経営ハンドブック
金融機関との関わり方
財務体質を改善し、予実管理を徹底する
会社は売り上げの伸びとともに、運転資金も増えていく。新規事業立ち上げや新製品開発などでは、資金調達も必要になってくる。上場企業であれば株式や社債の発行による市場からの資金調達も可能だが、多くの中小企業は金融機関からの融資に頼らざるを得ないのが実情だ。そこで、金融機関からスムーズに融資を引き出す体制を整えておくことが大事になってくる。
融資を引き出す3つのポイント
- 自社の強みと弱みを知り、財務指標を良くする
- 経営計画を策定し、予実管理を徹底する
- 金融機関と普段からコミュニケーションを取る
かつて金融機関による融資は、担保主義による融資がほとんどだった。しかし、現在は事業性評価による融資に移行している。これは、定量要因と定性要因を点数化して会社を評価し、融資条件を決めるというものだ。
定量要因とは、決算書の数値を指す。単に「黒字」であればいいというわけではなく、財務諸表などを基に安全性や成長性、債務返済能力などを推定し、評価の対象としている。定性要因としては、「経営者の能力」「市場の将来性・成長性」「経営計画策定能力」「財務管理能力」「販売力・技術力」といった、数値では評価しにくい項目が挙げられる。
中小企業が金融機関とうまく関わってスムーズな融資を受けるためには、定量要因と定性要因の両面から体質強化を図る必要があるというわけだ。
1.自社の強みと弱みを知り、財務指標を良くする
これは定量要因に当たる。決算書は「会社の通知表」と呼ばれる。これまでの経営方針や事業戦略などが売り上げや利益を伸ばしているかどうかが判断できる。これからの方向性を見極めるための指標ともなる。
「 財務の基礎知識」でも説明したように、財務諸表から会社の収益性や安全性、生産性などが分かる。強みを伸ばす施策を講じれば、財務指標を高めていくことができる。
過去は変えられない。しかし、会社の財務指標の数値が着実に改善し説得力のある事業計画を持っていれば、たとえ赤字であったとして、金融機関は「この会社は今後も安全性、成長性、債務返済能力などが高まっていくだろう」と期待し、事業性を評価してくれる可能性はある。
2.経営計画を策定し、予実管理を徹底する
こちらは、定性要因に当たる。経営計画は、自社の強みを正しく把握し、市場の将来性・成長性を踏まえて、どのぐらい業績を伸ばすのか、どのような事業を展開するのかを策定する。会社の将来の姿、目指す方向を明確に示すというわけだ。
経営計画を現場に落とし込むには、各部門の具体的な取り組みとKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定する。それぞれの取り組みについて進捗状況を毎月もしくは毎週など一定間隔で確認し、KPIが未達であれば早急に対策を打つ。こうしたPDCA(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Action=改善)のサイクルを回すことで、経営計画の達成を目指す。
予実管理を徹底して経営計画を必達する体制を作り上げることが、金融機関が経営者の能力を評価することになり、融資の引き出しやすさにつながる。
3.金融機関と普段からコミュニケーションを取る
こちらも定性要因に影響する。資金繰りに困ったときだけ金融機関に相談しても快い返事はもらいにくい。普段からのコミュニケーションが大切だ。月次決算書を作成して業績推移を説明しに毎月1回は出向く、企業の競争力の源泉である「強み」を棚卸しし、過去から現在、現在から未来にわたる「価値創造のストーリー」をまとめた「知的資産経営報告書」を開示するなど、金融機関に会社を知ってもらうようにする。
中には、工場などの現場を見学してもらったり、自社の社員総会や経営計画発表会などのイベントに招待したりして、金融機関と密なコミュニケーションを取ろうとしている中小企業経営者もいる。
財務体質改善のための10項目
- 自己資本重視
利益蓄積により自己資本を充実させ、財務体質を強化
- スリム化
余分な資産は持たない経営
- 経営資源の集中化
得意分野に集中、アライアンス、アウトソーシング
- 利益重視
売り上げ規模より利益規模への転換、コスト意識
- キャッシュフロー重視
キャッシュフロー充実、資産の運用見直し
- 計数管理重視
財務体質改善のための各種財務指標のコントロール
- 時価主義
含み経営からの脱却、実態把握
- 損切り
塩漬け資産の現金化、損失による節税
- 節税とのバランス
節税によるキャッシュフローや財務指標の悪化を回避
- 計画化
経営計画の策定と実行