闘いつづける経営者たち

「手塚 加津子」昭和電気鋳鋼株式会社(第3回)

「ずっと問いかけられていた課題だった」。手塚加津子社長は国内の生産設備を大幅に刷新する。砂を固めて鋳物の型をつくる造型機は老朽化が進んでおり、安定した品質の品物を製造するため投資を決断。材料の鋼を溶かす溶解炉は新たに1台を導入して2台体制にする。手塚社長は「リスク管理の一貫。稼働から40年を超える設備があり、精度のムラや設備のメンテナンスにコストがかかっていた」と背景を説明する。

投資額は十数億円と大型投資だが、国の補助金を有効に活用する。国内の投資を後押しする「国内立地推進事業補助金」の採択を受け、投資を判断した。

タイムリーな決断

同社は月平均400種類の製品をつくる。溶かした鋼を流し込んで鋳物をつくる鋳型はすべて違う。古い造型機では目ではわからないわずかなずれ「はぐみ」が生まれて、不良品につながる。主力の建機のほか、鉄道車両やエレベーターなど同社にしか製造できない部品も多く、「精度の高い製品を最適な納期で納めることができる」と手塚社長。生産効率が改善する利点を見込む。溶解炉は現在、5トン級の電気炉を1台保有しており、新たに3トン級の溶解炉を導入する。

井田豊製造部長は「タイムリーな設備投資。このタイミングでなくてはできなかった」と評価する。手塚社長も「不思議なほど投資の素地ができあがった」と声を合わせる。リーマンショックで抱えた累積赤字を数年で解消し、有利子負債の圧縮も進んだ。金融機関からの信任を得て、借り入れができた。社員主導の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)活動が浸透し、最新設備の効果を最大限に発揮できる体制が整った。

気になる海外の動き

ただ、足元の受注環境は厳しい。手塚社長は「大きく受注が落ち込んだ2008年のリーマンショック以上に悪い印象がある」と業況を分析する。世界のエネルギー事情に変化をもたらしつつある「シェール革命」はその一因だ。従来は困難だった地下深い地層から天然ガスのシェールガスを掘削する技術が確立され、ガスの価格が値下がりしている。そのため「石炭の必要性が薄れつつある。これまでのバブルと言える供給過多の現状を受けて石炭、鉄鉱石の需要が落ち込んでいる」(手塚社長)。資源開発で欠かせない鉱山用建機を買い控える動きがあるという。

それでも鋳鋼を手がける会社で造型機を保有する企業は国内で昭和電気鋳鋼を含む3社のみ。手塚社長は「日本では特殊で高品質の大型鋳鋼部品を最適な納期で納めることができれば需要はある」と言い切る。今回の設備投資は生産量の拡大よりも品質に重点を置いた。業界を見渡すと。小物、中型の建機部品は価格競争力で勝る中国など海外に移管が進んだ。手塚社長は「だからこそ日本のモノづくり力を落としてはいけない」と量より質をにらみ設備投資に踏み切ったのだ。

鋳鋼品は主力の建設機械だけでなく、橋りょうをはじめとしたプラント設備にも使われる。「日本の企業が海外でも優れた素材、製品を求めている。海外にニーズがある」と手塚社長は将来に目を向け、もう1つの決断をした。それが、ベトナムへの進出だ。

プロフィール

手塚 加津子 (てづか かづこ)

1955年東京都大田区生まれ。大学卒業後、母校の私立中等科・高等科で講師として教える。結婚後は専業主婦となり、3人の子どもの子育てに奔走。2001年父で2代目社長の天野和雄氏の死去をきっかけに、2004年総務部長として入社。2007年代表取締役社長に就任、現在に至る。

企業データ

企業名
昭和電気鋳鋼株式会社
Webサイト
資本金
1億円
所在地
群馬県高崎市倉賀野町3250
事業内容
製造業(建設機械や鉄道車両、エレベーター用の鋳鋼製品)

掲載日:2014年4月2日