の支払いが生じる。在庫となった商品がいつまでも売れない状態になると、売掛金が生まれず、支出が発生しただけで資金の流れが止まってしまうことになる。
すると、資金が目減りして他の事業のために使う資金を確保できなくなる恐れがある。過剰在庫というほどに大量の商品がこのように倉庫で止まっていると、キャッシュフローが大幅に悪化し、運転資金が不足する事態になりかねない。最悪の場合は、会社の経営自体に影響を及ぼしかねない。
在庫が倉庫に山積みになっている状態を見ると、「これこそわが社の資産だ」と錯覚する人もいるかもしれないが、在庫のまま、倉庫に眠っているだけでは意味がないことに気付かなければならない。「過剰在庫を生じさせるな」ということは、とりわけ、経理担当者が口を酸っぱくして言うことが多いが、このような資金の流れを見ていれば、危機感を抱くのは当然だろう。
3.過剰在庫が起きる原因
まず、在庫管理を行う担当者がいなくて、適当に発注したり在庫を積み重ねた結果、過剰在庫になっているのは論外であろう。定期的に棚卸しを行い、正しく在庫管理をすることで、発注すべき商品と適切な量を見極めることが大切だ。
適切な在庫管理をしているはずなのに、過剰在庫が生じてしまうこともある。例えば、需要を読み違えて、大量に発注してしまう場合だ。ここでは、需要を読み違えやすい商品の例をみていこう。
(1) 季節物の商品
衣料品や家電製品などで、季節に合わせて販売している商品は、季節が過ぎると売れなくなる。例えば、真夏の時期に冬物のコートや石油ストーブが売れることはほとんどないだろう。
毎年の需要から予想して発注量を設定しても、天候によって計画が狂うこともある。例えば、秋物の商品を仕入れても、いつまでも暑い日が続くと、秋物は予想外に売れなくなる。
次のシーズンまで、倉庫で保管しておけばよいという考え方は、過剰在庫によるリスクを生じさせる原因となる。衣料品などであれば、倉庫で保管する間に虫食いなどでダメになる危険もあるし、家電製品にしても、翌年に新バージョンが販売されてしまうと売れなくなる。
仮に売れたとしても中古品同様の価格で出すことになり、当初の予定よりも売掛金が少なくなってしまうのだ。倉庫に眠らせている間に発生する保管費用や維持費を考えれば、損でしかない。
(2) サイズ展開や多色展開している商品
衣料品や靴など消費者の体に合わせて様々なサイズを展開している商品は、特定のサイズだけ売れ残り過剰在庫となりやすい傾向がある。多色展開している商品も、一定の色のみが売れ残ることはよくあることだ。
このような事態を避けるためには、過去の実績からして、売れ残りやすいサイズや色は発注を少なくするといった調整が必要になろう。
(3) 競合が多い商品
市場では売れ筋の商品は、多めに確保しておきたいと考える企業も多いだろう。しかし、売れ筋の商品は競合も多いため、売れるメーカーが偏っていたりすると、不人気メーカーの商品が売れ残り過剰在庫になることもある。売れ筋の商品でも、競合の商品の販売状況なども加味して、発注する量を決めるべきだろう。
(4) 商品価値が低下した商品
商品価値や魅力が低下した商品は、次第に売れなくなる。出荷状況からそのような状況が予測できたのに、主力商品だからといった理由で、これまでと同様の発注を続けていると、いつの間にか、過剰在庫になってしまう。出荷が減っている商品は、たとえ主力商品でも発注を抑えなければならない。その上で、新たな価値を付加した新商品の開発を行うなどの改善策を検討すべきだろう。
(5) 返品が多い商品
発送した商品が顧客から返品されることもある。返品された分は出荷済みとして新たに発注していることが多いだろう。すると、返品在庫と新たに発注した在庫が積み重なってしまう。注文が多い商品ならば、すぐに出荷できるだろうが、そうでなければ、過剰在庫になってしまう。
