闘いつづける経営者たち
「笠原健治」株式会社ミクシィ(第3回)
03.ニッチな広告ニーズを取り込む
純広告依存の脱却カギに
mixiの利用者と、企業など第三者の接点を生み出すべく奔走する笠原。企業が自由に作成できるウェブサイトの「mixiページ」では、スターバックスコーヒージャパンやローソンが発信する情報が人気を集めている。笠原の思いは少しずつだが浸透しつつある。
しかし、大手企業が発信する情報は広い層を狙ったものになりがちで、細分化された需要には応えられないことがある。mixiページも大企業や有名人がつくったものが目立ち、個人事業主や一般人のページが埋没してしまう可能性も出てくる。そうなるとニッチなニーズは拾えず、場の活性化につながらないことが懸念される。
もともとミクシィには「SNSなのに、純広告に依存している」(納博司いちよし経済研究所主席研究員)という弱点があり、そこから脱却して利用者と広告主双方の満足を得られるような広告商品の展開が求められていた。
中小企業も利用しやすく
そこで笠原が投入したのが「mAD(エムアド)」という広告商品だ。広告主は希望するクリック数の分だけ料金を払い、その数のクリックが行われたら広告の掲載は自動で終わる。mixiページを宣伝する場合、現時点で価格は20クリック200円からと中小企業や個人事業主にも利用しやすい設定になっている。
エムアドにターゲティング広告機能を追加する構想もある。広告主が申し込みをする際、広告をみせたい顧客の性別や年齢、居住地といった属性情報を指定できる機能だ。例えば美容院経営者の場合、店舗がある自治体に住む女性のみに広告を表示されるように設定することでクリック率の向上が見込める。こうした仕組みが充実すれば、ミクシィが純広告に依存することが減りニッチなニーズにも応えられるようになると期待される。
「ソーシャルアド」にも期待
笠原が今後の横展開に期待をかける広告商品はまだある。米国のスポーツ用品メーカーであるナイキに提供した「ソーシャルアド」という仕組みだ。SNSの利用者同士のつながりを情報として取り込み、広告画像などに反映する手法を指す。
ナイキの例では利用者が自分で靴のデザインをし、広告画像上に表示してmixi上の友達にみせられる。閲覧者の画面には「(友人の)○○さんが作った靴」などと表示され、注目を集められる。笠原は「友人との対話の一環としての広告なのでクリック率が非常に高かった」と振り返り、mixiの強みである濃い人間関係を活用できたことに満足感を示す。
ただ、これらの取り組みは最近散発的に始まったばかり。今後、成功事例の汎用化や量産化をどれだけの速度と規模で進めていけるのか。笠原の正念場はこれからだ。
プロフィール
笠原 健治 (かさはら けんじ)
1975年12月6日、大阪府生まれ。東京大学経済学部のゼミで学んだITビジネスの事例や、米国におけるインターネットビジネスの興隆に触発される。紙の求人情報誌を見てアルバイト採用に応募するのが非効率的だと感じたことなどがきっかけで、在学中の97年に求人情報サイト「Find Job!(ファインドジョブ)」を開始。企業からの受注を伸ばし、ITの世界で生きていくことを決意する。1999年イー・マーキュリー(現ミクシィ)として法人化し、社長に就任。01年に東大を卒業。04年に参加交流型のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「mixi(ミクシィ)」を立ち上げ、現在に至る。休日もインターネットへアクセスし、新しいサービスを構想していることが多いという。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ミクシィ
- Webサイト
- 設立
- 1999年(平11)6月
- 資本金
- 37億6500万円
- 所在地
- 東京都渋谷区東1の2の20
- Tel
- 03-5738-5900
- 事業内容
- 参加交流型のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)運営
- 売上高
- 132億2900万円(11年3月期)
掲載日:2012年5月7日