誤出荷や初期不良が多い場合は、倉庫管理や商品の問題になるが、返品が多い顧客との取引では、返品されることも見越した在庫管理が必要になるだろう。
(6) ECと実店舗で併売している商品
ECと実店舗と販路が二つあるなら、過剰在庫とは無縁と考えていると思わぬ落とし穴にはまってしまう。販路が二つあるだけに、余分に発注しがちで、結果として適正在庫を把握できずに過剰在庫となりやすいのだ。
(7) 原価低減を目的として生産量を増やした商品
自社で商品を製造し在庫を持つ場合に、過剰在庫となりやすい要因の一つに、生産過剰が挙げられる。生産現場では、商品1つあたりの製造原価を下げる「原価低減」を目的に大量生産を行うこともあろう。その結果、倉庫で過剰在庫を抱えてしまうこともあるのだ。
このような事態にならないためには、生産現場と倉庫の間で情報共有を行って、生産量を調整することや大量生産を是とする生産現場の意識改善、KPI・評価の見直しを行う必要がある。
4.過剰在庫を減らすためには何をしたらよいのか
まず、現在、過剰在庫があるなら、速やかに「売却」するか「廃棄処分」すべきだろう。
売却方法としては、ECサイト等で、セール、アウトレット、訳アリ商品と銘打って、値下げ価格で販売することは、利益は少なくなるものの、廃棄処分よりはましな方法である。
もっとも、頻繁にアウトレットセールをやっていると、消費者もアウトレットセールが始まるまで買い控えする癖がついてしまうこともあるので頻繁に行うべきではない。
ECサイト等でもなかなか売れない商品は、在庫処分業者に引き取ってもらう方法もある。利益はほとんど出ない可能性もあるが、コストをかけて廃棄処分にするよりはましという考えもあるだろう。ただ、在庫処分業者が引き取った商品をどこでどのような形で売るか分からないこともある。そのような場合は企業ブランドが損なわれる恐れもあるので、信頼できる業者とのみ取引することが大切だ。
引き取り手が全くない商品は、残念ながら、廃棄処分するしかない。処分するにはコストがかかる上、これまでの保管費用や維持費が無駄になったことになるが、だからと言って決断を先送りしていたら、ますます、無駄なコストが積み重なるだけだ。
このようにして過剰在庫を一掃したら、今後は、過剰在庫を生じさせないための対策を徹底しよう。適正在庫を保つためには次の点に留意すべきだ。
(1) 自社の在庫を可視化する
過剰在庫は、自社の在庫がどれだけあるのか把握できていないために余分に発注してしまった結果、生じることがある。倉庫にある在庫量を商品ごとに正確に管理し、出荷状況から適切な発注量を判断できるようにすべきだ。
(2) 需要予測の精度を高める
発注する際は、担当者の感覚だけで決めるのではなく、様々なデータに基づいた正確な需要予測を行うことで、適正な発注量を見極めることが大切だ。需要予測の精度を高めることで、過剰在庫を抱えてしまうリスクを大きく下げることができる。
(3) 生産ラインも合わせて把握する
自社で商品を製造し在庫を持つ場合は、生産ラインと合わせて在庫管理を行う必要がある。倉庫内の在庫が重なっている場合は、生産を抑えるべきなのは言うまでもない。生産現場と倉庫、更に販売担当者の間で情報を共有すべきだろう。
こうした対策により適正在庫を維持するためには、在庫管理や倉庫担当者を置いて、管理を行わせるべきだろう。ただ、取扱商品量が多い場合は、人手だけに頼るのではなく、在庫管理システムの導入も検討すべきだ。
最近の在庫管理システムは、IoTデバイスにより、棚の重さなどから商品の実在庫を自動計測できる仕組みがあったり、クラウド上で実在庫データを記録、管理し、様々な部署と共有できるようになっている。更には、AIによって、需要を予測し、発注自体を自動化できる仕組みが組み込まれているものもある。在庫管理システムの導入には初期費用が掛かるものの、うまく利用すれば、在庫管理部門における人手不足の解消につながるし、過剰在庫対策として有効だ。